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「イクボス」存在感増す 働き方変え成果 「企業同盟」への加盟、100社超

2016/10/29

 部下や自身のワークライフバランスに配慮しながら、成果をあげる「イクボス」の存在感が増している。育成に取り組む企業のネットワーク「イクボス企業同盟」の加盟企業は9月に100社を超えた。男性中心の業界でも、イクボスによる風土改革が進む。

■富士ゼロックス 大沢秀一さん

富士ゼロックス・大沢秀一さん

 1980年代から女性活躍推進に取り組む富士ゼロックス。「働き続ける女性は増えたが、活躍が課題」(人事部)。現状分析で見えてきたのは女性本人の意識に加え、「男性上司の仕事の与え方の問題」だ。大変な仕事は女性にはやらせないといった「配慮」がキャリアの壁になっていた。2012年に人事制度を改定。部下の多様性を生かす管理職の育成に舵をきった。

 部下だけでなく自分もワークライフバランスを実現し、成果も上げるイクボスのあり方は、目指す「変革型マネジメント」の像に重なった。14年12月にNPO法人ファザーリング・ジャパン(FJ、東京・千代田)が立ち上げたイクボス企業同盟に加盟した。

望む方向へ成長促す

 東京第一営業統括メジャーアカウントソリューション営業部の大沢秀一部長(50)は、大手企業を担当する重要部門で30人の部下を率いる。10月から女性部下が2人、産休に入った。保育園への送りがあるから早朝のアポは無理という共働きの男性部下もいる。それでも「対処すべきことがあれば個別に柔軟に対応するだけ」と動じない。

 時代や顧客ニーズの変化には逆らわず、仕事の仕方を変えていく。育成も同じ。「本人が望む方向に成長させていくことが大事」と話す。

 週末は小学生のサッカークラブのコーチを務める。「子どもは素直。正しく伝えればできるし、伝え方が悪いと間違う」。気づきを得る一方、ひたむきに頑張る子どもの姿に活力をもらう。「トップの姿は部門の姿。自分のやる気が部署の活気につながる」

■三井化学アグロ 佐藤勝義さん

三井化学アグロ・佐藤勝義さん(左)

 三井化学グループは3月にイクボス企業同盟に参加した。女性活躍推進に本格的に取り組むため三井化学人事部にダイバーシティ推進室を立ち上げたのは昨年10月。ほどなく安井直子室長がイクボス育成に乗り出したのは「これからは部下を理解し、やる気にさせる管理職が評価されるべきだ」と考えたからだ。

 すでに多様性を生かすマネジメントを実践している男性管理職がいた。農薬の製造・販売を手掛ける三井化学アグロ(東京・中央)の海外営業本部海外管理グループでグループリーダーを務める佐藤勝義さん(47)だ。

責任範囲を明確に

 6人の部下のうち3人はワーキングマザー。「最初は戸惑った」が「一人ひとりの仕事を細かく理解することから始めた」。部下の横に座り、業務を丁寧にヒアリング。全体像を把握したうえで各人の責任範囲を明確化した。各業務にサブ担当をつけ情報共有を徹底。急な欠勤時もサポートし合える仕組みを作った。

 年2回の社員面談の時期には、派遣スタッフとも自主的に面談。「何かあれば誰かが耳に入れてくれる関係づくり」に努める。「上司が自分を見ていてくれるという信頼から、みんなで頑張ろうという好循環が生まれた」と安井室長は見る。

■大東建託 水野友之さん

大東建託・水野友之さん(中)

 建設業界では人材確保の面からもイクボス育成に取り組む企業が多い。大東建託は4月に同盟に加入した。

 「部長はとにかく明るくてポジティブ。社内で一番明るい部署だと思う」。男性部下にそう評されるのは、不動産流通開発部の水野友之部長(54)。地主と企業をつなぎ事業提案・支援を手掛ける同部を14年に立ち上げ、112人の部下を率いる。

 営業マンとして活躍し33歳の若さで課長に。「もともと上司からああしろこうしろと言われるのが嫌い。言われてやる気を失った言葉は絶対部下に言わない」と決めた。

効率よさ、共に考える

 マネジメントの基本は、「一人ひとりをよく知ること。それで初めて、有効な指導や育成の方法が見えてくる」。育児中の女性部下も同じ。丁寧に状況を聞き取り、一緒に効率的な仕事のやり方を考える。「介護や病気で時間制約がある部下も増えてくる。社員をやめさせず、長く働いてもらうことが重要」と話す。

 イクボス育成に取り組む企業の裾野の広がりについて、「従来型のマネジメントでは成果も上がらないし、優秀な人材も採用できないという危機感が企業に広がっている」とFJの安藤哲也代表理事。「イクボス育成も働き方改革も1社でやるのではなく、業界やグループ全体で連携を取り合い進めたほうが効果的だ」と指摘する。

■女性活躍にとどまらぬダイバーシティマネジメント

 多様な人材を活用しなければ生き残れないという認識が企業に広がる一方、かつて自分が成果を出してきた働き方やマネジメント手法以外のやり方が分からず、試行錯誤している管理職が少なくない。こうした中、組織に必要な働き方改革や業務改善を行い、成果を上げる管理職のロールモデルを発信し、企業の枠を超え好事例を共有する意味は大きい。

 部署全体のワークライフバランスを実現しながら成果を上げる管理職に共通するのは、「慣例にとらわれず無駄をなくしていく行動力と、一歩踏み込んだ部下とのコミュニケーション」と法政大学の坂爪洋美教授は指摘する。業務改善に向けた地道な取り組みと部下との信頼関係構築がマネジメントの土台をつくる。

 「部下一人ひとりのやる気を高め、それぞれの力を引き出し、しっかり仕事をしてもらう以外に成果を上げる方法はない」。取材したイクボスたちは口をそろえる。女性活躍にとどまらぬダイバーシティマネジメントの姿がそこにある。

(女性面編集長 佐藤珠希)

〔日本経済新聞朝刊2016年10月29日付〕

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