VR、家庭で楽しむ ゲームで没入感/スマホで手軽に
PSVRは家庭用ゲーム機の「プレイステーション(PS)4」と組み合わせてVRコンテンツが楽しめるHMDだ。希望小売価格は単体で税別4万4980円、PS4と合わせて8万円を切る。高価だが、高性能なVR用HMDとしては実は安価な部類に入る。
いよいよ普及段階に入ってきたVRだが、VRで楽しめるコンテンツは大きく分けて2種類ある。まずはCG(コンピューターグラフィックス)を使ったコンテンツ、主にゲームだ。9月に開催された「東京ゲームショウ2016」では、VR用HMDを身に着けて自分で操作して遊べるVR対応ゲームが多数展示され、まさにVR一色だった。PSVRの発売により、VRを使ったゲームが続々と登場してくるはずだ。
世界で投稿 360度動画
そしてVRでもうひとつの柱になるのが360度動画だ。これは文字通り上下左右の360度どこを見ても映像が流れている動画で、巨大なボールの中心に自分がいて、ボールの内側に流れている動画を見ているとイメージすると分かりやすい。
実は360度動画はもう普及しつつある。大手動画サイトのユーチューブには360度動画を集めた専用チャンネルがあり、世界中から多くの360度動画が投稿されている。NTTドコモの映像配信サービス「dTV」ではオリジナルの360度動画を配信している。「360Channel」など360度動画専門の動画配信サービスも登場している。リコー「THETA」シリーズのように、個人が手軽に360度動画を撮影できるカメラも発売されている。
360度動画の多くは従来のインターネット動画やテレビ番組の延長線上にあるもので、基本的にユーザーが操作することはない。ただ視聴すればよい。ジャンルはミュージックビデオ、バラエティー番組、報道番組、旅番組など実写コンテンツが中心で、例えば360度動画の旅番組なら、実際に自分が旅先の場所にいるかのような感覚で視聴できる。
ではこうしたVRコンテンツを楽しむには何が必要か――。VRというと箱型のHMDを顔に取り付けて見るイメージだが、このVR用HMDは大きく分けて2タイプある。まずPSVRやパソコン用のHTC Viveに代表される、ゲーム機やパソコンに接続して使う高性能なタイプだ。解像度の高いディスプレーを内蔵しているのが特徴で、例えばHTC Viveの価格は9万9800円と値段は高い。
VRゲームを動かすには高い処理性能が必要になるため、遊ぶにはゲーム向けのパソコンを販売しているショップブランドなどの20万円前後からのVR推奨パソコンが必要だ。総費用は30万円前後になる。PSVRはPS4につないで利用する。高性能タイプとしては安いが、それでもPS4と合わせて8万円弱かかる。CGを使ったVRゲームを遊ぶにはかなりの投資が必要といえるだろう。
スマホ向け 安価に入門
それに比べてVRのもうひとつの柱である360度動画は、スマートフォン(スマホ)があれば数千円で楽しめる。安価なVRゴーグルを使えばいいからだ。スマホを取り付けるとHMDとして利用できる。ゴーグルは段ボールでできた組み立て式のものなら1000円前後で買えるし、イベントや雑誌付録などで配布されることもある。樹脂製で比較的しっかりしたボディーのものでも2000~3000円前後と買いやすい価格だ。
VRゴーグルは非常に多くの製品が出回っている。選ぶポイントは、まず手持ちのスマホを入れて使えるかどうかで、対応するスマホの大きさに注意したい。また、バンドで頭に固定できるものがいい。手持ちでずっと顔に当てているのは疲れるからだ。あとは視度やピントの調節ができるかどうか。眼鏡を着用している人にとっては、眼鏡をかけたまま使えるかどうかも重要だ。
こうしたVRゴーグルは、仮想空間への没入感ではPSVRやHTC Viveにかなわない。それでも5型以上の大型スマホを使えばまずまずの没入感が得られ、360度動画を手軽に楽しむにはもってこい。安価でVRを体験してみたいのなら、まずこうしたVRゴーグルを使ってみるといいだろう。
海外ではパソコンでゲームをすることが一般的になっているが、日本ではパソコンゲームはそれほど普及しておらず、スマホでゲームをすることが一般化している。海外はパソコンと接続して遊ぶ高性能なVR用HMDが比較的普及しやすい環境と言えるが、日本はスマホを使った安価なVRゴーグルが普及しやすい環境といえそうだ。販売好調なPSVRはヒット商品になるだろうが、VR普及のカギはスマホとそれを使った360度動画にありそうだ。
とはいえPSVRやHTC Viveのような高価なVR用HMDも、ゲームやCGを使ったコンテンツの消費を中心に、ゲーマーやコアユーザー向けに普及していくだろう。例えばオーディオの世界では安価なオーディオ機器が普及しているが、高級オーディオを趣味とする人もいる。VRでもそうした住み分けが進むことになりそうだ。
(IT・家電ジャーナリスト 湯浅 英夫)
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