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映画『ミュージアム』大友監督が語る カエル男の正体

日経エンタテインメント!

2016/11/11

 過激な描写と、緊迫のストーリーで問題作といわれた巴亮介の同名マンガを実写化した映画『ミュージアム』が、11月12日から公開される。連続猟奇殺人事件を追う刑事が極限まで追い詰められていくさまを描く本作。監督は『るろうに剣心』シリーズのヒットメーカーである大友啓史だ。衝撃的な内容の原作マンガを、なぜ今、映画化したのかを聞いた。

(C)巴亮介/講談社 (C)2016映画「ミュージアム」製作委員会

 雨が降る日に限って起きる連続猟奇殺人事件を追っていた警視庁捜査1課の沢村刑事(小栗旬)。仕事人間のあまり、妻・遥(尾野真千子)は息子と家を出てしまい、捜査にまい進する日々だった。そんな沢村たちをあざ笑うかのように、事件はますますエスカレート。凄惨な遺体が発見された現場には、「ドッグフードの刑」「母の痛みを知りましょうの刑」など謎のメモが残されていた。その内容から、沢村は犯行が私的な制裁のために繰り返されていることに気づく。

 やがて犯人はカエルのマスクをかぶり、自らを殺人アーティストと称するカエル男(妻夫木聡)の仕業だと分かるが、そこには過去のある裁判員裁判が関係していた。そして、妻の遥がその裁判員裁判の裁判員の1人だったことから、追い詰めていたはずの沢村はカエル男の仕掛けた残虐なワナにハマっていく…。

■殺人鬼・カエル男に着目して脚本執筆

(写真:加藤康)

 大友監督といえば、NHKで連続ドラマ『ハゲタカ』、大河ドラマ『龍馬伝』などを演出。退局後、フリーとなって手がけた映画『るろうに剣心』シリーズ(12~14年)で累計125億円以上の興行収入をたたき出したヒットメーカーだ。本作は、その『るろうに剣心』で組んだプロデューサーからのオファーだったが、当初は映画化に二の足を踏んだという。

 「原作を読んだときに、デヴィッド・フィンチャー監督の『セブン』(95年)や、『SAW-ソウ-』(04年)の影響を受けた作品ではないかなと思ったんです。欧米であれば、キリスト教信仰がベースにあるが、日本を舞台にした『ミュージアム』にはそれがなく、この原作を基に映画化すると、結局、『セブン』や『SAW』を想起させるだけのものになってしまうのではないかと危惧しました。そこで、オファーされてから1年間、熟慮に熟慮を重ねた結果、単に犯罪礼賛やゲーム的な展開だけに終始したものにならないようにするため、原作の独特な美意識を生かしながら、現代日本の今に落とし込もうと考えました」

 『るろうに剣心』、そして8月に公開された前作『秘密 THE TOP SECRET』もマンガ原作だったが、リアリティーある描写で見る者を引きつけてきた大友監督。困難な課題としつつも、まずは希代の殺人鬼・カエル男に着目し、脚本に取り組んだという。

  「この原作には、人間の悪を引っ張り出すようなところがある。そして描かれる劇場型犯罪は、実は現在の日本にはけっこうあることで、それを繰り返すカエル男はまさに悪意の塊といえる。また震災以降、得体(えたい)の知れない何かが襲ってきて自分の大切なものを奪っていくかもしれないという感覚が、日本人の中に共通してあるんじゃないか。それは自然災害だけではなく、通り魔的なものもあって、ある日突然、自分の穏やかな日常が壊されてしまう危険性と背中合わせで生きている。そんな感覚があるなか、カエル男がメタファーになれば、観客にも届くんじゃないかと思ったんです」

■現代日本のリアルにこだわる

 カエル男に翻弄され、相対することになる主人公・沢村のキャラクター設定も、リアルなものとなっている。

 「沢村は仕事一筋なあまり、家を顧みなかったため、妻子に愛想を尽かされて出ていかれてしまった。そんな彼の後ろめたさをカエル男は突いてくるんです。日本のサラリーマンは、僕も含めてですけど、忙しさにかまけて、子供や奥さんの誕生日、結婚記念日をつい忘れがちだから、描かれる事件は猟奇的であっても、沢村の立場には身につまされるものがあるんじゃないかと(笑)」

 さらに、日本の裁判員制度の問題点を物語に盛り込み、原作とは異なるエンディングで凍りつくような恐怖を用意するなど、映画独自の要素も書き加え、「僕たちが今、生きている時代や社会とそんなにかけ離れてはいないはず」と自信をのぞかせる。

(C)巴亮介/講談社 (C)2016映画「ミュージアム」製作委員会

 現代日本とのリアルにこだわった大友監督の下、主人公・沢村にふんした小栗旬も「家族を持ったからこそ、実感を持って演じられる」と力演。カエル男を追ううちに自身の正義感や価値観まで揺るがされていくシーンは、見る者の心をつかんでいく。一方、グロテスクなマスク姿で殺人アーティストを気取るカエル男を演じた妻夫木聡にも、驚きを禁じ得ない。悩める好青年役が似合う彼がほとんど素顔を見せることなく、全編“狂気の人”と化す。終盤の小栗との演技対決は、既存のサスペンススリラーなど吹っ飛ぶ熱量がほとばしっている。

 「映画というものが、日常では味わえない何かを味わうということであれば、笑いや感動と同時に、恐怖や嫌悪する感情もあるはず。日本ではサスペンススリラーを撮っても、最後につい逃げ腰になってしまう。だけど、この原作でヘンにこびてもしようがない。振り切るだけ振り切った作品を提供して、観客が劇場を後にしたとき、『あー、平和でよかった』とか、『家族の絆って大切だよね』なんて思い至る。分かりやすいもの、優しいもの、ハッピーエンドが求められ、ヒット作となる時代ですが、それと全く違うものを作るのもまたありなのではないか。そんなふうに考えています」

大友啓史(おおとも・けいし)
 1966年生まれ、岩手県出身。90年NHKに入局。NHK朝ドラ『ちゅらさん』シリーズ、『白洲次郎』などを手がけ、11年に独立。映画『るろうに剣心』シリーズでは、14年公開の前後編が同年邦画の興行収入1位を記録。2017年春、映画『3月のライオン』2部作が控える。
(C)巴亮介/講談社 (C)2016映画「ミュージアム」製作委員会
『ミュージアム』
 飼い犬を手放した女性は犬に食われ、母親と2人暮らしの引き込もり男は“生まれてきた体重”だけ肉体が切り裂かれる──ターゲットに罰を与える形で惨殺していく「カエル男」(妻夫木聡)に肉薄する刑事・沢村(小栗旬)だったが、妻子を奪われ形勢逆転。そして、衝撃のラストが待ち構える…。(11月12日公開/ワーナー・ブラザース映画配給)

(ライター 前田かおり、日経エンタテインメント! 平島綾子)

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