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「世の中を見回すと、やる気を失った社員、不満を抱く部下、悩める中間管理職があまりに多く、その一方で、過ちを犯し、職を失うリーダーも後を絶たない」。スタンフォード大学ビジネススクールの名物教授で、経営学修士(MBA)のコースで組織と権力について教えているジェフリー・フェファー氏はこのように指摘する。同氏の最新刊『悪いヤツほど出世する』から、失敗したリーダーや世の中に出回るリーダー論の「ウソ」を小気味よく指摘する序章を7回に分けて紹介しよう。

クビになるリーダーたち

部下がいじめられたり、やる気をなくしたりする傍らで、じつはリーダー自身も憂き目に遭っている。シリコンバレーのある有名企業をクビになった男(マットとしておこう)が、こんなことを話してくれた。

マットは一流のビジネススクールを卒業し、優秀でまじめで勤勉だ。人柄もいい。だからすぐに別の優良企業で採用され、しかも前よりいいポストを与えられた。こんな人物がなぜ前の企業をクビになったのか。この質問に対する彼の答はこうだ。新技術を開発するすごいプロジェクトに夢中で取り組んでいて、政治的な駆け引きに負けてしまった、というよりも社内に政治的な駆け引きがあるなんてことに気づいていなかった。それに致命的だったのは、上司との関係に無頓着だったことだ。ごまをすることはもちろん、上司に言われたことを何でも最優先して大急ぎでやる必要があるとも思っていなかった。

このうかつなマットは例外なのだろうか。そうではあるまい。やはり一流のビジネススクールを優秀な成績で卒業して有力企業に就職したにもかかわらず、あっさりクビになった男によれば、こうだ。「名門大学を出た人間は、クビになったなんて外聞の悪いことを人には言いたがらない。だけどボクのみるところ、そういう例は世間が思うより多い」。かつてのクラスメートや友人知人の話を総合する限りでは、10~20%は卒業後2~3年で不本意ながら会社を去る羽目に陥っているという。しかもクビになった理由の大半は、マットと同じらしい。つまり、学校で教わったことを鵜呑みにしていた。そして、現実の職場のありさまに直面して当惑した。彼らは自らリーダーシップを発揮しようとし、上司がまちがっていると感じれば指摘したり、部下からの要望を直訴したりした。こうして自分で自分の解雇通知に署名してしまったわけである。

キャリアに汚点をつけてしまうのは、ジュニア・レベルのリーダーだけではない。シニア・レベルになれば、より厄介な状況が待ち構えている。そうした状況をうまく切り抜けるのがむずかしいことは、上へ行くほど在任期間が短くなり、解雇につながる例が増えていることからもあきらかだ。

全米産業審議会の2012年の報告書によると、CEOの在任期間は2000年から短縮傾向にあるという。またコンサルティング会社ブーズの調査では、CEOの在任期間がかつてより短くなっていることに加え、解雇される例が増えていることがあきらかになった。

2011年には、全世界の最大手2500社のうち14%ほどで、CEOが交代させられている。CEOの交代劇が最も多かったのは、時価総額ベースでトップ250社だ。またCEOの在任期間と退任に関するブーズの年次報告を見ると、アメリカだけでなく世界各国で在任期間の短縮化と更迭の頻発傾向がうかがわれる。

ベテランのエグゼクティブ・コーチも同じことを口にする。優秀で勤勉で人間関係にも問題のないエグゼクティブが解雇されるケースが予想外に多いという。解雇や不本意な辞職の危険が高いのは、第一に、社会人になって最初の職場で、個人の能力で成功できるポストから政治的手腕が問われるポストに昇進したときである。第二は、社会人20年目の頃だ。この時期には、もし成功していればかなり高い地位に就いていて、周りには頭がよくて実績のある人間ばかりがいる。そうなると、他人に差をつけるには、政治的な駆け引きに足をすくわれないよう、巧みに抜け目なく立ち回る能力が必要になってくる。そしてこれは、リーダーシップ教育産業のカリキュラムにはまず入っていない。

悪いリーダーははびこり、名リーダーはほとんどいない

これまでに挙げたデータを見てもなお、リーダーシップの危機はないと言い張る向きには、別のデータをお目にかけよう。クリエイティブ・リーダーシップ・センターのビル・ジェントリーは、過去数十年間に発表された膨大な研究報告を調べ上げた末に、「リーダーやマネジャーの2人に1人は現時点での職務を十分に果たせていない。すなわち無能力か、不適任か、完全な失敗である」と述べているのである。かんたんに言うと、このリーダーシップの専門家は、リーダーの半分は失敗だと結論づけている。リーダーシップ研究に関する別の報告も「組織の種類を問わず、管理者が無能力である比率はきわめて高い」と述べているし、さらに別の報告も、リーダーシップが期待される地位にいる人の約半分は期待に応えていない、と指摘する。

またマッキンゼーの調査報告によれば、多くの経営幹部がリーダーシップ開発を最優先課題としているにもかかわらず「イギリスのビジネススクールの調査によれば、自社のリーダーシップ開発が成果を上げていると考えるシニア・マネジャーは全体の7%にすぎない。またアメリカ企業の約30%が、有能なリーダー不足が原因で事業拡大のチャンスを逃したと考えている」という。さらにアクセンチュアの調査でも、自社のリーダー育成が成功したと考えるエグゼクティブは8%しかいないことが判明した。コーポレート・リーダーシップ・カウンシルの調査では、「人材マネジメント教育が生産性を向上させた例はたった2%しかない」という結果が出ている。

企業生産性研究所が1367社を対象に行った2014年の「人材開発調査」によれば、回答企業の66%が、リーダー育成は不十分であり、しかもこの傾向は年々悪化していると認めたという。当然ながら業績不振企業のほうが事態は深刻で、89%がリーダーの育成は不十分だと答えている。しかし高業績企業でも、後継者が順調に育っていると答えたのは27%にとどまった。

人事担当者とライン・マネジャー1万4000人を対象に行われた調査では、「自社のリーダーシップのクオリティを『きわめて優秀』または『優秀』と評価したのは人事担当者の26%、マネジャーの38%にとどまった。将来の見通しは悲観的で、自社には将来のニーズに応えられる人材がそろっていると答えたのは、人事担当者の18%、マネジャーの32%だった」。

ハーバード大学ケネディ・スクールの公共リーダーシップ・センターが2012年に行った調査では、回答者の69%が、現在のアメリカは深刻なリーダーシップ不足に悩まされていると答えた。もっとも、その前年に行われた同じ調査では、そう答えた人が77%もいたのだから、すこしは慰められる。ハリス・ポールの調べによれば、1996年以降、「政府、企業、金融機関のリーダーシップにわずかなりとも信頼感を抱く人の割合は減り続けている」という。1996年には90%が信頼していたのに、いまや60%にとどまっている。

これだけ大勢の人がリーダー不信に陥っているのは、組織ぐるみの不正行為が呆れるほど多いからだろうか。カリフォルニア大学デービス校教授で企業犯罪にくわしいドナルド・パルマーは、「企業の不正行為が蔓延している。1999年に行われたフォーチュン100社の調査によれば、うち40%が、2000~05年に全国メディアで報道されるような大規模な不正を行っていることが発覚した」と指摘する。つまり大企業10社中4社が、たった5年の間に重大な不正行為におよんだわけである。しかもこれは、2007年後半の金融危機よりも前の話である。

リーダーに対する評価が低いのは、研究者や一般の人々だけではない。リーダー自身も、である。人材関連で45年の実績を誇るデベロップメント・ディメンションズ・インターナショナル(DDI)は、広範な調査に基づく白書を毎年発表しているが、それによると「DDIの2011年グローバル・リーダーシップ予測を含む複数の調査では、リーダー自身が、期待される水準に達していないと認めていることがあきらかになった……リーダーシップ教育に多くの労力と投資が行われてきたにもかかわらず……リーダーの自己評価は下がり続けている。リーダーシップ開発の成果が上がっているという証拠は見当たらない」という。とはいえ、この表現はかなり控えめだ。なにしろ白書によれば、回答者の半分を上回る55%が上司を理由に会社を辞めたいと答えており、39%が実際に辞めているのである。

(村井章子訳)

ジェフリー・フェファー(Jeffrey Pfeffer)
スタンフォード大学ビジネススクール教授。
専門は組織行動学。『「権力」を握る人の法則』『なぜ、わかっていても実行できないのか』など、これまで14冊の著作があり、とくに権力やリーダーシップなどのテーマで高い人気を誇る。経営学の第一人者として知られ、ロンドン・ビジネス・スクール、ハーバード大学ビジネススクール、シンガポール・マネジメント大学、IESEなどでも客員教授として教鞭をとるかたわら、複数のソフトウェア企業や上場企業、非営利組織の社外取締役も務める。

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