モバイルノートの終着駅はMacBookかZenBookか?
戸田覚のデジモノ深掘りレポート
エイスーステック・コンピューターが力を入れる新モバイルノート「ZenBook 3」が登場した。この秋から冬にかけて、最も注目されるモバイルノートの1台であることは間違いない。
極薄なZenBook 3の外観は、「MacBook(12インチモデル)」に似ていると言われている。単に「似たモデルが登場した」だけではつまらないので、今回は両者を比べることで、モバイルノートの未来を深掘りしていこうと思う。
僕は、MacBookが登場してすぐに購入した。デザインやサイズの素晴らしさに共感したのが購入の主な動機だが、僕の使い方に合っていると思った点も大きい。
僕の場合、外出先での日常的なノートパソコンの用途は、コミュニケーションが5~6割だ。メールのやりとりや、社内連絡用のSNSに費やす時間が最も長い。次に長いのは、打ち合わせのメモやプレゼンテーションの確認。逆に、出先で書類を作るケースなどはあまりなく、ちょっとした修正や急ぎの仕事に対応する程度。本格的に作業するときは事務所に戻ってメーンマシンを使う。
モバイルノートには拡張性を求めない?
「Let's note」のような拡張性の高いモバイルノートが便利だと思うのは、「モバイルだけ」ではなく「メーンマシンを兼ねている」からではないだろうか? それなら端子類は多いほうが望ましい。
しかし、モバイルノートを本当に「モバイルだけ」で使うなら、拡張性はほとんどいらない時代になった。外出先でファイルをやりとりする際にも、ちょっと前ならUSBメモリーを利用したものだが、高速なモバイル通信が普及したおかげで、メールに添付するか、クラウドストレージなどを利用すれば済んでしまう。各種端子の必要性を感じるのはプレゼンのときくらいだ。プレゼンをすることがない人は、USB-C端子を一つしか搭載しない端末でも困ることはほとんどないだろう。
極薄のボディーが特徴のZenBook 3だが、実は、重量は910gとさほど軽くない。920gのMacBookも同様だ。13型で800g台のノートパソコンもあるし、分厚い「Let's note SZ」でさえ構成によっては同程度の重量に抑えられる。ボディーを見ただけなら、ZenBook 3やMacBookなら600~700g程度と思ってしまうかもしれない。
実は、ZenBook 3やMacBookの拡張性の乏しさが寄与しているのは、重さではなく薄さなのだ。実際に持ち歩いてみるとこの薄さは素晴らしい。かばんに入れても邪魔にならず、タブレットを持ち歩くような気軽さだ。
デザインが似てしまうのは当然だが……
ZenBook 3の外観がMacBookに似ているのは当然だ。徹底的に拡張性を排除して薄型に設計した時点で似てしまう上、どちらもアルミボディーを採用しているのだから似ないはずがない。タブレットがみんな同じように見えるのと同様だろう。
とはいえ、似すぎている部分もいくつか見られる。底面のカットやゴム足までほとんど同じなのは、「同じ工場で作ったのか」と勘ぐってしまいそうになる。
一方、ZenBook 3とMacBookの大きな違いは液晶とCPUだ。MacBookは縦横比16対10で2304×1440ピクセルとなっているが、ZenBook 3は16対9のフルHD(1920x1080ピクセル)だ。解像度で及ばないのはまだしも、ZenBook 3は横長すぎて使い勝手がよろしくない。横が広いというよりも、縦が狭いと感じてしまうのだ。
また、処理性能ではZenBook 3が大幅に上回っており、CPUはCore i7とi5の2種類が選択できる。11.9mmの薄型ボディーに放熱機構を組み込んで、Core iを搭載したのはすごい。MacBookはCore mにとどまる。
なぜ2in1ではなくクラムシェルなのか
ZenBook 3やMacBookのように、USB-Type C端子一つしか搭載しないモデルでも、モバイル用途に限定するなら、端子不足で困るようなことはまずない。しかし、それなら「Surface Pro 4」でも問題ないし、iPadとキーボードを持ち歩くスタイルで十分と考える人もいると思う。モバイル用途に限るなら、もはやパソコンである必要性すらなくなっているのだ。
それでも僕がクラムシェルのモバイルノートを積極的に選ぶ理由は、2in1モデルとはいっても、実際のところタブレットとして使う機会がほとんどないからだ。クラムシェルスタイルでしか使わないなら、例えば、786gの本体に310gのタイプカバーを装着したSurface Proより、キーボード付きで910gのZenBook 3のほうが軽い。
極薄のクラムシェルがモバイルノートの究極か
ZenBook 3やMacBookは、2in1モデルが無意味だと感じている人のためのモデルであり、そこにモバイルノートの未来が垣間見える。Windowsに関して言えば、タッチ操作対応のアプリがまったく増えないという状況が続く中、タブレットからクラムシェルモデルへの回帰が進むのは当然だろう。しかも、タッチ非対応の液晶なら本体をより薄くでき、価格も下げられる。
僕自身は「手書き」がその流れを変えられると思っていて、スタイラスペンが使えるという理由でSurface Pro 4を購入した。しかし、手書きアプリもWindows用はいまだに普及していない。
ZenBook 3とMacBookの外観がそっくりなことと、モバイルノートのクラムシェル回帰の兆候は、この手のモバイルノートのデザインの限界を示しているように思えてならない。これから登場するモバイルノートは、もはや同じような外観のモデルばかりになりかねないと思うのだ。そうなれば、製品としての面白みや発展性は小さくなる。買い換えが進まないせいで新モデルがほとんど登場しなくなったタブレットと同様の道をたどらないことを願うばかりだ。
1963年生まれのビジネス書作家。著書は120冊以上に上る。パソコンなどのデジタル製品にも造詣が深く、多数の連載記事も持つ。ユーザー視点の辛口評価が好評。
[日経トレンディネット 2016年10月27日付の記事を再構成]
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