ニコン「D500」 飛ぶ鳥も爽快に撮れるのに心揺れる
落合憲弘の「へそ曲がりデジカメ生活」
たぶん、欲しい人は、とうの昔に手に入れているハズ。とっくに使い倒しているに違いない。「とう」だの「とっく」だのと、日本語ってのはホントに奥深いものでして……というハナシはさておき、ニコン「D500」、よい子のみんなは、もう買ったかなぁ~?
その登場を知ったときには正直ビビリましたぜ。私は「D300Sの後継機は、もう登場しないに一票!」の立場をずーっと堅持してきていたつまらぬ男だからだ。デジタル一眼レフに対し、ニコンは完全にFXフォーマット(フルサイズ)に舵を切ったと考えていた。だって、フラッグシップである1桁シリーズの着実な進化のみならず、例えば「D600」という"より身近に接することのできるモデル"が登場したり、「Df」という実験的要素を含めた派生モデルが誕生したり、「D750」で見せたフルサイズ機としての新たな提案がまぶしかったり、さらにはFXフォーマット対応レンズのラインアップが単焦点レンズを含めここ3~4年でググーンと充実ぅ~、なんてことが続いていたんだもん。「D600」に関しては、「D610」への素速いマイナーチェンジというヤル気マンマンの出来事もあったしねぇ(え? そりゃヤル気じゃなくオトナの事情!?)。
ま、要するに「DXフォーマットなどもはや眼中にナシ」的なニオイを感じ取ってしまうのも仕方のない状況ではあったのだ。しかも、追い打ちをかけるように、D7000からD7100へのモデルチェンジが、やっつけに見えなくもないアレだったという……。その反動か、D7200は地味に相当よくなっているのだけど。
そんなこんなで、DXフォーマットの一眼レフで残存するのは3000番台と5000番台だけで、それも遠くない将来「ニコン1じゃないミラーレス機」に取って代わられる……というのが、D300を最後にDXフォーマットとは縁を切っていた(フルサイズに移行していた。ただし、のちに気まぐれ?でD5500を入手)私の手前勝手な未来予想図だったのである。
でも、ニコンは満を持してD500を送り出してきた。私の描いた未来予想図は、ドリカムも思わず目を背けるであろう無残なまでの大ハズしだったワケでして。いやはや面目ない……。
動きが予測できない被写体を撮る際の爽快感はピカイチ
先行する競合機に劣る部分はわずかでも残してはならないという意気込みで作り込まれてきたのであろうその仕上がりは、まさしく「DXフォーマットのフラッグシップ」を名乗るにふさわしいものだ。キヤノン「EOS 7D Mark II」との世間的な比較判定には、好みや判断基準により相応のブレが伴っているようだけど、個人的にはD500の方が総合力には勝ると捉えている。まぁ、いってみりゃ後出しじゃんけんみたいなものなので、こうなるのは必然であるし、こうならなきゃ許されなかったというのも現実だろう。開発陣は、けっこうなプレッシャーを抱えていたものと想像する。
動体に対する対応能力についても、EOS 7D Mark IIよりD500の方があらゆるシチュエーションで安定した結果を導くとの印象ではある。ただし、この点は、カメラを使う人間がどれだけそのボディーの扱いと被写体に慣れ親しんでいるかによっても結果や印象に差が生じるので、一概にはいえない。自分で「よい」と感じた方が自分にとって「よい」カメラ……EOS 7D Mark IIとの違いは、それでカタがつけられる程度のものとの判断で実質的には差し支えないだろう。
さて、何はともあれ動くものを射止めるために生まれてきたような一眼レフであるからにして、ここではまず飛んでいるカモメをなるべくアップで撮ることにチャレンジ、その実力を確認してみることにした。私は「AFが優れる」とか「動体向き」とされているカメラを試用するときは、飛んでいる鳥を撮りその実力判定の参考にすることが多い。なにゆえ飛んでいる鳥なのかといえば、数ある動体の中でもキッチリ撮るのが非常に難しい被写体だから。決まったライン上を何度も走ってくれるレースより、数百メーター離れたところで離着陸をする旅客機より、そして新幹線の運転台で足を投げ出している様子を捉えるより、目の前を勝手気ままに飛ぶ鳥にピントを正確に追従させ続ける方がカメラにとってはよっぽど大変なコトだと考えているのである。さらに、あえていうまでもなく、同じコースを二度と飛んでくれないところは、カメラを扱う人間にとってもツラいところ……。
一方、例えば同じカモメでも、航行中の船と並ぶように飛んでいるものだったり、向かい風を受けほぼホバリング状態にあるものなら、コンデジでも簡単に撮れる。だから、D500を持ち出している今回は、そういう状況では撮っていない。コンデジでも撮れるものを撮っていたのでは、D500に失礼だからね(笑)。
D500を手にこういう被写体を追っているときは、まさしくハンター気分だ。バッチリ決まったときの爽快感は相当なものである。でも、前半の作例でお見せしているようなバチピンのド・アップばかりを狙っていると、ぶっちゃけキマるよりキマらないコトの方が多い。打率は決してよいとはいえないのだ。王・長嶋の通算打率ぐらいいけばいいほうかなぁ……。
でも、これは、D500が有するAFの動体対応能力と連写能力があってこその"好打率"でもある。ミラーレスを使っていたら、おそらく来期は二軍落ち確定の結果しか出せないだろう。いや、ひょっとしたら窓際の肩たたきレベルかも? 動体撮影能力を飛躍的に高めてきている昨今のミラーレス機ではあるけれど、「街中を走るクルマ」とか「ホームに滑り込んでくる在来線」などの"並の動体"ならともかく、目の前をスピードに乗って飛ぶカモメに対峙したときに思い通りの仕上がりを得ることは、ハッキリいって現状では不可能だ。間違いなくこれは「一眼レフでなければ撮れない」状況であり撮り方なのである。
動体以外でもストレスを感じさせない撮影が可能
これまでのDXフォーマット機とは趣の異なる、しっとりとした印象の仕上がり(画質)を生むようになったところも、個人的にはD500の魅力のひとつであると考えている。FXフォーマット機との併用でも違和感をいだかせない"アダルトな写り"が得られるようになっているのだ。
そんなこんなを含め、D500は短いタマを装着して動体ではないものを撮っているときにも「コレジャナイ」感をいだくことが少なかった。どんなシチュエーションでどんな被写体に向かい合っていても、ドンピシャなマッチングで気分よく写真を撮ることができるのだ。
つまり、見事に万能なのである。DXフォーマットのフラッグシップを名乗るにふさわしい懐の深さをしっかり持ち合わせているオールマイティなモデルなのだ。その意味では間違いなく"買い"である。私も当初はそう直感した。「こりゃDXフォーマットへのリターンもやむなし、か」。過去にはなかったハイレベルな使い心地と仕上がりが両立されているDXフォーマットボディの魅力に目がくらみ、一時はホントに危うく(?)衝動買いしそうになっていたのである。
ただ、D5との比較で物足りなさを感じさせるところがあることにもあらためて気づいてしまった。とりわけ、動体に対するAFの初動段階での食いつきや連写時のファインダー像の安定と視認性には明確な差があると個人的には感じている。あって当然の差だ。ボディーのサイズや重さに大きな違いがあるし、何より価格が3倍近く違う。本来は、するべきではない比較である。でも、実感した以上は気になってしまうし、使用者の立ち位置によっては「D500の選択が妥協になってしまう」こともあり得るわけで、看過するわけにはいかないとの思いも捨てきれない。
おかげで私は、結局のところ「D500はD5の代わりにはなり得ない」という至極アタリマエな結論に行き着いてしまっている。D500の登場当初はそんな考えなどこれっぽっちも抱かなかったのだが、D500デビューの衝撃に酔っていた感覚が正常に戻ったあとにいま一度その必要性を吟味したとき、なぜか妙にさめた回答を自分自身に与えることになっていたのだ。
頑張ってD500を手に入れるのなら、あと3倍のムリをしてD5を手に入れるべき……いろんな価値観があることは重々承知も、私の中ではこれが現時点の結論なのである(なんかカッコよくね?)。ま、"3倍"のベースになる原資すらない現実のもとでは、薄ら笑いで立ちすくむしかないんですケドね(かっこわりぃなぁ……)。
プロカメラマン。街中スナップ大好きのしがない写真撮り&物書き。生まれながらの天の邪鬼。もともと機材関係には興味がなく、そもそもカメラにもこだわりはなかったハズなのだが、デジカメ時代に突入してからは「より自分にピッタリの一台を追い求める」という都合の良いイイワケのもと、年間5~10台のデジカメを購入するハメに陥りつつ、青息吐息で現在に至る。だが、カメラ好きではなく写真好きを自認。加えて、クルマにもチトうるさいと自分では思っている。カメラグランプリ2016選考委員。
[日経トレンディネット 2016年10月21日付の記事を再構成]
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