ねじにAI 首位、日東精工が狙うIoTの未来
「産業の米」といえば半導体。では「産業の塩」といえば何だろう。答えはネジだ。そのネジを7万種類そろえ、どんな顧客のニーズにも応えるネジのトップメーカー。それが日東精工だ。世界最高水準の技術を支える同社社長、材木正己氏(66)の経営哲学は「1%にこだわる」だ。
日東精工が年間に生産できるネジの本数は264億本。これまで生産したネジの本数となると延べ6166億本で、大半が精度の高い精密ネジだ。小さいものになると直径0.6ミリメートルと「砂粒ほど」の大きさになる。
ただ、すごいのはここから。日東精工の工場にはその砂粒ほどの小さなネジ1本落ちていないのだ。そこには材木社長の「そのネジ1本にどれだけの時間と知恵と努力が詰まっているのかを常に考える」経営がある。
顧客満足度100%では不十分
日東精工の材木正己社長
材木社長に言わせれば「顧客満足度100%ではまだまだ不十分。120%でないと」。顧客からいずれ出てくるだろう顧客ニーズを先回りして予想、それに対するソリューションを用意しておいてこそプロの仕事という。そのためにネジは日々進化し、改良を続ける。その努力の結晶であるネジ1本が無造作に工場に落ちているようでは「研究開発への情熱そのものがなおざりにされている」というわけだ。
材木社長はこうも言う。「1%をおろそかにするものは1%によって破れる」と。
「人間がすることだから100%なんてあり得ない。99%で十分」と考えがちだが、材木社長は違う。「成田空港の離着陸は2013年で1日平均607便。この1%の6便が毎日墜落したら何人が死亡することになりますか」。このこだわりこそが、日東精工を世界トップのネジメーカーのポジションを支えているのだ。
JAXAと協力、月面地盤調査に参画
最近、日東精工は新たな挑戦を始めた。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が始めた月面地盤調査に参画したのだ。無重力の環境で月面探査機を使い遠隔操作で地中の状況を調査することを目指すという。
日東精工は戸建て住宅用などの地盤調査機でも国内で80%超のシェアを持つ。1キロニュートンの重さで先端のドリルを回転させながら地面に押し込み「どれくらい深く沈むのか」「何回回転するのか」「そのスピードは?」とデータを収集、地盤の固さや土質を割り出していく。
実はこの技術、もとをたどればネジに行き着く。地盤調査機の先端のドリルをネジのように回すことから始まったもので、ネジを知り尽くした会社だからこそ開発できた機器なのだ。ネジづくりを極めることが、新たな市場開拓の道を開いた。
めざすはIoT ネジとAIの融合へ
日東精工が手がけるネジは、小さいもので「砂粒ほど」
そんな日東精工が次に目指すのは、あらゆるものがネットにつながる「IoT」市場への参入だ。「ネジのような昔ながらの製品が、なぜ最先端のIoTの世界に」と訝(いぶか)る人はぜひ、思い浮かべてほしい。「産業の塩」といわれるネジが完成品の中で、どれだけ数が使われているか。材木社長によると、小型乗用車なら1台で3000本、航空自衛隊の戦闘機「F15」になると1機32万本ものネジが製品を支えるという。
これを「放っておく手はない」と材木社長。製品の隅々にまで入り込み、部品の要所要所を締めるネジとAI(人工知能)を融合させれば、製品の稼働状況、老朽化度合いなど収集できるデータは計り知れない。
京都府北部の綾部市という人口3万3000人の町に本社を置き世界を見据える日東精工。アジアや中南米などでの事業展開も加速させ、18年12月期には売上高を15年12月期比で68%増の400億円にまで引き上げる計画だ。
(前野雅弥)