胃が大きくなったと思ったら、プチ断食で体をリセット
「断食はダイエットに効果がない」は本当か?
「断食は、『ダイエット』と、カラダの『浄化・リセット』」という大きく分けて2つの目的で行われます」。青木院長はまずそう前置きした上で、前者、すなわちダイエット目的で"何も食べない系"断食を行うと、多くの場合、体脂肪だけでなく、体の水分や筋肉が減少。基礎代謝の低下を招き、一時的な体重減少にはなってもリバウンドしてしまうことが多いと話す。また、脂肪が燃えてなくなるためにはビタミン、ミネラル、タンパク質といった栄養素が必要不可欠であり、食べない系断食は効率良く脂肪が燃えないという意味でもダイエット効果は期待できないという。
青木院長が推奨するのは、後者のカラダの「浄化・リセット」、つまり「アンチエイジングのための断食」だ。
「断食は、今でこそ特別なものになっていますが、人類の長い歴史は"飢餓"との闘いでした。丸1日どころか、1~2週間絶食に近い日が続くことも珍しくなく、その間、当然胃袋は空の状態。つまり意識せずとも消化管が空になる機会が普通にあることが、人体にとっては正常な状態だったのです。しかし、今では本当の空腹感を覚える前に『お昼の時間になったからランチをとろう』といった食事サイクルが当たり前になっている。食物が常時胃腸に残っている現代のような状況は、消化管の機能を低下させ、自律神経系にも悪影響を与えてしまう恐れがあるのです」(青木院長)
そこで、意識的に消化管が空っぽになる状態を作り出すことでカラダをリセットし、自律神経系を整えることを目指したのが「アンチエイジングのための断食」だ。
食べない系ダイエットとしての断食と異なる点
食べない系ダイエットとしての断食と大きく異なる点は、(1)通常は2日もあれば胃腸が空っぽになるため、実施期間は48時間(丸2日)と短めなこと。そして、(2)胃や腸を休ませ、人間が本来常に感じていた「小腹がすいた」状態をカラダと頭に再認識させられれば十分なので、期間中まったく何も口にしないということはなく、固形物以外のものは口にできる、という点だ。
青木院長によると、自律神経は、消化管や満腹中枢に深く関わっており、代謝やホルモン、免疫を統括している。そのため、自律神経が整うと代謝が良くなり、体が活性化する。
「人によっては、たまっていた疲労感がとれたり、肌がきれいになったり、便秘改善といった相乗効果が見られるほか、プチ断食を繰り返すことで、代謝が改善したり、少食癖がついてやせやすい体になることもある」と青木院長。「通常の食事療法や運動療法だけではやせにくくなった」「いつも疲れがたまっていてだるい」など、自律神経の乱れが疑われる人や、食べすぎが常態化していわゆる"胃袋が大きくなってしまった"状態の人には特におすすめだという。
では、プチ断食はどのように行えばいいのか。実践方法や、実施のポイントを紹介する。
青木式プチ断食の実施のポイント
第1のポイントは、プチ断食は1回キリでおしまいではなく、1カ月に1~2回の頻度で繰り返し行ってこそ効果的、ということだ。カラダをリセットして、自律神経系を整えても、元の食生活に戻ればカラダもすぐにまた元通りになってしまう。時々、意識的に"飢餓状態"を作り出し体内をリセットし続けることが必要だ。
「特にダイエット効果については、プチ断食はそれを行うこと自体より、その後で効いてきます。もちろん断食を行ったときも少し体重は減るけれど、それはただ脱水状態になっているだけで脂肪が燃えているわけではありません。食べすぎが常態化して満腹中枢がおかしくなり、『これだけ食べれば十分』と思える食欲の満足ポイントが上振れしている人の場合、プチ断食を行ってしっかり空腹感を味わうことでその満足ポイントを下げることができるのです。いわば、"胃袋が小さい状態になる"わけで、プチ断食実施後もその下がった満足ポイントを維持したり、満足ポイントが上がってきたなと思うたびにプチ断食を繰り返すうちに、少食でも満足できる"やせ体質"になれるのです」(青木院長)
第2のポイントは、プチ断食実施中は、プロバイオティクス系のヨーグルトを食べるのがおすすめだということ。「プチ断食により胃腸を休ませると同時に、普段の食生活で乱れている腸内細菌叢(そう)を整えることもでき、その点においてプロバイオティクス系ヨーグルトは有用です」(青木院長)
そして第3は、短期間とはいえ、平日に仕事をしながら実践するのは困難なので、週末などを利用して行うと無理なく実施できるということだ。
それ以外のポイントを含めた、具体的な実践方法や注意点は次の通りだ。
◆青木式プチ断食のポイント◆
1)軽めの夕食(できれば和食系)に
2)アルコールはなるべく飲まずに早めに就寝
3)仕事などのことは一切忘れてリラックスする
1)1日目~2日目の昼までは、プロバイオティクス系ヨーグルトを朝、昼、晩の3食摂取する
2)栄養補助ドリンクも3食ごとに摂取する。豆乳と野菜ジュースでの代用も可
3)水分はミネラル炭酸水(甘くないもの)にレモン果汁を絞って、1日1.5~2L摂取。1回300mLくらいをこまめに分けて摂る。これはいくら摂ってもよい
4)2日目の晩は、お粥と具のない味噌汁か吸い物を摂って、翌日に備える。
1)終了後、最初の食事はいつもより軽めにする
1)禁煙、禁酒が基本
2)空腹でイライラするときは、アロマテラピーもおすすめ。バニラのエッセンシャルオイルやグレープフルーツの香りがよい
3)風邪気味、生理中など体調が悪いときはやらないこと
4)終了後のドカ食いに注意!
断食といっても、固形物を摂らずに胃腸を休ませる方法なので、思ったほど辛くないのもうれしいところだ。
「1回目のプチ断食で、空腹感をしっかりと経験すること。これを2週間に1回程度行うことで空腹感が習慣化し、3カ月ほど続けると満腹中枢の満足ポイントが確実に下がり始めます」(青木院長)
また、プチ断食で空腹時間を長くすることで、過食を防ぐホルモンであるレプチンが分泌され、長寿遺伝子であるサーチュインも活性化されるという。
ダイエットのための断食ではなく、自律神経を整えるため効果があるプチ断食で、やせやすい体づくりを目指そう!
(ライター 源川暢子)
この人に聞きました
横浜クリニック院長 ララクリニック内科部長。1961年東京都生まれ、1988年防衛医科大学医学部卒。防衛医大、東大医学部付属病院などで、内分泌・代謝内科、腫瘍内科の臨床研究に従事。「老化が病気を引き起こす」という観点からアンチエイジング(抗加齢)医学のフィールドにおいて早くから活躍。2007年から2012年まで順天堂大学大学院に開設されたアンチエイジング医学の講座「加齢制御医学講座」の准教授に就任し、抗加齢医学の臨床・研究・教育にも従事。2008年7月からは横浜クリニックにおいて、"老化による免疫力の低下"ががんを進行させるという観点から、免疫療法に力を入れた診療も行っている。ダイエット外来は、ララクリニックにて行っている。
[日経Gooday 2015年8月31日付記事を再構成]
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