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米大統領選後のポートフォリオ作り 外国資産が重要に SMBC信託銀行 プロダクト統括部 シニア・ポートフォリオ・アナリスト 田中正秀

2016/11/10

 米大統領選は事前予想と異なるトランプ大統領の誕生という結果になりました。結果判明直後の円相場は1ドル=103円台で、懸念された95円台突入は杞憂(きゆう)で終わりましたが、今後の円高進行は日本株にも大きな影響を与えるだけに気になります。そんな中で今回は、有効で円高にも強いポートフォリオ(資産の組み合わせ)を作ることの意義について考えてみましょう。

出所:IMF「World Economic Outlook」、SMBC信託銀行

 まず大前提として、国内資産だけで運用するよりも外国資産を組み合わせた方が、収益を多く得られる可能性が高まります。理由は明らかで、日本と海外各国との経済成長に大きな差があるからです。

 図表1は、代表的な先進国の名目国内総生産(GDP)の推移です。1990年以降、これらの先進国経済は軒並み右肩上がりで推移していますが、唯一日本だけは、デフレのもとでGDPが横ばいになっています。資産運用で得られる収益は、投資した国の経済成長を前提としているため、GDPが伸び悩む日本の株式・債券への投資だけでは十分な収益を得られない可能性があるのです。そこで外国資産を組み入れたポートフォリオの構築が重要になります。

■外国資産、どのくらい組み入れるべきか

 ではポートフォリオ構築の際に、どのくらい外国資産に投資すればいいのでしょうか。ここでは、国民の老後の生活資金を確保するため長期にわたる安定運用を目指している年金資産の運用を参考にしてみましょう。

 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は公的年金を運用する、わが国を代表する機関投資家です。GPIFの基本ポートフォリオをみると、国内資産と外国資産の比率はおおむね6対4となっています。受給者に円建てで年金を支給するため、国内資産の比率をより高くしていると考えられます。GPIFによる直近の定期検証結果では、基本ポートフォリオの予想収益率は年率3%台後半~4%台半ばと見込まれています。個人投資家にとっても、このポートフォリオと予想収益率は長期投資の一つの目線となるでしょう。

 もう一つ、国内外の機関投資家の動向を見てみましょう。彼らは投資対象を国内・海外で分けずに、グローバル株式、グローバル債券の2つに分けることもあります。

出所:MSCI、Citigroup Index LLCの情報をもとにSMBC信託銀行作成

 図表2の通り、先進国の株式指数(MSCI World、左)に占める日本株の割合は9%弱にすぎず、先進国の債券指数(シティ世界国債指数、右)に占める日本国債の割合は23%程度です。もし、これら指数の構成割合に従ってグローバル資産のポートフォリオを組むと、8~9割が外国資産になります。「思ったよりも外国資産の比率が高いな」と感じるのではないでしょうか。

 投資対象を国内資産と外国資産に分けると、国内の株式・債券から一定程度の銘柄を選ぶ必要があります。しかし、内外の垣根を取り払うことによって、世界中の株式・債券から優れた銘柄を選ぶことが可能になります。デフレが重荷となって、日本企業の利益率は総じて海外企業よりも低く、日銀がマイナス金利政策を進める中で国内債券への投資も難しくなる中、日本株や国内債券を優先的に組み入れる意義は薄れてきたと考えられます。

■外国資産を組み入れる効果は?

 そこで、次はポートフォリオに外国資産を組み入れる効果について確認しましょう。

 今回は3つのシミュレーションを行いました。(1)15年前、(2)10年前、(3)5年前の9月末に、それぞれ100万円を投資したと仮定しますが、1つ目の試算(グラフは赤)の投資対象は国内資産(国内株式、国内債券)のみ。2つ目はGPIFにならい、国内資産と外国資産(外国株式、外国債券)を6対4の割合で投資した場合(グラフは青)。3つ目は、図表2で見た指数の国別構成割合を踏まえて、国内資産と外国資産を2対8の割合で投資した場合(グラフは緑)。この3種類のポートフォリオで運用したと想定し、2016年9月末時点での円換算後の資産残高がどう変化したかを試算してみました(株式の売買や配当・利息にかかる手数料・税金は考慮していません)。

出所:Bloombergのデータをもとに、SMBC信託銀行作成

 各資産の収益率は、代表的な株価指数・債券指数をもとに算出しており、国内資産と外国資産の中でそれぞれ株式と債券を半分ずつ保有すると仮定しています。

 また、こうした試算は当時のマーケット状況を考慮に入れないと単なる机上の空論になりがちです。そこで少し状況を振り返ってみましょう。

(1)15年前(2001年9月)

 ITバブル崩壊後、景気が急速に冷え込む中で、米国で同時多発テロ事件が勃発し、世界中の投資家を不安に陥れました。日本の金融システム不安も相まって、日経平均株価は9500~1万700円台、ドル/円レートは116~121円台で推移していました。

(2)10年前(2006年9月)

 米国では、後の金融バブル崩壊のきっかけとなる低所得者層向けのサブプライムローンが拡大しており、日本でも戦後最長に並ぶ景気回復局面が続くなど、世界的に好景気ムードが強まりました。楽観的なムードの中で、日経平均は1万5500~1万6000円台、ドル/円レートは116~118円台で推移していました。

(3)5年前(2011年9月)

 東日本大震災から半年が経過した一方で、ギリシャの財政問題や、米国の債務上限引き上げを受けたS&Pによる米国債格下げの余波があり、マーケットには不安心理が蔓延(まんえん)していました。日経平均は8300~9000円台、円相場は対ドルで過去最高値に近い76~77円台で推移していました。

■結果は全期間とも「外国資産重視」強し

 図表3の通り、(2)のような楽観的な局面よりも(3)のような投資家心理が冷え込んでいる局面で投資した方が、収益が増える傾向はあります。また、どの時期に投資しても、国内資産だけ(赤)のポートフォリオよりも外国資産を組み入れた方が収益が多くなり、外国資産の組み入れ比率が高いほど、収益が増えることが分かります(緑)。

 注目したいのは、投資開始から円高が進んでいても、外国資産を加えたポートフォリオは、国内資産だけの場合よりも運用成績が良いということです。

 円高が進むと、短期的には外国資産の円換算後の収益率は低下しますが、中長期的には輸出産業の競争力が低下して日本経済を下押しする一方で、海外諸国の輸出競争力が相対的に高まり、海外経済の押し上げにつながります。つまり長期投資の視点では、円高を警戒して国内資産の比率をいたずらに高めるのではなく、将来にわたる投資対象の収益性を見極めて投資することが大切です。為替変動のリスクを受け入れつつ、グローバルな経済成長の恩恵をいかに取り込むか、言い換えれば経済成長の恩恵を受けやすく、収益性の高い外国資産をポートフォリオに上手に組み入れることが、運用成果の向上につながるということなのです。

 今回のシミュレーションは、外貨建て資産を円に戻した場合の残高を比較しています。しかし実際の資産運用では円に戻さず、外貨のまま運用し続ければ、為替差損のリスクや為替手数料を負う必要がなくなります(第3回『円だけで暮らす私に、今なぜ外貨運用が必要なの?』を参照)。

 ポートフォリオを組み立てる目的は、金融市場を取り巻く様々なリスクに対応できるよう複数の資産で運用すること、すなわち「分散投資」を行うためです。日本株や日本国債の情報は国内で新聞や雑誌を通じて豊富に入手できますが、海外資産に関する情報やアドバイスは、金融機関によってまちまちです。従って担当者が十分な情報を持ち、信頼のおける相談サービスを提供する金融機関を選ぶことも重要です。

田中 正秀(たなか・まさひで) SMBC信託銀行 プロダクト統括部 ポートフォリオ・ソリューション室 シニア・ポートフォリオ・アナリスト。一橋大学法学部卒業。みずほ信託銀行で、エコノミスト、ストラテジスト、ポートフォリオマネージャー、商品企画、運用パフォーマンス評価・リスク管理など、年金資産運用にかかわる幅広い業務に従事。2016年8月から現職。日本証券アナリスト協会検定会員、不動産鑑定士補。

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