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ウィーン国立歌劇場が4年ぶり来日公演

2016/10/25

 世界屈指の名門歌劇場、ウィーン国立歌劇場が4年ぶりに来日し、10月25日から11月15日にかけて東京と横浜で9公演を行う。「ナクソス島のアリアドネ」を皮切りに、「ワルキューレ」「フィガロの結婚」の3作品が、3人の世界的指揮者によって上演される。

 公演初日の25日に東京・上野の東京文化会館で上演されるのは、リヒャルト・シュトラウス作曲の代表作の一つである「ナクソス島のアリアドネ」。今からちょうど100年前にウィーンで初演され、大成功を収めた作品だ。18世紀半ばのウィーンを舞台に、地元の富豪が客をもてなすために用意した悲劇オペラが気に入らず、「オペラと喜劇を同時に上演せよ」というむちゃな要求をめぐって作曲家や歌手や喜劇女優らの騒動が繰り広げられる。続いて、劇中劇としてオペラが上演される構成だ。

 指揮をするのはドイツの巨匠、マレク・ヤノフスキで、同歌劇場との共演は25年ぶり。舞台オペラでの音楽を無視した過剰な演出を嫌い、ここ十数年は演奏会の形式でのみオペラを指揮をしてきた。ところが、今回の喜劇と悲劇が交じる劇中劇形式の複雑な作品では舞台は不可欠だとして、久々に手掛けることとなった。

ウィーン国立歌劇場のゲネプロ(総舞台通し稽古)の様子。R・シュトラウス作曲「ナクソス島のアリアドネ」前半(プロローグ)の「オペラと余興の上演」を巡るドタバタ劇(10月23日、東京都台東区の東京文化会館)=写真撮影 長谷川 清徳

 歌手陣も実力派がそろう。プリマドンナのアリアドネ役に前回の日本公演で「サロメ」に出演したグン=ブリット・バークミン、傷心のアリアドネを振り向かせるバッカス役は、当たり役の一つとされるステファン・グールドが歌い上げる。そしてこの演目で最も印象的な登場人物ともいえる魅惑の女性ツェルビネッタ役として、第一人者であるダニエラ・ファリーが登場する。

 初日公演2日前の23日、東京文化会館で行われたゲネプロ(総舞台通し稽古)を見学した。前半で繰り広げられるドタバタ劇では、「音楽は神聖なる芸術だ」として悲劇オペラを書き上げたまじめな若い作曲家と、そんな暗い話では客が喜ばないと筋書きをおもしろおかしく変えようとする年配の音楽教師や喜劇俳優たちとのやりとりが見どころだ。

ウィーン国立歌劇場のゲネプロ(総舞台通し稽古)の様子。R・シュトラウス作曲「ナクソス島のアリアドネ」後半(劇中劇)でバッカスを演じるテノールのステファン・グールド(左上)とアリアドネ役のソプラノ、グン=ブリット・バークミン(10月23日、東京都台東区の東京文化会館)=写真撮影 長谷川 清徳

 指揮するヤノフスキは時折、稽古を止めては、「速くなりすぎないように」「もっと表情を付けて」などと演奏や歌の一部を何度も繰り返させた。歌手の立ち位置や動きにも細かく注文をつけて入念に最終チェックをしていた。

 後半の劇中劇は恋人に捨てられたアリアドネが嘆き悲しむドラマチックな場面から始まるものの、途中から喜劇役者たちが入り込み、コミカルでテンポの速い歌や踊りで雰囲気を変えてしまう。軽やかな歌声と共に、歌手たちがキックスケーターに乗って登場するなど、現代風の演出が随所にちりばめられている。

 冒頭で「オペラなんか退屈だ」と自己否定するかのようなせりふを言わせておきながら、最後はアリアドネがバッカスと出会い、再び愛に生きようとするドラマチックな展開で、2人の舞台を支配するような迫力ある歌声と美しいメロディーで終わる。これぞオペラの魅力、というような印象的な場面だ。さらに最後に作曲家が登場し、上演が成功した喜びをかみしめる。盟友フーゴー・フォン・ホフマンスタールによる台本が、洗練された音楽と融合して粋な魅力を放つ。交響詩「英雄の生涯」で自らを英雄に見立てたR・シュトラウスらしい自己肯定の終幕。オペラ自体を扱ったオペラのしゃれたエンディングが待っている。

 24日には、東京文化会館大ホールの「ナクソス島のアリアドネ」の舞台セットの中で、指揮するヤノフスキと主演歌手らによる記者会見が行われた。映像では記者会見の様子と、バッカス役のテノール、ステファン・グールドのインタビューを載せている。

詳しくは映像をご覧ください。

 ウィーン国立歌劇場は11月にも日本初公演となるワーグナーの大作「ニーベルングの指輪」から「ワルキューレ」をアダム・フィッシャー指揮で、またモーツァルト作曲「フィガロの結婚」を巨匠リッカルド・ムーティ指揮で上演する予定で、オペラファンの注目を集める演目が続く。

(映像報道部 槍田真希子)

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