年金・老後

定年楽園への扉

老後の生活費を冷静に正しく知る方法 経済コラムニスト 大江英樹

2016/11/17

 年末が近づくと、様々な雑誌に「老後生活にいくらかかるか」という特集が増えてきます。内容によって金額はバラバラなので、何を信じていいのか、混乱する人も少なくないでしょう。自分がわからないことについて不安を持つのは当然です。

 例えば「病院に入院すると月に100万円かかる」といわれたらどうでしょう? まったく入院の経験がない人なら「それぐらいかかるのかな」と思うかもしれません。しかし、一度でも入院したことがある人なら「そりゃあ一概にはいえないよ」と考えるでしょう。手術するのかどうか、どれぐらいの期間入院するのか、個室に入るのかどうかなどによって全く条件が違ってくるからです。

 現に昨年、私は生まれて初めて入院しましたが、簡単な手術で1日しか入院しませんでした。そのため、費用は自己負担分で5万円強でした。要するに、どんなものでもケース・バイ・ケースで一概にはいえないのが真実なのです。

 ところが、自分が経験したことがないことについては、ある情報を示されると人間は簡単に信じてしまう傾向があります。なぜなら、わからないことについては不安だから、わかりやすいシンプルな情報に頼りたくなるからです。

 では、本当に老後にかかるお金はいくらぐらいなのかを正しく知るにはどうすればいいでしょうか? 方法は2つあります。ひとつは経験者に聞くこと、そしてもうひとつは自分自身でシミュレーションをしてみることです。できればこの2つを同時にやることをお勧めします。

 まず、経験者に聞くことですが、これはできるだけ自分と立場や状況が近くて年齢が少し上の人に聞くのが効果的です。サラリーマンでいえば、ここ数年の間に定年退職した会社の先輩や元上司に教えてもらうのです。

 同じ会社に勤めていた先輩であれば収入の水準も極端に違うことはないでしょう。さらに家族構成なども似ていれば、より現実に近いといえます。雑誌の記事を読むよりも、こちらの方がよほど役に立つと思います。なぜなら雑誌などで老後生活にかかる費用をあれこれ解説している人は、まだそんな年齢になっておらず、実際に老後生活の経験がない人が多いからです。

 そして、自分でシミュレーションをしてみましょう。私がお勧めするのは家計簿をつけることです。私自身、定年退職する2年前から自分で家計簿をつけました。さらに、実際に定年後も家計簿をつけてみましたが、退職後の生活費は現役時代に比べるとおおむね70%ぐらいの水準でした。生活費は月によっても違いますが、20万~25万円ぐらいの間でした。

 もちろん、これは人によってまったく違う可能性があります。私は退職時には子供も独立していたので教育費はかかりませんでしたし、住宅ローンも定年と同時に払い終えましたから、生活費はこの水準でした。そうでない人もいるでしょう。だからこそ、自分の状況を踏まえたシミュレーションをすることが大切なのです。

 記事によっては「老後に1億円かかる」という、いささかセンセーショナルな見出しを掲げる雑誌もあるようです。「老後に1億円かかる」という計算の根拠は月35万円で25年間(65~90歳)生活するという試算が前提になっているようです。

 しかし、サラリーマンだった人で夫婦2人の場合、公的年金で月約22万円(平均的な受給額)は賄われます。この範囲内で生活できれば老後の生活費は6600万円ぐらいになります。

 いたずらに不安にならず、本当にそれだけ要るのか、それほどでもないのかを冷静に見極めた上で生活費や貯蓄計画の見直し、そして今後の収支計画を考えた方がいいでしょう。

 「定年楽園への扉」は隔週木曜更新です。次回は12月1日付の予定です。

大江英樹(おおえ・ひでき) 野村証券で個人の資産運用や確定拠出年金加入者40万人以上の投資教育に携わる。退職後の2012年にオフィス・リベルタスを設立。行動経済学会の会員で、行動ファイナンスからみた個人消費や投資行動に詳しい。著書に「定年楽園」(きんざい)など。近著は「投資賢者の心理学」(日本経済新聞出版社)。CFP、日本証券アナリスト協会検定会員。
オフィス・リベルタス ホームページhttp://www.officelibertas.co.jp/
フェイスブックhttps://www.facebook.com/officelibertas

投資賢者の心理学 ―行動経済学が明かす「あなたが勝てないワケ」

著者:大江 英樹
出版:日本経済新聞出版社
価格:1,620円(税込み)


年金・老後