相続・税金

ぼくらのリアル相続

かえってもめる「ウチは相続対策不要」の3大勘違い 税理士 内藤 克

2016/11/18

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「うちには大した財産はありませんから……」
「うちは長生きの家系ですから……」
「うちは兄弟みな、仲がいいですから……」
 相続対策はまだ必要ないと考えている人の話を聞くと、理由は大体この3つに分類されます。他には「相続対策に興味を示すと生命保険や不動産の営業を受けるからイヤだ」という思いや、どこの家にも1つや2つはある「人に言いたくない話」をしなければならない煩わしさで相続対策から遠ざかる、といったケースもあるようです。そういう場合は別として、冒頭の3つの理由には実はそれぞれ大きなリスクが存在しているのです。

■「大した財産はない」方がよっぽど苦労する

 大した財産かどうかは感じ方に個人差があるので一概には言えませんが、冒頭のような発言をする人は、相続税がかからない程度の財産のことを「大した財産ではない」と思っているのかもしれません。要するに「相続税はお金持ちの税金であって、我々庶民には関係ない」と考えているのでしょう。

 ですが、2015年から相続税の基礎控除は大幅に下がっていて対象者は増えているため、油断はできません(それまでの「5000万円+1000万円×法定相続人の数」が「3000万円+600万円×法定相続人の数」になり、4割減に)。また「住宅ローン(借金)が多く残っているから財産から引けるんじゃない?」といっても、これは死亡時に団体信用生命保険で完済されるため債務控除はないことになります。

 さらに相続財産が自宅だけの場合、場所によっては相続税はかからないかもしれませんが、法定相続分に基づいた分割は難しくなります。遺産分割の材料である預金など流動資産が少ないため、分割財産の選択肢が乏しくなってしまうからです。つまり「大した財産がない」方が分割では困ってしまう可能性が高いのです。このような場合は生命保険への加入や資産の売却などで、手元の流動性を高めておかなければなりません。

■「健康寿命」が残っているうちに対策を

 最近は健康寿命の重要性が意識されるようになりました。健康寿命とは健康上の問題がない状態で日常生活を送れる期間をいい、平均寿命と健康寿命との差は男性で約9年、女性で約13年といわれています。この間に認知症などを患うと自分の意思表示ができなくなり、契約などの法律行為が不可能になります。

 その場合は裁判所によって法定後見人が選任され、後見人は本人の利益を考えながら法律行為の代理を務めることになります。本人がたとえ遺言を書いていてもそれに従ってお金を動かせるのは相続開始してからの話で、生きている間の財産処分は自由にできなくなります。もし孫に対して「お前が大きくなったら、おじいちゃんのお金でイギリスにサッカー留学させてあげるからね」といって長年にわたってお金を積み立てていたとしても、認知症になって後見人が選任されてしまうと、その約束は事実上そこまで。後見人は他の相続人とのバランスを考えて積極的な贈与をさせてくれなくなるのです。

 このような場合の対策としては「民事信託」(家族信託)が有効になります。民事信託は07年の信託法の改正により始まった制度で、本人の財産を子供に信託して、財産名義を移したうえで管理してもらうというものです。しかしながら、この信託契約そのものも認知症などで意思表示ができなくなった後ではできないのです。

 人間、寿命があらかじめわかっていれば余裕をもって対策を講じる時期を決められますが、こればかりは誰にもわかりません。なので「長生きの家系だから」と安閑と構えているのではなく、健康なうちに自分の財産をどう使ってほしいのかを意思表示して、法律的な手続きを済ませておく必要があるのです。

■兄弟は仲がいいというけれど……

 「うちの兄弟は子供の頃から仲良しだ」といっても、いつまでも兄弟姉妹の仲がいいとは限りません。事業に失敗してお金を工面しなければならなくなったり、結婚した配偶者が上手に親戚付き合いできずに疎遠になったりするなど、環境が変われば仲の良かった兄弟の関係も不安定になってきます。本人たちだけなら問題がなくても、それぞれの配偶者が出てくるとトラブルが顕在化します。

 特に、兄弟姉妹の配偶者同士がもともと折り合いが悪かった場合は、相続となるとまるで代理戦争のようになり、兄弟同士が何年もの間争うことになります。親の介護をするのは実の息子ではなくお嫁さんであるケースも多く、ちゃんと介護費用に使っているのに、後で「母のお金を一体何に使ったんだ!」と資金使途について兄弟から厳しく追及されることもあります。親は自分が生きている間に子供同士のトラブルなど見たくないものですが、子供としては親が生きている間に、遺言などできちんとした意思表示をしてほしいものです。

内藤 克(ないとう・かつみ) 税理士法人アーク&パートナーズ 代表・税理士。1962年生まれ、新潟県長岡市出身。90年に税理士登録、95年に東京・虎ノ門で個人税理士事務所を開業。97年に銀座で税理士・司法書士・社会保険労務士による共同事務所を開業。2010年に税理士法人アーク&パートナーズを設立。弁護士ら専門家と同族会社の事業承継を中心にコンサルティングを行っている。事例中心のわかりやすい講演にも定評あり。「士業はサービス業である」ことを強く意識し、顧客満足度を追求。日本とハワイの税法に精通し、ハワイ税務のコンサルティングも行っている。趣味はロックギター演奏。

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