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外貨建てで9%超も 手数料、保険選びの参考に

 

2016/11/5

 生命保険について議論してきた筧ゼミ。最終回は保険契約をめぐる手数料やコストについて屋久仁達夫さんが発表します。メーカーの技術職らしく、コストのかさむ保険商品に鋭くメスを入れてくれました。

筧花子(かけい・はなこ、50=上)経済大学院教授。家計の経済行動や資産形成、金融リテラシーが専門。 岡根知恵(おかね・ちえ、38=中)パート主婦。将来の家計に不安を覚え、金融知識を身に付けようと大学院に。 屋久仁達夫(やくに・たつお、54)大手製造業の技術職。定年を控え年金・介護など老後資金に関心。

 屋久仁 まず銀行でここ数年よく売れている外貨建ての一時払い終身保険を調べました。米ドルや豪ドルなど日本円よりも金利が高い外貨で運用する保険です。銀行は保険を売るごとに保険会社から代理店手数料を受け取るのですが、手数料がどのくらいかを開示する義務はありません。

 岡根 保険契約者は知りたくても分からないというわけですね。

 屋久仁 これまではそうでしたが、変化が起きています。「銀行の収益のため手数料の高い保険を勧めている」という見方があったほか金融庁が行政方針で顧客本位の姿勢を掲げたことから、大手銀行や多くの地方銀行は10月から手数料を自主的に開示しています。表を見てください。あるメガバンクで扱っている米ドル、豪ドル、円から通貨を選べる保険の手数料です。

  豪ドル建てを75歳までに契約すると、まず初年度手数料として一時払い保険料の4.0%が銀行に入るのですね。

 屋久仁 はい。そして銀行は継続手数料として7年目まで毎年0.75%を受け取ることになります。単純計算ですが、トータルで一時払い保険料の9.25%が銀行に入る仕組みになっています。これは米ドル建てでも同じです。

 岡根 一方の円建ては安いですね。76歳以上なら初年度手数料が0.3%、継続手数料は0.05%になっています。1000万円を投資しても初年度手数料が3万円、継続手数料が毎年5000円ですね。

  屋久仁さん、外貨建てと円建ての手数料にどうして大きな開きがあるのか説明してください。

 屋久仁 銀行や保険会社に聞くと「外貨建ては為替次第で運用成績が変動することを顧客に説明する労力やコストが大きい」という回答でした。そうした面も確かにありますが、これほど大きな差を付ける理由として納得しにくい人はいるかと思います。

 岡根 ではどうしてでしょうか。

 屋久仁 実は外貨と円の金利差が最も大きな理由とされています。保険会社は金利の高い外貨で運用すれば、銀行に高めの手数料を払っても商品として成立するのです。一方、円建てはマイナス金利政策によって運用難が一段と強まり、十分な手数料を払うだけの商品を設計することが難しくなってきました。

  円建ての一時払い終身保険は販売停止が相次いでいます。

 屋久仁 そうですね。一部の生保はまだ扱っていますが、表で取り上げた76~87歳のための円建ては販売停止になりました。契約者が高齢になるほど死亡保険金の支払いの可能性が高まるので、その分だけ商品設計が難しくなるのです。

 岡根 銀行が手数料を開示すると利用者はどんなメリットがありますか。

 屋久仁 これまで説明した外貨建て一時払い終身保険など、運用次第で元本割れする可能性のある保険商品のパンフレットには、実は以前から契約者が負担する費用項目が記載してあります。しかし計算方法が複雑なので、一般の人が読んでもコストが具体的にいくらか把握するのが難しいのです。今回の開示で少なくとも銀行の取り分が分かるため、商品を選ぶ際の判断材料になります。

  定期死亡保険や医療保険、就業不能保険など万が一の保障のための保険商品のコストはどうなっていますか。

 屋久仁 月々の保険料は保険金の支払い原資になる純保険料と、保険の運営経費である付加保険料に分けられますが、保険会社は開示する義務がありません。メーカーが製品原価の内訳を開示しないのと同じです。もっとも、保険業界で唯一、ライフネット生命保険が純保険料と付加保険料の割合を自主的に開示しているので参考になります。こちらのグラフです。

 岡根 30歳男性が保険金3000万円、期間10年の定期死亡保険に入ると、保険料が月3190円で、このうち2435円が純保険料、残りの755円が付加保険料なのですね。

 屋久仁 同社はインターネットや郵送で契約するので、営業職員が対面で営業する大手生保の商品よりも付加保険料を安く抑えられるそうです。ほぼ同じ保険の保険料が月8000円ほどする大手生保もあります。死亡保険の純保険料は、年齢ごとの死亡率をまとめた業界共通の標準生命表を基にするので各社でほとんど差はありませんから、保険料の差は保障内容ではなく、コストのかけ方の差とみていいでしょう。

  医療保険と就業不能保険はどうですか。

 屋久仁 これらは標準生命表のような業界共通のデータはなく、各社が厚生労働省の統計や既存契約の実績などから純保険料を計算しています。医療保険も就業不能保険も保障内容が各社で異なるので、保険料は単純比較できません。ライフネットはこちらでも純保険料と付加保険料を開示しています。保険金の請求や支払いの手続きに手間のかかる就業不能保険は付加保険料の割合がやや大きくなっています。

■外貨投資なら預金・債券
 ファイナンシャルプランナー 横川由理さん
 一時払いの外貨建て保険には、運用によって円換算の解約返戻金が保険料の「110%」「120%」といった目標に達すると、その時点で自動的に円建てに移行して利益を確保するタイプの商品があります。円安が進んだり、株式などでの積極運用が成功したりすれば10%くらいの利益は出せるのではないかと期待しがちですが、運用にかかる費用や短期で解約した場合の「解約控除」を差し引いたうえでの目標ですから、達成するのはそう簡単ではありません。
 単に外貨建ての投資をしたいのなら、コストのかさむ保険商品よりもシンプルな外国債券や外貨預金を勧めます。死亡保険金に適用される相続税の非課税枠を使いたい場合は保険商品でなければなりませんが、為替リスクのある外貨建てより円建ての方がコストが安く、より確実に節税につなげられそうです。(聞き手は表悟志)

[日本経済新聞朝刊2016年10月29日付]

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