相続・税金

ぼくらのリアル相続

憧れのハワイで不動産 相続時はどこの税法で計算? 税理士 内藤 克

2016/11/4

PIXTA
 本日はハワイで行った筆者の相続セミナーの現場からお届けします。
「ALOHA! 内藤先生、憧れのコンドミニアムを購入しようと思ってハワイに来ました」
「いいですねえ、移住でもするんですか?」
「使い道は後からゆっくり考えます(笑)。ところでこちらでは不動産は共有名義で買うのがいいと勧められましたが……」
「相続手続きを考えてのアドバイスですね。しかしあなたがお金を出して奥様との共有名義にするんですから、日本で贈与税がかかってしまいますよ」
「え?」
「大丈夫です。方法はいくつかありますから、購入の申し込みだけ済ませて名義のことは日本に帰ってからゆっくり検討しましょう」

 ここ数年、海外投資の税金に関する質問が増えてきました。今までは海外投資というと、いくら利回りが良くても手続きを英語でしなければならないこと(それに購入時は皆親切でも、売却時にはその担当者はいないかもしれないし)や、日本円に戻した時の為替リスクを考えてちゅうちょする方が多かったのですが、最近は考え方が変わってきたように感じます。

 もちろん日銀のマイナス金利政策を受けて、行き場を失ったお金が海外の資産に向かっていることが主な要因ですが、複数の通貨で資産を保有してリスクを分散するという考え方(ポートフォリオ理論)が根付いてきたともいえます。

 為替リスクについては「ずっとドルのまま運用し続ければ関係ない」「円高になってもドルで買い物をすれば損はしない」「いつかハワイに移住するかもしれない」などと、割り切る方が増えてきているのも事実です。いちいち円転するから為替差損益を意識しなければならないわけで、これはもっともな理屈です。

■重要なのは現地の法律と日本の税務

 例えば最近急増しているハワイの不動産投資を例に取ってみると、購入時に注意しなければならないポイントとして「取得名義」があげられます。

 日本国内で不動産を購入する場合、お金を出す人と不動産の名義人が異なればそこに贈与税が発生しますが、そのことはほとんどの方が理解されています。そのため住宅を購入する際には、頭金(親からの贈与を含む)をどうするかやローン名義(とその返済)を慎重に考えて決定するのです。

ハワイの相続セミナーで講演中の筆者

 ところがハワイで不動産を購入するときには日本の税法のことはすっかり忘れてしまい、夫婦共有名義で購入して、後から税務署から指摘を受けたりする人が実に多いのです。なぜ日本で意識していることが海外では置き去りにされてしまうのでしょうか。

 米国では相続の開始に際して、「プロベート」という日本にはない手続きが必要になります。これは被相続人の財産が一時的に凍結されて、管財人(弁護士)により財産債務の確定や相続税の納税が行われたのちに相続人名義に変更するというもので、1年から1年半ほどかかります。そこで米国の居住者はこれを回避するためにジョイントテナンシー(夫婦合有)、トラスト(日本でいう信託)、LLC(合同会社と訳されるが、税務上は日本の合同会社とは全く別物)などの名義で取得するのです。

 要するに「米国ではこれが当たり前ですよ」と購入時に現地でアドバイスを受けると、日本の税法のことはすっかり忘れて米国流に登記を進めてしまうのでしょう。いくらハワイの不動産だからといっても所有者が日本の居住者であれば、相続に際しては日本の相続税や贈与税が適用されてしまうのです。これはハワイに限らず世界のどこの国の不動産であっても原則的に同じです。

■専門家の知識も実は曖昧

 面倒なプロベートを回避する方法として、実は上記以外の方法もあります。単独所有にした上で死因贈与登記を行う方法で「TOD」と呼ばれます。死因贈与とは「私が死んだら〇〇(名前)へ贈与する」という契約であり、日本でもこれと同じ手続きに「死因贈与の仮登記」というものがあります。

 このTODはハワイ州では2012年から導入されていますが、米国居住者は夫婦間の贈与課税がないため、わざわざこの制度を使うことはありません。このため専門の弁護士でない限り「今回はTODで行きましょう」と提案をすることはまれですし、日本の専門家でここまで踏み込んでアドバイスできる人はほとんどいません。

 海外不動産投資ブームはここ最近のことですので、現在はどちらかというと購入時のアドバイスを求められるケースがほとんどです。しかし今後は売却や相続が発生した場合の税務(それも現地と日本の両方)、さらに税務以外の手続きに関しても両方の国のアドバイスが受けられる状態を確保しておかなければなりません。そうでなければ残された家族は誰に相談すればいいのかわからずに困ってしまうでしょう。せっかく購入した常夏の楽園のコンドミニアムが「お父さん、なんでこんな面倒臭いもの買ったんだろう」と言われないためにも、残される人たちへの準備は万全にしておくことが大切です。

内藤 克(ないとう・かつみ) 税理士法人アーク&パートナーズ 代表・税理士。1962年生まれ、新潟県長岡市出身。90年に税理士登録、95年に東京・虎ノ門で個人税理士事務所を開業。97年に銀座で税理士・司法書士・社会保険労務士による共同事務所を開業。2010年に税理士法人アーク&パートナーズを設立。弁護士ら専門家と同族会社の事業承継を中心にコンサルティングを行っている。事例中心のわかりやすい講演にも定評あり。日本とハワイの税法に精通し、11/17(木)にはアラモアナホテルで「ハワイ相続セミナー」を行う。

相続・税金