MONO TRENDY

津田大介のMONOサーチ

津田大介 メモ機ポメラに「ノートPC、もう不要?」

2016/11/16

新型ポメラで取材メモをとる津田大介氏

 メモ機のレベルを超えたような気がする――キングジムのテキスト入力機「ポメラ」の新機種「DM200」は、作家やライターが仕事で使えるレベルになったと感じた。スマートフォン(スマホ)でいろいろできる時代でも、メモや長文には圧倒的にキーボードが早い。シリーズ6世代目にして初の無線LANを搭載した新機種は、プロ用のテキスト入力マシンに進化していた。

■いろいろな欲求が刺激される新型

 取材や会議のメモをどうとるか。デジタルで入力し、そのまま使い回しできるのがベストだ。外で原稿を書いて、そのままパッと送信したい。もともとそうしたことをするための機器が好きなこともあって、初代のモバイルギアやWindows CEモデルのモバイルギア(どちらもNEC)も使っていたし、2008年に発売された初代ポメラも買って試していたことがある。

 今回取り上げるのは、そのポメラの新機種「DM200」だ。

 DM200を使ってみてまず印象的だったのは、ディスプレーが大きく見やすくなったところだ。これだけ文字が読みやすいと、電子書籍リーダーとして使ってみたいとか、ツイッター投稿機能があったらなどと、いろいろな欲求も刺激されるが、ポメラはあくまで「テキスト入力装置」。そうした機能をあえてそぎ落とすことに意味がある。発売した当初はネットにつながず、テキスト入力だけに機能を絞り込んだことで話題になったが、新機種では、無線LANを搭載して周辺機器に接続しやすくなった。入力したテキストを手軽に複数の機器で共有できるのは求められていた進化だろう。このことでプロでも使えるツールとして完成度が高まった印象だ。

デジタルメモ「ポメラ」pomera DM200

■無線LANでネットに接続

 かつて筆者は、取材時にメモを取るためだけにノートパソコンを持ち歩くことも多かった。しかし以前は、バッテリーが長時間もたず、外部電源がないことも多かったので、乾電池で使える初代ポメラがあるといざというときに安心だった。記者会見などでノートパソコンを広げる十分なスペースがなくても、折り畳み式キーボードのポメラならば何とか使えるというシチュエーションもけっこうあって、役に立っていた。しかし、ポメラはネットにつながらない。メモの使い回しがあまりにも面倒で、結局持ち歩かなくなっていた。

 今回の新機種ポメラ「DM200」は、シリーズ6世代目にして初の無線LAN搭載。どんな進化を遂げたのか、キングジムの開発本部商品開発部開発二課リーダー 東山慎司氏に聞いてみた。

開発本部 商品開発部 開発二課リーダー 東山慎司氏。2008年、キングジム入社。ポメラ初代の開発に参加。もともとメモをとるほうではなかったので、ポメラがこんなにヒットするとは正直思っていなかったという

東山慎司氏(以下、東山氏)「ポメラはパソコンではなく、あくまでもテキスト入力専用機。ですので、ブラウザーを積もうといった話は今まで一切出てきたことがありません。今回、無線LANを搭載し、Gmailのメモ機能を介して文章をiPhoneなどでも双方で編集できる『ポメラSync』や、Evernoteやメールのアカウントにテキストを送信できる『アップロード』という2つの新機能をつけたのも、あくまでポメラで作った文章を“どうすればもっと活用しやすくなるか”ということを考えた結果です」

 前機種の「DM100」ではQRコードを使って、スマホでテキストを読み取ったり、東芝の無線LAN機能付きSDカード「FlashAir」でEvernoteへ投稿できるようなった。だが、やはり他のクラウドサービスにも連携してほしいという要望が多く、今回の無線LAN搭載に踏み切ったそうだ。メールアップロードで、長文メールを直接送ることもできるし、「ポメラSync」は(Googleで2段階認証を設定している人は、事前にアプリパスワードを設定するなどちょっとしたコツは必要だが)、僕のように日常的にiPhoneでメモをとっている人にとって、とても便利に使えると思う。

 今回のアップデートは、そうした要望やアンケートをベースに組み立てていったという。ポメラユーザーには、初代からずっと使っている熱烈なファンも多く、さまざまな意見が寄せられるそうだが、初代と異なるストレートなキーボードや乾電池駆動でなくしたことに対しては、どのような意見や考え方があったのだろうか。

■ストレートな本体デザインとリチウムイオン電池の採用

 初代のポメラはコンパクトな折り畳み式キーボードだったが、前機種の「DM100」ではストレートなキーボードを採用している。入力しやすさを考えるとストレートなキーボードのほうがキーが打ちやすいが、その分、大きくなるし重さもそこそこのガッシリした印象になる。僕らの世代は、こうした横長の形状を見るとモバイルギアを思い出すわけだが、軽く持ち運びやすいことと、キーの打ちやすさや本体重量のバランスについて、どんな議論があったのだろうか。

東山氏 「デザインに関して、形状は前機種 DM100からさらにシンプルになっています。見た目の変更としては、液晶画面を7インチワイドTFT液晶にして大きくしたり、キーボードがしなる不満点を解決するべく中にシャーシを入れて剛性感を上げています。キーピッチは17.0mm(横)15.5mm(縦)。よくあるパンタグラフではなくV字ギアリンク構造で、どこを押してもしっかり沈み込んで安定感があり、より打ち心地を追求したきょう体設計となっています」

前機種のDM100と新型DM200を並べて比較してみる。DM200は液晶が大きくなっただけでなく、全体にガッシリと安定感がある

東山氏 「本体の重量は580グラム。前機種は電池なしで399グラム(電池を入れると約450グラム)ですから、前機種と比較して重たくなっています。もちろん軽くしたかったのですが、液晶サイズのアップや剛性向上のため、どうしてもこの重量になってしまいました」

 これまでのポメラのもうひとつの特徴が、乾電池で動くこと。ノートパソコンのバッテリーが切れても、これがあれば安心だった。乾電池駆動が良いという意見も多そうだが、充電式のリチウムイオン電池を採用した理由はなんだろうか。

東山氏 「乾電池のご要望が強いことはわかっていたので、開発初期はずっと乾電池で検討していました。しかし今回、一番のメジャーアップデートが、日本語入力のATOKを強化すること。書くための機械なので、日本語入力に関するご意見が一番多くて、内部システムから見直した結果、単3形乾電池2本では数時間しかもたなかったのです。電池寿命を確保するには、乾電池の本数が多くなってしまい、本体重量が増してしまう。総合的に判断してリチウム電池を採用しました」

 なるほど、日本語入力も含め、全体的にパフォーマンスを向上するとその分バッテリーを消費してしまうので、それを補うためのリチウムイオン電池搭載なのだ。最近は、スマホのためにモバイルバッテリーを持ち歩いている人も増えたので、乾電池派にとってリチウム電池に変わったことも、今の時代、思ったほどのデメリットにはならないはずだ。

東山氏 「そうした環境が変わったこともありますし、アンケートの結果をみると、乾電池派とモバイルバッテリー派がちょうど半々だったのです。実はキーボードの好みも折り畳み派とストレート派が半々。さらにユーザーの男女比も半々だったりするんです。ですので、一機種ですべての方に満足していただくことはできないと考え、今回は、日本語入力強化を最大命題として設計していったのです」

■最大のテーマは日本語入力の強化

 たしかにDM200の日本語変換は、スムーズだ。「ポメラ」のために最適化された専用のATOK for pomera[Professional]によって、文節区切りの誤変換も減り、語彙数も従来機と比較して約3倍になっているという。

 Bluetooth接続のキーボードとしても使えるので、スマホやタブレットのキーボードにもなるのも地味に便利だ。スマホやタブレットとポメラという組み合わせで持ち歩けばノートパソコンはいらなくなるかもしれない。

スマホと接続して、Bluetoothキーボードとしても使える。レスポンスも良い

東山氏 「ジャストシステムさんには、ずっと以前から、ポメラ向けATOKの開発をオファーをしてきました。ちょうど今回、さまざまなデバイス用にATOKを開発するタイミングがあってポメラ用にカスタマイズしてもらうことができました。しかしそのためには、ポメラのハードウエアとソフトウエアの両方を、ベースから作り替えなければなりませんでした。ですので、今までで一番大幅な仕様変更となっています。マニアックな使い方ですが、親指シフト入力に切り替えることもできるので、ATOK+親指シフトという環境も可能なんですよ」

 フォントも見やすくなり、類語辞典も追加され、ショートカットで呼び出せる。パソコンの良いところと専用機の良さを合わせたハイブリッドなバランスになっているのだ。

■ポメラで人はなにを書く?

 僕が一番気に入ったのは、原稿用紙モードだった。雑誌の連載などで文字数をカウントして書くことがあるのだが、原稿用紙は直感的に文章の量がわかる。新聞社の記者などにも良さそうだ。縦書きができるので、脚本なども書けそうだ。それにしても、そもそもポメラのユーザーはなにを書いているのだろう。

東山氏 「私たちもいろいろな調査をするのですが、正確にはでてこなくて……。もともとは会議や打ち合わせのメモとして企画され、私も出張のときの長文メールなどに重宝していますが、それだけではなくて、趣味で文章を書いている方は思っている以上に多いのではないかと思います。中には俳句を書いている方や、カレンダー機能を日記として使っている方もいました。どなたも、本気で文章を書いている方々なのだと思います」

 初代ポメラが発売された2008年当時は、ノートパソコンを持ち歩くのが当たり前になり始めた時期でもある。2007年3月にイー・モバイルがデータ通信サービスを開始したこともあって、外でもいろいろな作業ができるようになっていったのだ。テキストを書くマシンもネットにつながっているのが当たり前という状況に切り替わるタイミングに、ネットにつながず“テキストを書くだけ”というシンプルな機能が、ポメラは逆に新鮮だった。その後、スマホが普及したが、日本語変換がいまひとつだったり、タッチ入力が長文に向かなかったり……。さらに、ネットに常時つながっている環境は、メールの着信やプッシュ通知が気になって、気が散る。集中して書くための環境からは、遠ざかった気さえする。

東山氏 「実は、私個人としては、もっと機能をそぎたいくらいなんです。どうしても、後継機種ほど機能が増えてしまいますから。たとえば今回、表機能はとりました。表機能があると計算もしたいという意見がでてきます。最初にお伝えしたように、ポメラはパソコンではなくテキスト入力マシン。それ以外の機能はそぎ落とし、シンプルなものを作っていきたいのです」

メモ機として完成形ともいえるポメラDM200だが、今後の発展も楽しみだ

●今回のまとめ●

 今後も、個人的にはもとの折り畳み型の新製品も考えていきたいという東山氏。デジタルでメモをとるための道具という最初の思想を踏み外さず、日本語を入力することに特化して、ボトルネックとなっていた日本語入力環境を改善。シンプルに、書くことに集中できるポメラは、職人が使う専用道具のような魅力さえ感じさせる。累計30万台のヒット商品で、新機種がでると買い替える熱烈なファンが多数ついているというのも納得だ。

 新機種DM200の価格は4万9800円。メモ機として、ほぼ完成形だが決して安くはない。だが、すごく高いわけでもない。作家や脚本家、ライターなどのプロフェッショナルが原稿に集中して書くための機械と考えれば、昔のワープロを買うより断然安い。

 ビジネスパーソンにとっても、ちょっとした調べ物やメールのやりとりだけなら、スマホとポメラの組み合わせで十分。外出先でエクセルや動画編集をするならノートパソコンが必要だが、重いノートパソコンを持ち歩きたくないなら検討する価値はある。なにより、ネットの閲覧と文章を書く仕事を切り離せることで、生産性を高めることができそうだ。

 個人的に使っていて惜しいと感じるのが、Wi-Fi周り。Wi-Fiに接続する速度が遅いのと、メールやポメラSyncで同期する時間も遅く、この待たされる時間が微妙にストレスなのだ。最近のタブレットやスマホのテキスト系アプリでは、DropboxやiCloudなどのクラウドストレージの接続機能が当たり前のように用意されている。使い勝手という意味では、やはり使い慣れてるDropboxに対応してほしかった。保存したらすぐに指定したDropboxにアップロードできるような機能があれば、よりストレスなく使えたと思う。

 もう一つ、欲張りなのはわかっているがGmailに接続してメールを送受信できる機能もついてほしい。これだけの快適な入力環境があれば、テキスト作成だけでなく、メールを外出先で返信したいと思う人も多いはず。かつてのモバイルギアはメモ作成だけでなく、外出先でメールの送受信ができることが魅力でもあった。ATOKがこれだけ進化してパソコンと遜色ないモバイル入力環境ができたからこそ、ポメラにメールの「受信」機能を付けることは悪くないと思うのだ。

 いずれにせよ、毎回どんな進化をするのか楽しみなガジェットはそうそうない。テキストを書くことに集中できる環境を持ち歩きたいという人にとって、ポメラは最良の選択肢となるはずだ(というか、ポメラ以外の選択肢がそもそもない)。

 僕もポメラで集中して、原稿執筆にチャレンジしたいと思う。

津田大介(つだ・だいすけ)
 ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。「ポリタス」編集長。1973年東京都生まれ。早稲田大学社会科学部卒。大阪経済大学客員教授。京都造形芸術大学客員教授。テレ朝チャンネル2「津田大介 日本にプラス+」キャスター。フジテレビ「みんなのニュース」ネットナビゲーター。一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)代表理事。株式会社ナターシャCo-Founder。メディア、ジャーナリズム、IT・ネットサービス、コンテンツビジネス、著作権問題などを専門分野に執筆活動を行う。ソーシャルメディアを利用した新しいジャーナリズムをさまざまな形で実践。主な著書に『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)、『動員の革命』(中公新書ラクレ)、『情報の呼吸法』(朝日出版社)、『Twitter社会論』(洋泉社新書)、『未来型サバイバル音楽論』(中公新書ラクレ)ほか。2011年9月より週刊有料メールマガジン「メディアの現場」を配信中。

(編集協力 波多野絵理)

MONO TRENDY新着記事

ALL CHANNEL