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日米の家計格差が拡大 原動力は「ボーグルの愚行」 インデックス投信の「聖地」訪問記(2)

 

2016/11/17

バンガードの創業者、ジョン・ボーグル氏の像

 11月9日、ドナルド・トランプ大統領の当選の前後に世界で株価や為替が大きく変動した。「次にどうなるのか」を血眼になって当てようとする投資家が多い中、すかさず米バンガード社は同社のサイトなどを通じて投資家向けにメッセージを発した。

■「トランプ大統領」でも揺るがず

 簡略化すればこんな内容だ。「ポートフォリオに変更を加えるべきか? 答えは『いいえ』です。ブラックマンデーや金融危機、英国の欧州連合離脱など大きな出来事はあっても、変動は時と共に減少します。明確な投資目標を定めた上で、長期・分散・低コストの視点を持つのが大事です」

 確かに過去も市場は大きな変動を繰り返した。それでも株式を中心としたリスク資産を持ち続けることが重要であることを表すのが、日米家計金融資産の推移だ(グラフA)。

 過去20年で米国の家計金融資産が3.1倍に伸びたのに対し日本は1.5倍。この取り返しがつかないほどの差は、株式や投信などの運用益の違いによって主にもたらされた。

 米国の投信残高の増加を特に引っ張ってきたのが低コストのインデックス投信だ。株式投信に占める比率がわずか4%だった1995年から、2015年には22%に上昇した。上場投資信託(ETF)を含めるとインデックス投信の比率は3割前後になる。

 ジョン・ボーグル氏が創業したバンガードは1976年に初めて個人向けのインデックス投信を発売した。今も運用残高の4割を占めインデックス投信のシェア第1位。会社の資産全体でも15年度末で約330兆円で世界最大級だ。

■回り続ける成長の好循環

 「カイゼン」。米ペンシルベニア州の米バンガード本社では、日本のトヨタ自動車で生まれたこの日本語が日常的に飛び交う。信託報酬(総経費率)の平均が全米の5分の1、日本の10分の1(純資産の加重平均ベース)のバンガードだが「さらにコストを下げる日常的な試み」(カイゼン担当のテッド・ヘッシング氏)だ。

 IT(情報技術)部門などでクルー(従業員)が自主的に改善点を発見し、アイデアショップで発表し、効果があったものはそれを広く共有する。例えば「サイトのプロトタイプを作る手法の改善点についてクルーが発案、実行したところ1人あたり週に1時間時間が短縮でき、それをチーム全体で共有することで全体で数百時間が短縮できた」(ヘッシング氏)。

 投信コストをさらに引き下げる直接的な取り組みも継続されている。「とても大変だった」と振り返るのはエクイティ・インベストメント・グループのライアン・ルイド氏。同社は12年から13年にかけて、主要投信22本の連動指数を軒並み切り替えた。切り替え先の指数を採用すればいずれも投資対象をより広く分散できるうえ、ライセンス料が低かったからだ。

 こうしたコスト削減努力と残高拡大が相乗効果となり、例えば新興国の株式指数に連動するETFの信託報酬(経費率)は11年の0.22%から14年には0.15%へ3割も低下した。「高騰するライセンス料を投資家に背負わせ続けるわけにはいかなかった」(ルイド氏)

 マネジング・ディレクターのクリス・マカエザック氏は「低コスト→長期の好成績→高品質なサービス→投資家のロイヤルティーの高まり→持続的な資金流入→規模の経済→より低コストの実現――という好循環のフライホイール(ハネ車)を回すことを強く意識している」と話す。

 「フライホイールを最初に回すのは結構大変だ。しかし最近は、かなりの速度で回るようになっている」(マカエザック氏)

■ボーグルの愚行と呼ばれた創業当初の苦難

 実際、バンガードの歩みは当初は順調ではなかった。76年の初の個人向けインデックス投信の販売当初、1.5億ドルを見込んだのに集まったのはその7%の1100万ドル。市場平均に連動するというコンセプトが当初は受け入れられなかったためだ。会社の運用資産は80カ月連続で減少を続け、「ボーグルの愚行」と冷笑された。

 しかしやがてインデックス投信の有利性が徐々に知られ始める。経済学者ポール・サミュエルソン氏、同バートン・マルキール氏、著名コンサルタントのチャールズ・エリス氏などが繰り返しインデックス投信の効用を説き続けたことなども後押しした。

 グラフBでわかるように運用担当者の腕で平均を上回ろうとするアクティブ投信が14年までの10年間で市場平均を上回った比率は米、英、オーストラリア、スイスともに2割程度だ。日本でも類似の結果が頻繁に報告されている。

 今や市場は豊富な知識を持ったプロ同士の戦いの場。ずっと勝ち続けるのは容易でない一方、アクティブ投信は高い費用がかかり続けるのがインデックス投信になかなか勝てない要因だ。

■インデックス投資家への誤解

バンガード本社のボーグル像。来訪者が自分も一緒に写真を撮ることが多い人気スポットだ

 インデックス投資家が増えていることへのネガティブな意見もある。代表的なものが「ダメ会社まで一律に買うので市場の効率性を下げる」というものだ。この点について、バンガード取材に同行したカリスマブロガー、水瀬ケンイチ氏(43)がかつてブログで書いた意見を紹介したい。

 水瀬氏はインデックス投資家が、アクティブ投資家が手間をかけて付けた価格に「ただ乗り」しているという面は素直に受け入れる。「ただし」と水瀬氏は続ける。「今でもアクティブ運用の資金は全体の7割程度を占めているので、ダメ株があれば通常、多数派であるアクティブ投資家により売り込まれ、株価は非常に低いものになっています。つまりインデックス投資家は指数採用銘柄に均等配分で投資しているのではなく、ダメ企業への投資比率は非常に低いものになっているのです」(水瀬氏)

 あたかもインデックス投資家が指数採用銘柄に均等に資金を配分しているようなイメージが世の中にかなりまん延しているが、確かにこれは明確な誤解だろう。

 価格発見機能をアクテイブ投資家に頼っている点についても、その責務を積極的に担うべきなのは豊富な情報力と人材を抱える機関投資家であり、個人投資家にそれを負わせるのは酷な気もする。

■投信文化は日本にも根付くか

9月下旬、バンガード本社近くのホテルで開かれたボーグル・ヘッド・カンフェランス

 9月下旬。米ペンシルベニア州のフィラデルフィア市の郊外にある小さなホテル「デズモント」は、全米からの200人を超える来客でごった返していた。バンガードの創業者、ジョン・ボーグル氏のファンたちのグループ「ボーグル・ヘッド」が毎年開く「ボーグル・ヘッド・カンフェランス」だ。「ボーグル・ヘッド」というのは「ボーグルさんのことで頭がいっぱい」とでも訳すべきだろうか。

 年齢は30代から70代を中心に様々。パーティー会場で語り合ったり、バンガードの役員を交えたセミナーを聞いたりして過ごす。投信文化が根付いた米国で、しかも前回書いたように投資家自身が会社の株式を所有するというバンガードの特異な個性が、熱烈なファンを増やし続けている。

 米国の家計金融資産の拡大に日本がこれから追いつけるか。その実現性は、こうした投資文化や、投資家をひき付ける魅力的な運用会社が日本でも育つかどうかにもかかっているのだろう。

(編集委員 田村正之)

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