食欲を満たし、肥満も防ぐ 食物繊維の知られざるパワー

食べないダイエットはリバウンドの元凶

「私は13歳のとき、リンゴだけを食べるダイエットで、3日間で3キロやせた後、1日でリバウンドしました。これ以降、あらゆるダイエットを試した結果、おいしく食べながらやせるダイエット法を見つけて成功し、広く提案しています」と話すのは、管理栄養士で大人のダイエット研究所代表でもある岸村康代さんだ。
内科・循環器科専門医である池谷医院(東京都あきる野市)の池谷敏郎院長も、30代の初めに1日にパン1個程度しか食べないダイエットを決行し、3カ月で10キロ強やせたが、普段の生活に戻ると、ダイエット前より太ってしまったという。
池谷院長は、「急激なダイエットをすると、少量のエネルギーでも生命維持できるように、体内の倹約遺伝子が働くようになります。そして、少ないエネルギーで活動できる体になった後に、普通の食事に戻って運動をしなくなると、太ってしまうのは当然のこと」と、自身の経験を含めて、食べないダイエットの弊害について話した。
食べるダイエットは「食物繊維」がカギ
「食べてやせるダイエットで注目されているのが、食物繊維の働き」と岸村さんは話す。岸村さんと池谷院長によると、食物繊維には、次のような重要な働きがある。
<食物繊維の働き>
1.腸内で善玉菌を増やす働きをして、腸内環境を整える
腸内環境は肥満と関係し、また糖尿病、アレルギー、メンタル系の疾患とも関連があることが近年の研究でわかってきた。人それぞれに腸内環境(腸内細菌の種類や状態)が異なり、腸内にどのような菌をどのような状態でキープしているかがその人の体質や病気になりやすさなど、疾患との関係があることがわかってきたのだ。
食物繊維には大きく分けて水溶性と不溶性があるが、水に溶けやすい水溶性の食物繊維は、後述するように血糖値の上昇を抑制する効果が高い。また、腸内で発酵することにより、善玉菌が繁殖しやすい腸内環境を作ることもわかっている。
2.食後血糖値の上昇を抑制する
食後血糖値の上昇は、糖尿病のリスクを高める。急激に上昇した血液中の糖がコラーゲン繊維と結びついて弾力性がなくなり、しわやたるみの原因にもつながりやすい。さらに、骨もコラーゲン繊維でできているため、食後血糖値の上昇は骨質を悪化させることにもつながり、ひどくなると骨がもろくなって少しの衝撃で折れやすくなる。食物繊維はそれらの原因となる食後血糖値の上昇を抑制してくれる。
3.脂質の排泄を助ける
脂質は多すぎるとメタボリックシンドロームや動脈硬化につながる。食物繊維には、動脈硬化の原因になるLDLコレステロールの排出を助ける働きがある。
動脈硬化は脳卒中や心筋梗塞のリスクを高めるので、食物繊維をとることは、これらの病気の予防にもつながる。
池谷院長は、「食物繊維を豊富に含む食材は、食べるためによくかむので、食べすぎを防げるという意味でも、ダイエットにつながります。また、腸内の善玉菌が食物繊維をエサにして短鎖脂肪酸という物質を作り、この短鎖脂肪酸が血液中に出ると、脂肪細胞が脂肪をため込むのを防ぐので、太りにくくなるのです」と説明する。
こんなに利点の多い食物繊維だが、残念ながら日本人は十分にとれているとはいえない。「1日に必要な食物繊維量は男性20g以上、女性18g以上といわれていますが、男性はその73%、女性は77%、若い世代になると60~66%程度しか摂取できていません」(岸村さん)
手軽に食物繊維をとる方法は?
では、食物繊維を豊富に含む食材には、どんなものがあるのだろうか?
・玄米や、大麦をはじめとする各種の雑穀
・大豆、およびおからやきな粉、納豆などの大豆を皮ごと加工した製品
・小豆、ゴマ、アーモンドなどの豆類、ナッツ類
・エノキ、シメジ、エリンギ、マイタケ、シイタケなどのキノコ類
・ゴボウ、オクラ、モロヘイヤ、レンコンなどの野菜
・海藻類、乾物類など
乾物類について例えば大根は、生のままだと食物繊維が少ないが、干し大根にすると水分が蒸発するために食物繊維をとりやすくなる。ここに挙げたような食材を使った料理を食べると、食物繊維をたっぷりとることができる。

また、「小腹が空いたときにおやつとして手軽に食べられる食物繊維豊富な食品としては、甘栗や豆乳、蒸し大豆をおすすめします。蒸し大豆は、大豆を蒸すことで高い栄養価を逃さず、うまみも凝縮されています」と岸村さん。甘栗も蒸し大豆も、そのまま食べられるレトルトパック入りの製品が市販されているので、手軽に活用できそうだ。
ヨーグルトのような発酵食品も腸内環境を整えてくれるが、食物繊維を一緒に食べることでさらに効果が高くなることがわかっている。池谷院長は、「宴会などがあって食べる量が増える日は、朝食を食物繊維が豊富な野菜のジュースとヨーグルトだけにしてバランスをとっています。この朝食をとると、食物繊維の効果で血糖値の上昇が緩やかになり、さらに食べたものが腸内を移行している時間が長いので、パンだけ食べていたときよりお腹がすきにくいことを実感しています」と話す。
胃腸が弱ったとき、便秘のときは食物繊維のとり方に注意
ダイエットにも、腸の環境を整えるためにも、効果のある食物繊維だが、とり方には注意も必要だ。
食物繊維は消化しにくいので、体に良いからといってとりすぎると胃腸に負担がかかる。胃腸が弱っているときは、無理にとらないようにしよう。また、よくかまずに食べたり、食材にきちんと火が通ってなかったりすると消化に負担がかかるので、胃腸が弱っている時には食べ方、調理法にも気をつけることが肝心だ。
さらに、「便秘が続いている人が、急に食物繊維の豊富な食材を生のままで大量に食べると、一時的に調子が悪くなることもあります。便秘の際に食物繊維の豊富な食材を食べる場合は、よく加熱して少しずつとるようにしましょう」(岸村さん)
最後に池谷院長は、「食事を変えると、24時間後には腸内環境が変わり始めるというデータがあるそうです。今日から食物繊維の豊富な食材を意識して食べると、明日から腸内環境が好転し始め、ダイエットに効果があるだけでなく、10年後、20年後の血管の大病の予防にもなります」と語った。
昔ながらの日本人の食卓では、食物繊維の豊富な雑穀を米に混ぜて主食にするほか、豆類、大豆製品や乾物類を使ったおかずも多かった。洋風の食事が多くなった現代では、食物繊維の豊富な食材の登場回数は、残念ながら減っているのが実情だ。
食べてやせるダイエットのために、また腸内環境を整えて生活習慣病を予防するために、食物繊維の豊富な食材を、もっと積極的に活用してはどうだろうか。
(ライター 芦部洋子)
この人に聞きました
池谷医院院長、医学博士。東京医科大学医学部卒業後、東京医科大学病院第二内科に入局、血圧と動脈硬化について研究。1997年、医療法人社団池谷医院理事長兼院長に就任。専門は内科・循環器科。東京医科大学循環器内科客員講師、総合内科専門医、循環器専門医としても活動。テレビ番組、雑誌、新聞などのメディアで、わかりやすい医学解説が好評。『「血管を鍛える」と超健康になる!』(三笠書房刊)、『ダイエットの新習慣』(朝日出版社刊)など著書多数。
管理栄養士。大人のダイエット研究所代表理事。大妻女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻卒業後、商品開発、病院での指導などを経て独立。数多くの健康的なダイエット・サポートの経験などを生かし、商品開発、講師、執筆、メディア出演など多方面で活動。食物繊維摂取を推進する『食物繊維ラボ「大人の繊活プロジェクト」』主宰。著書に『10日間でやせ体質に生まれ変わる野菜レシピ』(アスコム刊)など。
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