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若さの目安 シミ・シワよりも「大腿四頭筋」 「いきなり運動」が引き起こすトラブルを回避せよ!(1)

日経Gooday

2016/10/23

昔のイメージ通りに体は動かない。(c)Dmitriy Shironosov-123rf
日経Gooday(グッデイ) カラダにいいこと、毎日プラス

 運動会の親子競技、友人に誘われて久しぶりのテニス…。なにかと体を動かす機会が増える、この季節。気になるメタボ解消のために、一念発起してランニングを始める人もいるかもしれない。だが、長年のブランクがあると、筋肉は衰え、昔のように体は動かない。本シリーズでは、急に運動したときに見舞われやすいトラブルと、その予防法を解説する。第1回は、加齢による体の衰えを知ることから。

■1日寝たきりでいると、寿命は1日縮む

 今までほとんど運動していなかった人が、あるいは昔スポーツをやっていた人が久しぶりに運動するとき、ブランクによって体はどのくらい衰えているのだろうか。

 2012年ロンドンオリンピックなどでチームドクターを務めた、順天堂大学大学院スポーツ医学教授で整形外科医の櫻庭景植さんは、こう話す。「大ざっぱにいって、1日寝たきりでまったく動かないでいると、心肺機能(*1)を示す最大酸素摂取量は0.9%低下します(*2)。別の言い方をすると、1日ベッドに寝ていると1日寿命が縮むと思っていいでしょう」。

 ただし、これは寝たきりの超初期の話で、その後もずっと同じスピードで心肺機能が低下していくわけではない。とはいえ、運動をしないと心肺機能が低下するのは確か。その結果、ちょっとしたことで疲れやすくなり、いざ運動をしようとしても、すぐにスタミナ切れになってしまう。

*1 体中に血液や酸素を巡らせる心臓と肺の働きのこと。最大心拍数、心拍出量(1分間または1回に心臓が送り出す血液の量)、最大酸素摂取量、肺気量などが指標となる。

*2  Convertino VA:Cardiovascular consequences of bed rest: effect on maximal oxygen uptake. Med Sci Sports Exerc. 1997 Feb;29(2):191-6.

■20歳を過ぎると下肢の筋肉は一気に減少していく

 一方、運動機能の面で加齢と共に最も衰えるのが、下肢(脚)の筋肉だ。約4000人の日本人を対象に、年齢による筋肉量の変化を調べた研究では、20歳を過ぎると、下肢の筋肉量は、上肢(手と腕)や体幹の筋肉よりも早く、そして大きく減少していくことが分かった(図)。筋肉の老化は、まず脚から始まるのだ。

下肢は上肢や体幹に比べて筋肉の衰えが速い。20歳を過ぎると筋肉量は一気に減少していく。(出典:老年医学2010;47:52-57)

 櫻庭さんによると、下肢の中でも、とりわけ筋力の衰えの目安となるのが、前ももに位置する「大腿四頭筋」だという。

前ももに位置する大腿四頭筋。年齢と共に一番衰えやすい(c)Ewelina Kowalska-123rf

 大腿四頭筋の筋肉量は、25歳くらいでピークを迎えた後、加齢により減少し、60歳では25歳時の約60%にまで落ちる(*3)。櫻庭さんが行った研究によると、2週間ギプスを巻いて下肢の筋肉を使わないでいると、ハムストリング(ももの裏側の筋肉)の筋力は約14%衰え、大腿四頭筋の筋力は、約20%も落ちることがわかった(*4)。

 大腿四頭筋は、歩く速度に関係する、体の中でも大きな筋肉の一つ。したがって、運動不足による衰えやトレーニングによる筋肉量の増加が現れやすい。

 「若さというと、肌のシミや小じわなどの外見を気にしがちですが、一番大事なのは“動ける体”であることです。動かないと、加齢と共に筋肉はどんどん衰えます。特に、大腿四頭筋の筋量や筋力は、外見よりもよっぽど若さのバロメーターといえます」(櫻庭さん)

*3 越智隆弘著. 最新整形外科学大系(23)スポーツ傷害. p4-6. 第1版. 中山書店.

*4 櫻庭景植. 運動療法としての筋力トレーニング. 東京都医師会健康スポーツ医学研修会. 6月3日、2007.

■瞬発力を担う速筋のほうが衰えやすい

 筋肉の部位とは別に、筋肉を構成する筋繊維は、加齢と共にどの部分が衰えてくるのだろうか。筋繊維には「速筋」(瞬間的に大きな力を発揮する白い筋肉)と「遅筋」(長時間、力を維持する持久力にかかわる赤い筋肉)がある。筋肉の中には速筋・遅筋が混在しており、その割合には個人差があるが、一般に速筋の方が衰えやすいといわれている。そのため、年をとると俊敏性が失われ、とっさの動きに対応しづらくなる。

 「例えば子どもの運動会で短距離走やリレーに出場したお父さんが、コーナーを曲がる辺りでバタッと転ぶという現象が見られるのは、速筋が持たなくなるからです。 “こんなはずじゃなかった”とショックを受けるかもしれませんが、それは明らかに下肢の速筋が衰えている証拠です」(櫻庭さん)

■あなたの下肢の衰えはどれくらい?

 では、自分の下肢の筋力がどのくらい保たれているのか、チェックする方法はあるのだろうか。

 ここで紹介するのは、椅子の座り立ちを10回行うのにかかる時間で、下肢の筋力を評価する方法だ(厚生労働省「健康づくりのための運動指針2006」より)。下に示す椅子の座り立ちを10回行い、かかった時間で下肢の筋力を評価する。

※座る姿勢に戻したときにおしりが椅子につかない場合や、膝が完全に伸びていない場合はカウントしない。(イラスト:つぼいひろき)

 40代男性の場合、7秒以下(速い)または8~10秒(普通)で10回できるようなら、生活習慣病の予防を目標とした場合の十分な筋力に達していると考えられる。一方、11秒以上かかる場合は要注意だ。

 日頃の階段の上り下りで息切れがするかどうかや、ハーフスクワット(*5)を楽にできるかどうかを試してみるだけでも、自分の今の筋量・筋力の衰えを実感できるだろう。また、「筋肉年齢」「体内年齢」などと題してスポーツクラブや民間の健康チェックサービスで筋肉量を測定しているところもあるので、目安として一度、測定してみるのもよいだろう。

 「普段、まったく運動をせず、下肢を中心に筋量・筋力ともに衰えた状態で突然運動をすれば、思わぬトラブルの元になるので要注意です」(櫻庭さん)

 では、いきなり運動をしたときに起こりやすいトラブルとはどんなものだろうか。次回(「運動不足の人は『転倒』と『遅れてくる筋肉痛』に注意!」)、詳しく解説する。

*5 フルスクワットの半分程度まで腰を下ろすスクワットのこと

■この人に聞きました

櫻庭 景植(さくらば・けいしょく)さん
 順天堂大学大学院スポーツ医学教授。1978年順天堂大学医学部卒。同大医学部整形外科講師、同大スポーツ健康科学部スポーツ医学助教授などを経て2002年より現職。日本オリンピック委員会強化スタッフ(スポ―ツドクター)。2007年、2009、2011年世界陸上チームドクターや2012年ロンドンオリンピックチームドクターなどを歴任。専門はスポーツ医学。

(ライター 塚越小枝子)

[日経Gooday 2016年4月22日付記事を再構成]

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