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私たちは、優秀な人は何をやらせても優秀、という誤解を持ってしまうときがあります。そんな人たちに比べれば、自分はまったくダメなんだ、というあきらめ感を持ってしまう人もいるようです。しかし現実は決してそうではないということを、私たち人事の専門家は知っています。つねに優秀な行動をとれる人は存在しません。その理由を知れば、一般的に見てとても優秀な行動をとれない人であったとしても、活躍の場を獲得できるし、出世してゆけることがわかります。

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リーダーに求める基準を定める2つの要因

たとえばとても明るく朗らかで、いつも周囲の人を褒めながらやる気を高め、かつ自分自身も業務を任せるととても素晴らしいアウトプットを出すという人がいたとします。誰が見ても優秀なタイプの人材ですが、彼がどんな状況でもリーダーに向いていると判断されるのか、といえばそうではありません。場合によってはリーダーには不適格だと判断される場合すらあります。

なぜなら、リーダーに求められる人材像というのは、2つの要因で決まるからです。その要因によっては、どこでも通用しそうな優秀なタイプよりも、違う特定のタイプの人材像が求められる場合があるのです。

たとえば、極めて厳しい環境変化が起きた時。そして周りにいる人たちが、その環境変化に自力で立ち向かえないような時だと、どんなリーダーが求められるでしょう。明るく朗らかでやる気を高めるタイプの人材は、どんな時でも十分なリーダーシップを発揮してくれそうです。しかし「極めて厳しい環境変化」を「大きな災害」に置き換えてみて、「環境変化に自力で立ち向かえないような人たち」を「災害訓練をしたことがない人たち」としてみたらどうでしょう。そのような場面で有効なのは、やる気を高めるタイプのリーダーシップではなく、有無を言わせず人を従わせるタイプのリーダーシップではないでしょうか。

一方で、有無を言わせず人を従わせるタイプのリーダーシップは、「穏やかな成長環境」で「自立して活躍できる人材」に対してはマイナスの効果を生んでしまいます。たとえば穏やかな秋晴れの日に、登山歴10年以上のベテランたちをまとめるリーダーが、周囲の人たちに対して有無を言わせようとせずに指示命令ばかりしていては、うまく回りません。そのような環境では、むしろゴールだけ示して後は任せるタイプのリーダーシップが有効です。

このような考え方は、リーダーシップについての条件適合理論として知られています。パス・ゴール理論として知られるこの考え方を、弊社セレクションアンドバリエーションでは、DAPSフレームとして整理し、昇格基準を定めたり、アセスメントを実施したりしています。

リーダーを登用する基準の実際

このような理由から、会社の中の昇格基準を作るときには、その会社を取り巻く現在の環境と、今会社で働いている従業員たちがどのような人たちか、ということを踏まえて設計します。リーダーに求められる人材像というのは、会社が違えば変わるし、会社が同じであっても、環境が変わったり従業員の多くが入れ替わったりすればやはり大きく変化するからです。

皆さんの会社でも、会社を取り巻く環境によって、社長のタイプが変わってきたのではないでしょうか。

では具体的にどのような基準が用いられるのでしょうか。

ある流通業で昇進昇格基準を設計した例を示してみましょう。この会社での標準的な店舗では、正社員15名、アルバイト30名で運営をしています(たとえば食品スーパーをイメージしてみましょう)。

そこで店長にどのような人材を登用すべきか、ということを考えるために、先ほど示した二つの基準で考えました。

まず現在の環境についてですが、環境は決してよくありません。大半の出店エリアに大手の競合が進出してきていて、環境変化が激しい状況です。

一方で働く人たちですが、ベテランの半分くらいがその競合店舗に引き抜かれました。そのため、全体の2割くらいが自律的に働くことができるのですが、あとの8割は経験が少ない成長途中の従業員でした。

単純に考えると、それではDAPSフレームの左上、D「しっかり命令」タイプのリーダーシップが重要だということになります。しかし話はそれほど単純ではありません。

一つの会社に一つのタイプのリーダーが求められるわけではない

それぞれの店舗を運営するためには、たくさんの従業員が必要です。その大半が成長途中なのだからD「しっかり命令」タイプの行動がとれる人を昇進させることで店舗運営はスムーズになります。

しかし運営がスムーズなだけではビジネスは成長しません。お客様の状況を洞察し、新しいチャレンジをしてみたり、あるいは今までのやり方を抜本的に変えてみたりするような、熟練した従業員の活躍も必要です。

しかしそういう熟練者たちにD「しっかり命令」タイプの態度で接していると、彼らはやる気を高めることができせんし、自ら動くことも減ってしまいます。激しい環境変化の中で熟練者たちに自発的に動いてもらうためには、A「ゴールを示す」リーダーシップが必要なのです。

そこで副店長への昇格基準はD「しっかり命令」タイプで設計し、店長への昇格基準はA「ゴールを示す」タイプで設計しました。そしてそれらの評価を適切に行って、最適な人を昇進させていくことになったのです。

基準が明確なら適性判断と研鑽の方向性がわかる

仮にあなたがこの会社の従業員だとしたら、このような基準が明確に示されていれば、どんな行動をとればよいかがはっきりするのではないでしょうか。

例えば自分自身が命令には向いていると考えられるのであれば、副店長への昇進は比較的容易だということがわかります。だからそこまでは積極的に業務に励んで、しっかりと指示命令ができるということを示していけば、副店長への昇進は速まるでしょう。

しかし副店長になったあとは、そのまま指示命令ばかりしていたのでは、店長になれないということもはっきりしています。だから、自分の代わりに指示命令ができる人を次の副店長に育てながら、自分自身はゴールを示せるようになるために新しい勉強を始めていけばよい、ということがわかります。

あるいは、自分はみんなと仲良くすることは好きなんだけれども、どうしても指示や命令をしたり、あるいは少し遠くのゴールを示したりすることが難しい。そういう風になりたいとも思わない、ということであれば、環境変化が激しくない業界の会社を探して、そちらに転職をしたほうがよいということもわかるわけです。

私が常々お伝えしている「出世とはもやは社内で上に行くことだけではない」という言葉は、自分自身の適性を踏まえながら、価値を生み出し成長できる場所で活躍できることを目指そう、ということでもあるのです。

平康 慶浩(ひらやす・よしひろ)
セレクションアンドバリエーション代表取締役、人事コンサルタント。
1969年大阪生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科MBA取得。アクセンチュア、日本総合研究所をへて、2012年よりセレクションアンドバリエーション代表取締役就任。大企業から中小企業まで130社以上の人事評価制度改革に携わる。大阪市特別参与(人事)。

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