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カラオケで気分スッキリには、科学的根拠があった

日経Gooday

2016/11/26

カラオケをすると、あるホルモンが減少するそう。そのホルモンって?(c)Shojiro Ishihara-123rf
日経Gooday(グッデイ) カラダにいいこと、毎日プラス

 最近は「ひとりカラオケ(ひとカラ)」を楽しむ人も増えてきた。カラオケボックスは他の客の目が気にならないので、「ひとり焼肉」や「ひとりフレンチ」に比べてずっとハードルが低い。単に「大きな声で歌っていい気持ちになりたい」人にはうってつけ、ということだろう。それにしても、どうしてカラオケは気持ちがいいのだろう? ストレスが発散されるというのは経験的に分かるが、エビデンス(科学的根拠)はあるのだろうか?

■カラオケの後はストレスホルモンが減少する

 カラオケで歌うとストレスが発散されるというのは経験的に分かるが、エビデンス(科学的根拠)はあるのだろうか?

 「ええ、カラオケには確かにストレス解消効果があるんですよ」と話し始めたのは、第一興商と共同で「歌の健康効果」を調べた鶴見大学歯学部教授の斎藤一郎さんだ。

 実験に参加したのは60歳以上の高齢者44人。好きな曲を3曲歌ってもらい、その前後で唾液の量、唾液に含まれる「コルチゾール」の量、気分の変化を調べたという。

 なお、コルチゾールとは腎臓の上の副腎の周りにある「副腎皮質」から分泌されるホルモン。心身がストレスを感じると分泌され、ストレスから体を守ってくれる。ストレスホルモンとも呼ばれ、体が感じているストレスの指標とされる。

 コルチゾールは本来、体をストレスから守るために分泌されるのだが、ストレスが強くて長時間分泌され続けると、いろいろと弊害も起こってくる。副腎に負担がかかることで免疫力が低下し、眠りを促すセロトニンやメラトニンといったホルモンの分泌が抑えられて不眠を招く。また、コルチゾールにはインスリンの働きを弱める作用もあり、血糖値を上昇させてしまう。「ストレスは万病のもと」といわれるのも納得だ。

 実験の話に戻ろう。好きな歌を3曲歌った結果、歌う前に比べて唾液の量は増え、コルチゾールは減った(下グラフ)。気分が明るくなり、「緊張」や「抑うつ」といったネガティブな感情も改善した。

平均年齢64歳の男女44人に、それぞれ好きな曲を3曲歌ってもらい、その前後で唾液の量、唾液に含まれるコルチゾールの変化を見た。カラオケの後ではコルチゾールが減っていたことから、感じていたストレスが減ってリラックスしたことが分かる。歌の好き嫌いに関係なく、どちらも同じ結果になった。唾液量は増えていた。(Biopsychosoc Med. 2014 May 21;8:11)

 なぜ歌うと唾液が増えるのだろうか。「口の周りの筋肉を使ったというフィジカル面と、歌うことで副交感神経が優位になったというメンタル面、2つの理由が考えられます」と斎藤さんは説明する。

 副交感神経は、リラックス状態のときに優位になる。唾液は副交感神経が優位のときによく出て、逆に、交感神経が優位のときにはあまり出なくなる。緊張すると口の中が乾くのは、交感神経が優位になって唾液の量が減るためだ。コルチゾールの減少や気分の変化を見ても、確かに歌うことがストレス解消につながることが確認されたわけだ!

■表情筋が動くことで記憶がよみがえる

 ここで、「それって歌が好きな人の場合でしょ?」と思った人もいるだろう。好きなことをやればストレスが発散されるのは当たり前だ。歌が苦手な人や、人前で歌うことに逆にストレスを感じる人だって少なくないのでは?

 ところが、「歌が好きな人ばかりではありません。この実験では、歌が嫌いな人、うまく歌えなかったという人たちも、同じように唾液が増え、コルチゾールが下がったんです」と斎藤さんは意外な指摘をする。

 なぜだろう? 考えてみれば不思議だ。その理由について、斎藤さんは「笑う門には福来たる」という言葉を出して推測する。

 「楽しくないときでも、笑顔を作ることで楽しい気分になる。それは笑って楽しかったときの記憶がよみがえるためです。歌っているときは顔の表情筋が動くでしょう。その結果、幸せだった記憶や楽しかった記憶がよみがえり、コルチゾールが下がるのではないかと思われます」(斎藤さん)

■唾液の量が増えることでアンチエイジング効果も

 カラオケで唾液の量が増えることはアンチエイジングにもつながる。

 口は全身の中でも老化が表れやすい部分だ。年を取ると歯周病で歯の本数が減り、かむ力や飲み込む力も衰えるが、それと同時に唾液の分泌量も減っていく。

 健康な人は1日1.5Lもの唾液を出している。唾液は単なる水ではない。抗菌成分、消化酵素、上皮(皮膚や体内の器官の表面)や神経の成長因子などが含まれている。「口の中の傷が治りやすいのも、唾液に含まれる上皮成長因子のためといわれています」と斎藤さん。昭和の昔、ちょっとした傷は「ツバをつけとけば治る!」なんて乱暴なことをいわれたものだが、意外に医学的根拠もあったわけだ。

 したがって、唾液が少なくなると、いろいろなトラブルが起こる。

 まず、胃を痛めやすくなる。唾液にはアミラーゼという消化酵素が入っているので、分泌量が減るとそれだけ胃に負担がかかる。また、私たちは唾液を無意識に飲み込むことで胃酸を中和している。唾液が減ると胃酸過多になりやすい。

 さらに、細菌が歯や歯ぐきに長時間とどまり、虫歯や歯周病のリスクが高くなる。さらに「口の中の悪玉菌が増えるため、口臭も強くなるし、口角炎も起こしやすくなります」と斎藤さん。

■楽しいとき歌い、つらいときも歌う

 唾液はストレス、筋力の低下、服薬、加齢などによって分泌量が減るが、「心身ともに健康な人は年を取っても唾液が減らない。唾液の量は健康度のバロメーターなんです」と斎藤さんは話す。唾液の分泌量が多い男性は血液中のDHEA(長寿ホルモンの一種)の数値が高かったという実験結果が得られている。

 唾液腺は筋肉に裏打ちされているため、口の周りの筋肉を鍛えると唾液の分泌も増える。ガムを愛用するのもいいが、斎藤さんのイチ推しは「カラオケ」だ。

 「古来、人間は歌で喜怒哀楽を表現してきました。楽しいときに歌い、つらい作業や悲しみを耐えるためにも歌ったのです」(斎藤さん)

 ストレスを解消し、唾液を増やしてアンチエイジングや口臭予防にも役立つ歌。アルコールなどと違って、体へのダメージも少ない。カラオケは老若男女を問わない健康的なストレス解消法なのだ。

(ライター 伊藤和弘)

■この人に聞きました

斎藤一郎(さいとう いちろう)さん
 鶴見大学歯学部病理学講座教授。1954年生まれ。松本歯科大学卒業。米スクリプス研究所研究員、東京医科歯科大学難治疾患研究所助教授、徳島大学歯学部助教授を経て、2002年から現職。ドライマウス研究会代表。日本抗加齢医学会副理事長。2015年、共著書『健康に長生きしたければ1日1曲歌いなさい』(アスコム)を刊行した。

[日経Gooday 2016年10月19日付記事を再構成]

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