マネー研究所

Money&Investment

入院・失業・死亡・相続… 保険選びの視点

2016/10/29

 生命保険をテーマに議論する筧ゼミ。2回目はマイナス金利政策の影響で貯蓄型保険の魅力が低下する中、もし保険に入るならどんな視点で選ぶといいのかを考えます。前回に続き、岡根知恵さんが発表します。

筧花子(かけい・はなこ、50=上)経済大学院教授。家計の経済行動や資産形成、金融リテラシーが専門。 岡根知恵(おかね・ちえ、38=中)パート主婦。将来の家計に不安を覚え、金融知識を身に付けようと大学院に。 屋久仁達夫(やくに・たつお、54)大手製造業の技術職。定年を控え年金・介護など老後資金に関心。

  貯蓄型保険では保険料が上がったり、販売停止になったりする商品が相次いでいます。それでも生命保険は加入を検討した方がいいのでしょうか。

 岡根 保険は本来お金をためるのではなく、万が一に備えるための商品です。そうした保障の機能を重視するなら選択肢になりそうです。ただしどんな保障があるかは保険商品によって様々ですし、年齢や家族構成などによって必要な保障が違います。自分のライフステージにあわせて考えるのが基本です。

  必要のない保障を減らせば、保険料も一般的に安くなりますからね。

 岡根 その通りです。各世代でどんなリスクに備えた方がいいのかをイメージ図にしたので見てください。まず独身の人が心配なのは病気・ケガでしょう。生命保険というと死亡保障を連想しがちですが、死亡保険金は家族にお金を残すのが主な目的です。若くして家族を養うといった事情がなければ必要性は低いというのがファイナンシャルプランナー(FP)など多くの専門家の見方です。

 屋久仁 では病気・ケガを保障する医療保険に入ればいいのですね。

 岡根 その前に公的な医療保険制度と貯蓄で対応できないかを考えるのが大切です。これは各世代に共通します。健康保険ではかかった医療費の自己負担が基本的に1~3割ですし、1カ月当たりの自己負担額を一定程度に抑える高額療養費制度もあります。それに病気・ケガで会社を休むと最長で1年6カ月間、傷病手当金が出ます。支給額はおおまかに言うと休業前の給料の3分の2です。

  手厚いですね。

 岡根 それでも貯蓄や収入で賄えそうになければ、割安な医療保険を探します。FPの馬養雅子さんは「若い人は貯蓄が限られがちなので、過剰な保障を付けるより貯蓄を優先しよう」と話していました。

  結婚・子育て期はどうでしょうか。

 岡根 この時期の大きなリスクは、一家の大黒柱が亡くなって収入が途絶えることです。独身期に比べ死亡保障の優先度が高くなりますが、保障をどれくらい付けるかをまず見極めるのが先決です。

 屋久仁 と言われても……。難しそうです。

 岡根 残された家族の将来の支出から収入を引いた差額を保険でカバーするのが基本的な考え方です。支出としては生活費や教育費、住居費などがあり、収入では貯蓄や遺族年金のほか家族が働いて得る収入などを考慮します。必要保障額は家族の状況に応じて変わるため、定期的に見直すことが重要です。例えば一般的に子どもが生まれると増え、成長とともに減っていきます。住宅ローンを借りてマイホームを購入すれば、住居費は少なく見積もることができます。契約者に万が一のことがあると、団体信用生命保険でローンは完済されるからです。

 屋久仁 なるほど。

 岡根 必要な死亡保障額は子どもが生まれたときがピークなので、そこから成長するまで「10年」「20年」などと保障期間を限った定期保険に入るのが一案です。ほぼ同じ保障でも保険会社によって保険料が違う例があります。30歳男性が保険金1000万円で期間10年の定期保険に加入する場合、ある大手生保の保険料は月2700円ですが、ネット生保のライフネット生命保険やアクサダイレクト生命はそれぞれ1230円、1240円です。

  重い病気で働けなくなるケースもありますね。

 岡根 がん、脳卒中、急性心筋梗塞の「三大疾病」に絞って備えるといいという見方があります。通常の病気・ケガは公的健康保険や貯蓄で対応できる可能性が大きいです。しかし三大疾病は症状によりますが、治療に費用がかかりやすく、回復しても通院が必要になる場合があります。保険料や保険金の支払い条件を確認したうえで加入するのも一つの手です。

 屋久仁 私としてはそろそろ老後の備えを考えておきたいです。

 岡根 老後も病気やケガは公的制度と貯蓄で対応するのが基本です。貯蓄が不十分なら、終身の医療保険を検討してもいいかもしれません。

 屋久仁 相続対策として生命保険に加入する人が増えているそうですね。

 岡根 死亡保険金を相続人が受け取る場合、「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があるからです。もし預金を1000万円持つ人が死亡したら全額が相続税の対象です。しかし、これを保険料にして例えば保険金1000万円の一時払い終身保険に加入し、相続人が2人なら保険金はすべて非課税です。預金の分だけ相続財産が減るため税負担も軽くなるのです。

 屋久仁 なるほど。

 岡根 マイナス金利政策で一時払い終身保険を販売停止した生保もありますが、日本生命保険など一部の生保ではまだ対応しています。ただ保険料は上がっています。日生は10月に再び引き上げ、50歳女性が保険金500万円の一時払い終身保険に加入する場合は494万3800円と33万2900円上がりました。

■会社の団体保険を活用
 ファイナンシャルプランナー 柳沢美由紀さん
 会社勤めの人はまず勤務先に団体保険があるかどうか確認することをお勧めします。個人で加入するより保険料が割安なことが多いからです。死亡保障だけでなく、入院などに対応している場合もあります。ただ、定年後は継続できなかったり、継続できても保険料が上がったりする例があるので注意してください。
 働けない場合の備えとしては三大疾病保険に絞って入るのも選択肢ですが、定年までの期間を保障する定期タイプに加入すれば、万が一のときまとまったお金が入り、保険料は抑えられます。また最近は「就業不能保険」も増えています。入院または医師の指示による在宅療養などで働けないときに一定の給付が受けられます。三大疾病は基本的にがん、脳卒中、急性心筋梗塞が対象ですが、就業不能保険はより幅広い病気などを保障します。(聞き手は川鍋直彦)

[日本経済新聞朝刊2016年10月22日付]

マネー研究所新着記事