関東への進出目前 定食チェーン「宮本むなし」
「和食さと」「にぎり長次郎」などの和食チェーン店を展開するサトレストランシステムズは、定食チェーン店「めしや 宮本むなし」を完全子会社化し、多店舗化に乗り出した。
"宮本武蔵"ならぬ"宮本むなし"というインパクトのある店名の由来は「創業者の息子さんが幼いとき、むさしとなかなか言えず、むなしと言っていたことからきている」と、買収後にサトから宮本むなしの社長に就任した田口剛氏。その田口氏に買収の理由と今後の戦略などを聞いた。
関西では「ご飯おかわり自由の定食屋」として有名
宮本むなしは関西を中心に中部、岡山で計69店舗を展開。特に関西では「ご飯おかわり自由の定食屋」として知名度は抜群。ただ、顧客の大半が男性客で女性客にはなじみが薄い。
大阪・梅田の阪急電車高架下近く。飲食店がひしめく通りに「めしや 宮本むなし芝田店」がある。営業中の店の中では最も古い店舗だ。24時間営業で、夜の仕事帰りに立ち寄る水商売の客も多い。最近は、朝食を食べに来る外国人観光客が増えているという。定食チェーン店とはいえ、昼夜問わず、和食を求める客の胃袋に応えているのだ。
ランチタイムに店内をのぞくと、男性客が8割近く。学生から年配まで年齢層は幅広い。病院帰りに必ず立ち寄るという常連の年配男性は、決まって「おろしカツ定食」を注文するという。「息子ともよく来るが、味にうるさくケチな大阪人が認めるおいしさ」と、満足げに話す。
サラリーマン2人組が注文していたのは、「おろしカツ定食」と「チキン南蛮定食」。市内で働く男性は「学生のころからよく通っているが、若いときはご飯のおかわり自由なのが魅力的だった」と振り返る。初めて来店した東京在住の男性は「東京でも食費を抑えて腹いっぱい食べたい若者に受けるのでは」という。
一方、大阪市のJR塚本駅前店は近隣の住民がほとんどで、女性客やファミリー客も少なくない。開業して10年近くたつが、毎日気軽に通える定食屋として地元に根付いている。塚本駅の一日の乗車人員は約1万7000人。「3万人未満の駅で外食チェーンが長く営業できていること自体感心している」と田口社長。過当競争に巻き込まれることなく、地域にしっかり認知されて商売を続けていることが、宮本むなしの一番の強みになっている。
がっつり系からヘルシー系までメニューは多彩
宮本むなしは2003年、兵庫県尼崎市に1号店を開業。前身の運営会社はテーマ居酒屋で売り上げを伸ばしたが、バブル崩壊後の低迷期に景気変動の影響を受けにくい業態として開発したのが、大衆向け定食チェーンの宮本むなしだった。当時、ご飯食べ放題をウリにした外食チェーン店はなく、その先駆けとして人気を集めた。
メニューは、590~790円の定食を中心に単品の丼、麺類、カレーも展開。卵をとろとろに仕上げた玉子丼は390円、きつねうどんも350円、ビーフカレー450円と、低価格の単品メニューも人気が高い。
定食では、ボリューム満点のジャンボトンカツ定食が650円、だしが効いているだし巻き付きの「塩サバと玉子焼の定食」も650円。がっつり系からヘルシー系までメニューは多彩だ。サンマやハンバーグ、鶏の南蛮漬け、野菜炒めなど少食の筆者でも、炊きたての白いご飯をついおかわりしたくなるようなおかずがそろっている。
「味がおいしいのはもちろんのこと、白いご飯を腹いっぱい食べて満足してもらうのが宮本むなしのウリ。いかにしてご飯をたくさん、おいしく食べてもらえるか。定食の料理は、ご飯を2、3杯食べたくなるボリュームと味付けにしている」と田口社長は話す。
ただ、ほとんどのメニューが自宅でも作れる家庭料理で、最近ではスーパーマーケットの総菜も充実している。では、なぜ、サトが宮本むなしの事業価値を評価し、買収に踏み切ったのか。理由は「売れなくてももうかる仕組みにある」(田口社長)という。
高い収益性で安定した経営状態を継続
宮本むなしの事業で注目すべきは、収益性の高さだ。田口社長が「売り上げがそこそこでも利益を出せる仕組み」と説明するように、人件費や食材原価を抑え、店舗オペレーションの簡略化で、小商圏でも安定して経営できるビジネスモデルを確立している。
店舗によって面積や客席数は異なるが、平均20坪で月商450万~500万円。客単価は680~700円なのでひと月に約7000人が来店する計算になる。前述の芝田店は、全店平均の2倍の客数と売り上げがあるという。サトレストランシステムズの2016年3月期の売上高営業利益率が3.1%だったのに対し、宮本むなしの営業利益率は10%以上。1ケタ台が大半の飲食店業界では利益率が抜群に高い。
その要因のひとつが人件費の抑制だ。店舗はパート・アルバイトが運営し、正社員の店長はスタッフのワークスケジュールや配置、採用、出退勤、金銭などの管理業務に集中。ひとりの店長が複数店舗を管理している。
そのために、調理や料理提供などの店舗業務を簡略化。パート・アルバイトだけでも運営可能なオペレーションシステムが確立されている。最終調理は店内で行うが、業者に依頼する食材の加工度を高めたり、メニュー数を約56品目に絞り込んだりして、調理の熟練度を早めている。
さらに、店内に自動券売機を設置して省力化し、金銭管理業務をなくした。1店舗のパート・アルバイト数は平均10人でピークタイムは3~4人。田口社長は「店舗オペレーションシステムこそが感心した仕組みであり、そこに成長の可能性を見出した」と振り返る。
ただ、一時100店舗を超えたものの、地の利を得られない首都圏や福岡から撤退し、店舗を集約。現在は、大阪に31店舗、滋賀に2店舗、京都に3店舗、奈良に1店舗、兵庫に16店舗、岡山に3店舗、名古屋に12店舗、岐阜に1店舗を展開している。
「強みを生かして投資をすれば、既存店はもっと活性化する。当社では100店舗を超える可能性のある業態しか手がけないが、宮本むなしを成長させる自信はある」と、田口社長は豪語する。その原動力になるのが、サト独自の仕入れ開発力や店舗開発力。それを活用すれば、「今よりもっとおいしく、質の高い料理を安く提供できる」と、M&Aによるシナジー効果を強調する。
宮本むなしを新たな成長エンジンに
サトは主力業態の和食のファミリーレストラン「和食さと」をはじめ、寿司と鍋の専門店「すし半」、グルメ回転寿司「にぎり長次郎」、天丼・天ぷら専門店「さん天」、カツ丼・とんかつ専門店「かつや」と、和食に特化した5業態を展開する。そのうち、にぎり長次郎はM&Aによりフーズネットを子会社化。かつやは、東京のアークランドサービスとの共同出資により、関西市場攻略のための新会社を設立した。「宮本むなし」は、M&Aで取得した2件目となる。
サトの創業は昭和33年(1958年)。寿司と鍋料理を大衆価格で提供する「すし半」チェーンが始まりだ。関西のターミナル駅の駅前を中心に宴会場を備えた店舗を出店。1970年代に外資チェーン店が進出してきたのを機に、チェーンストア経営に方向転換した。
洋食レストラン業態の「さと」を郊外のロードサイドに出店し、100店舗超まで拡大。しかし90年代にバブル崩壊で外食市場が頭打ちになって洋食系ファミレスが転換期を迎えたとき、価格での消耗戦を避けて和食業態に特化した。
「うちの強みであり、半世紀かけて培った和食のノウハウと、洋食業態で得たチェーンオペレーションのノウハウを融合し、和食さとを軸としたチェーン化に成功した」(田口社長)。和食さとは2016年9月1日現在、関西中心に中部、関東に201店舗を展開。和食ファミリーレストランチェーンのトップとなった。
ここ数年、取り組みを強化しているのが、ファストカジュアル業態だ。コンセプトは「ファストフード並みの価格と提供時間、料理はレストラングレード」(田口社長)。天丼・天ぷら専門店「さん天」、カツ丼・とんかつ専門店「かつや」がそれに該当する。
ファストカジュアルにかじを切ったのは、総花的品ぞろえの和食業態では今後の成長が限定的だから。「ファミリーの形態が変わってきているうえ、かつてのような急成長は見込めない。参入企業も多いなか、今後の展望をどう描いていくのか。より日常的に大衆に利用してもらえる業態が成長の基軸になると判断した」(田口社長)という。
サトは和食業態で2019年3月期に売上高512億円、600店舗をめざす。中長期計画のなかで、新たな成長エンジンと位置付けているのが宮本むなしだ。街の大衆向け定食チェーンという、同社にこれまでなかった業態と運営ノウハウに魅力を感じ、事業承継の話が持ち上がったタイミングに動いた。
今後は既存店の改装とメニューの見直しにも着手する。「これまで店を知っていても入っていただけない人も多く、入りやすい清潔な店に変えていく。まずはいまの顧客により満足してもらうことが大切だが、いずれ客層を広げていきたい」と田口社長。
出店については、同一エリアに集中出店するドミナント戦略が基本。経営効率を考えると、出店領域でナンバーワンになり、市場を占拠していくのが賢明と考える。従って、出店余地のある関西を中心に100店舗まで拡大したあとに、関東への再進出を狙う。
同社ではグルメ回転寿司の「にぎり長次郎」で買収によるシナジー効果が現れており、業績は絶好調という。街の定食屋として親しまれてきた宮本むなしがどんな店へと変貌し、味にも変化が現れるのか、いまから楽しみである。
(ライター 橋長初代)
[日経トレンディネット 2016年10月17日付の記事を再構成]
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