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サヨナラ、維新派 破格の野外劇集団が有終の美

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NIKKEI STYLE

こんな演劇がありうるのか。見る者をあっと言わせつづけた野外劇の専門集団が幕を閉じる。大阪南港、琵琶湖畔、瀬戸内の犬島……。1970年以来、風景を見せ換える異色のパフォーマンスを繰り広げてきた大阪の維新派。奈良の平城京跡で金色の原を出す「アマハラ」で有終の美を飾っている。

近鉄西大寺駅から歩いて20分ほど。広大な平城宮跡に着くと、空が広い。かつての王城の地が原となって残るところは世界的にも珍しいだろう。そんな地の力に目をつけたのが、今年6月に亡くなった維新派主宰、松本雄吉であった。その昔、シルクロードや中国の文物が入り込んだこの原に、近代の移民が見た夢とその崩壊を蜃気楼(しんきろう)のように描きだす試み。そのプランだけを描いて帰らぬ人となった松本の遺志をスタッフたちが受け継ぎ、維新派の最終公演「アマハラ」は実現した。

巨大な船の甲板を思わせる野外舞台の向こうは、夕日の沈む方角で、生駒山がくっきり。右手にはライトアップされた太極殿。草原の"甲板劇場"に、白塗り白装束の少年が現れては消える。

少年が端から端まで勢いよく走る。大きな帽子をかぶった少女たちと混然となる。全体で整然と並び、手を震わせ、奇妙なダンスをする。そんな器械体操ともみえるパフォーマンスに明確な筋はない。断片化された言葉の朗唱が呪文のように繰り返されるばかり。美術、音楽、言葉、そして人間が演劇的絵画を織りあげる維新派ならではの舞台が今回も出現した。

歴史に取材した松本雄吉の台本はやがて断片的な挿話をつなぎ、海外雄飛を夢見た日本人の軌跡をたどりはじめる。フィリピンの道路工事(ベンゲット道路)や台湾のダム建設、南洋に東京をつくろうとしたサイパン島の活気などなど。流木をたたいて横切る少年たちが象徴的するのは海のかなたに憧れる日本人の夢か。時代は明治から第2次大戦の敗戦まで、近代日本の夢は激しく増殖し、やがて戦争によって打ち砕かれる。

もとは2010年に瀬戸内の犬島で上演された「台湾の、灰色の牛が背のびをしたとき」。精錬所跡の野外劇場でそれを見たが、まさに波打ち際のロケーションであり、風景が喚起する海の幻想と一体となったパフォーマンスだった。土地がはらむ物語を劇に取り込むのが維新派の手法。今回は遣唐使の昔にさかのぼる多民族の交差点をイメージしたようだ。真新しい宮殿がぽつんとたつこの場所は、薄暮ともなれば造営を控えた空き地とも感じられてくる。廃墟(はいきょ)を始まりの場所と見まがう、それは確かにある錯覚だ。

松本雄吉は美術家でもあり、主張する動く装置を売り物ともしたが、晩年は夾雑物(きょうざつぶつ)をそぎ落とし、人間のシルエットと言葉の響きに集中していった。共同作業を重ねてきた内橋和久(音楽・演奏)らは今回、シンプルに言葉を響かせ、台本の純化を狙ったのだろう。残念ながら、主宰者の不在は作品作りの求心力を失わせたに違いない。だが、俳優たちが青白い亡霊のように浮かびあがる映像的効果はこれまでの公演の中でも群を抜いていた。死者のよみがえりを強く思わせたのだ。

維新派の公演場所は関西から瀬戸内にかけてが大半だった。ゆえに首都圏の演劇界ではきちんと評価されなかったうらみがある。1991年、今はオフィス街になった汐留の空き地でヂャンヂャン☆オペラ「少年街」を上演したのが記憶に残るが、以降は池袋の百貨店屋上を除けば新国立劇場、彩の国さいたま芸術劇場、パルコ劇場などで松本演出が見られたのみ。土地の物語を探すことから始まる維新派にとって、のっぺりとして遊休地使用のハードルが高い東京は公演地にふさわしくなかったともいえる。

「ぼくは地面に五寸くぎで線を引くときが一番楽しい。ここが道路で、ここがトイレとかね。何やら遺跡の調査をしているみたいですよ。地面に線を入れ、何かをそこからもらい、メンバーに銘々化していく。(中略)劇場を使うのでなく、体験するんです」

松本雄吉は「少年街」の折インタビューでそう答えた。劇場の始まりをそこまでさかのぼって構想した演劇人はほかにいない。

大阪教育大で美術を学ぶ学生だった松本は関西の前衛集団、具体美術協会の破天荒な表現に大きな影響を受けた。「人のまねをするな」という代表者、吉原治良の意を受けた具体はアンフォルメル(非定形)の芸術といわれ、ハプニングや野外パフォーマンスに活路を見いだした。その精神を野外劇という形で受け継ぎ、前衛芸術が退潮する1980年代以降もひとり、美術と演劇をつなぐ未踏の地を目指したのが松本であった。その野外劇は唐十郎のテント演劇、寺山修司の街頭劇などとともに演劇史上に記されるべきであろう。「台湾の、灰色の牛が背のびをしたとき」を含む20世紀3部作はことに大きな成果で、琵琶湖に巨大オブジェを漂流させた「呼吸機械」は戦後前衛芸術の記念碑的な仕事だった。

劇場は一夜の夢を描きだす記憶の装置だ。それをゼロからつくりだす行いとは、生きた遺跡を出現させることだったのではないか。なぜなら、今ある現実の瞬間瞬間は過ぎ去ったとたん過去となり、夢の残骸となるからだ。70歳を前にがんで倒れた松本雄吉はそのことを身をもって知っていただろう。天草生まれ、大阪の四貫島で水上生活者の暮らしを見て育った。海を行き来する流浪の運命に深い思いを注いだ演劇人であった。

ラストシーン。誰の顔かわからなくなる薄闇のとき、坂の上からふりかえる者。それは松本雄吉かもしれないし、無名の死者であるかもしれない。そんな詩的イメージをへて、船首の先が金色に光った。原は海に変わった。記憶を積んだこの船は西方へと航海する。サラバ、維新派。

平田オリザが芸術監督をつとめる「東アジア文化都市演劇部門」の関連公演「アマハラ」は10月24日まで、奈良・平城宮跡で(当日券のみ)。11月5~18日、大阪・九条のシネ・ヌーヴォ、シネ・ヌーヴォXで映像による松本雄吉追悼特集が催される。

(編集委員 内田洋一)

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