人類最古 180万年前の右利きの証拠を発見

人類最古の右利きの証拠が見つかったことが、米国カンザス大学の人類学者であるデイビッド・フレイヤー氏らによって学術誌「Journal of Human Evolution」の2016年11月号に発表された。
その証拠とは、180万年前のホモ・ハビリスの上あごの歯の傷だ。ホモ・ハビリスは、私たちが属するヒト属(ホモ属)の仲間で、240万年前から140万年前にアフリカの東部や南部に住んでいた初期人類だと考えられている。化石が見つかった場所のまわりからは、たくさんの石器も発見されているため、彼らは普段から石器を使っていたとされている。
化石の歯はまだ上あごにしっかりと固定されており、斜め方向の傷がたくさんついていた。このホモ・ハビリスの個体(おそらく女性)が右手に持った石器で誤って傷つけてしまった可能性が高いと考えられている。
このあごの骨はまだ1例に過ぎない。しかし、こういった歯を調べれば、初期人類の脳について詳しく知ることができることを物語っている。
現在、人間の約9割が右利きだ。この偏りは、脳の2つの半球が異なる働きを分担しているためだ。 興味深いのは、人間の脳の左半分が体の右半分を担当しているだけでなく、言語を操る中枢機能も受け持っていることだ。
「右利きと大脳の左右の非対称性、そして言語の間には関連性があります。これらはすべてひとまとまりのものとして組み合わさっているのです」とフレイヤー氏は話す。
この関係は、霊長類全体に言えることのようだ。たとえば、ネアンデルタール人も右利きが圧倒的に多く、ある推定によると、チンパンジーは6割が右利きである。ただし、ボノボにはどちらかの手を好む傾向はない。(参考記事:「カンガルーは左利き、有袋類の利き手研究」)
なぜ歯の傷からわかるのか
ホモ・ハビリスの化石は、タンザニアのオルドバイ渓谷から出土したものだ。このあたりは、初期人類の遺物を含む化石がたくさん出土することで知られている。他に人間の利き手がわかる化石には、ホモ・ハイデルベルゲンシスのあごと歯の骨がある。それが解明されたのは2009年のことだが、今回の化石は、それより130万年以上古いものだ。
初期人類が手を使って何をしていたのかを調べるために、歯を分析するのはよくあるやり方だ。
食料の塊や動物の皮などを口にくわえて利き手でない手のほうで引っ張り、利き手で石器を持って切ると、時おり歯を傷つけてしまうことが、現代の人間が行なった実験からわかっている。
右利きの場合、歯の表面にできる傷は左上から右下の方向になる。
フレイヤー氏のチームがホモ・ハビリスのあごの骨を調べたところ、予想通り歯には斜めの傷がついていた。つまり、180万年前に現在のタンザニアにあたる土地で暮らしていた者は、右利きだった可能性が高い。
「歯がすばらしいのは、その化学的性質、成長、発達の過程が保存されていることです」と、米国オハイオ州立大学の人類学者、デビー・グアテッリ=スタインバーグ氏は話す。「そこからたくさんの情報を得ることができます」。なお、同氏はこの研究には関わっていない。
しかし、フレイヤー氏もグアテッリ=スタインバーグ氏も、ひとつの歯だけで全体像はわからないと言う。
「これが本当に人間が右利きになる傾向を示しているかは、右手を使っていた人の比率を調べる必要があります」とグアテッリ=スタインバーグ氏は話す。
今回の研究に触発されて、他のホモ・ハビリスの歯の傷も調べてみようという研究者が出てくれば、謎を解明する道が開かれるのではないかとフレイヤー氏は期待する。
「切歯や犬歯を調べることもできます。これが単発の事例ではないことはほぼ確実でしょう」とフレイヤー氏。「おもしろい論文のテーマになると思いますよ」
(文 Michael Greshko、訳 鈴木和博、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2016年10月27日付]
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