手のひらに乗るリアル料理 マイクロフード作りの秘訣
小さな食品サンプルを自分で作る「ミニチュアフード」が女性を中心に人気だ。教室なども多数開催され、樹脂などでミニチュアサイズのお菓子を作る「スイーツデコ」は、趣味の一分野としてすでに確立。100円ショップにはデコ向けの材料がそろう。また、女児用玩具やお菓子のおまけ(食玩)などでもミニチュアフードは根強い人気を誇っている。
そんななか、本物の食材で作る"食べられるミニチュアフード"が、ネットやSNS上で話題を集めている。身近な食材を独自のテクニックを駆使して調理。手のひらに収まる大きさの一品に仕上げる、その名も「マイクロフード」である。
名付け親であり、先駆者でもあるのがプログラマーの「マイクロ料理人・ゆたぽん」ことよしだゆたか氏。「note」などのSNSを中心に、自作のマイクロフードを数多く紹介しており、マイクロフードの本も出版した。
メニューは、定番の和洋食からスイーツ、各国料理まで、約400種に上るという。作り始めた当時は料理歴ゼロだったというから驚きだ。「初めて作ったのは、おせちと5センチを掛けた"5cmおせち"。しゃれで作ったつもりが、ウェブでマイクロフードをアップするたびに大きな反響をもらい、今ではライフワークになりつつあります」(よしだ氏)
マイクロフード4つの原則
マイクロフードには、よしだ氏流のルールがある。まずはサイズ。手のひらに載る大きさを意識して、器も含めて直径8cm以内に収める。
そして最大の特徴が材料。前述のように、「食べられるのが大前提」(よしだ氏)のため、さまざまな実際の食材を駆使して作る。例えばマイクロナポリタンなら、用意する材料はベーコンやピーマン、市販のソースといった通常の食材と一緒。唯一"マイクロらしい"のが、スパゲティではなくそうめんを使う点だ。
あくまでも調理なので、ピンセットなどの工具は使わずに、箸や竹串で作るのもポイントだ。
作っておしまいではないのもマイクロフードのルール。写真に撮ったら、作品をおいしく味わうところまでを製作の一環にしている。樹脂などで作り、形として残るミニチュアフードと違う「はかなさ」もまた、マイクロフードの魅力といえる。
食材、器に調理テクがポイント
作るためのポイントは大きく3つ。まずは食材の選び方だ。
「食材を小さく切るのが基本ですが、それだけでは再現しきれません。イワシやニシンは煮干し、イカはホタルイカ、など小さい食材で見立てる。さらに、マイクロトマトなど珍しい極小サイズの材料も知っておくと、リアリティが増します」(よしだ氏)
盛り付ける器も重要。これには"庶民の味方"の100円ショップが大いに役立つ。「豆皿」といわれる小さい皿は、大手チェーンが豊富に取りそろえており、手に入りやすい。
ただし、小さければいいというわけでもない。「マイクロフードに合う選び方が大切。最も大事なのは、器の縁の厚み。できるだけ薄いものを選ぶと、料理との縮尺バランスが良くなります」(よしだ氏)。
ポイントの3つ目は調理のテクニック。特殊な道具が必要かと思いきや、包丁やはさみ、ストローなど、家にある道具でほとんどが事足りる。よしだ氏が一番愛用するのは「竹串」だ。ご飯粒などの細かい食材の位置を調整したり、ごまなどの小さな具を載せたり、といったあらゆるシーンで使える万能道具だという。
子供の食への興味も刺激
記者宅では、4歳の娘にマイクロフードを作りたいとせがまれ、作りやすそうなマイクロカレーに挑んだ。包丁でご飯を刻んだり、カレーをかけたりするのは子供に任せ、細かい部分は親が担当。"初めての親子料理"に、会話も弾む。
普段はご飯にもカレーにも興味がなく、お菓子ばかり食べる超偏食の娘が調理中、指に付いたカレーやご飯をパクリ。完成品も「早く食べたい!」と連発し、作った3皿をすべて残さず平らげてしまった。
「『食育』というには大げさですが、マイクロフードを通じて、料理や食材を知ることの楽しさ、工夫をする面白さに気づいてもらいたい」と語るよしだ氏。記者宅では、確かにその効果は絶大だった。
材料はすべて食材なので安全、安心、安価。身の回りにある食材ですぐに始められる。また、完成品をインスタグラムなどSNSに載せれば、話題になること請け合いだ。ブレイク必至のマイクロフードの世界を、いち早く体験してみてはいかがだろうか。
(文 秋山香織、写真 水野浩志、高山透)
[日経トレンディ2016年11月号の記事を再構成]
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