相続・税金

ぼくらのリアル相続

「とりあえず母さん名義」で相続税は2倍に! 税理士 内藤 克

2016/10/21

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 4年ほど前、親戚の叔父が亡くなった時のことです。相続人は叔母と娘3人で、3人とも結婚して家庭を築いていました。
「克くん、実はみんなで話し合ってとりあえず全財産を私名義に変更することになったの。あなたは税理士なんだから、手続きを教えてほしいのよ」
「名義変更も大事だけど、相続税の方は大丈夫?」
「配偶者の税額軽減の制度とかで、私が取得すれば1億6000万円までは相続税がかからないんでしょ?」
「確かにそうだけど、それじゃあ叔母さんの相続の時(二次相続)の税金がたいへんだよ。叔母さんもそこそこ財産はあるだろうに」
「いいから、私の相続のことは私が死んでからやってちょうだい!」
「……」

 どうやら叔母の頭の中では今直面している相続(一次相続)だけが大問題になっており、将来(二次相続)の税金の認識がないようでした。しかし、下に示すように「とりあえず」で進めると相続税が全体では2倍になることもあるのです。今回は2015年の税制改正により影響が大きくなった二次相続について考えます。

■どちらが先に逝くかは誰にもわからない

 相続税、贈与税、所得税など、個人にかかる税金は累進課税の制度を取り入れているため、特定の人に財産が集中したり、特定の年度に所得が集中したりすると税金が大きく増えることになります。それは財産や所得が増えるとそれに伴って税率も上昇するという累進税率の仕組みから生じるものです。そのため「年度や名義を集中させず、極力分散すること」が節税の基本になります。

 相続税に関しては、大きく財産組み替えが行われる一次相続(冒頭のような例)での遺産分割が最も重要なポイントとなります。ただ、必ずしも夫が先に逝くとは限りませんのであらかじめ夫婦間の財産バランスを整えておく必要もあります。では夫婦で2分の1ずつバランスよく財産を所有しているケースで、二次相続まで含めて相続税がどう変わるかを見てみましょう。

家族構成 父(一次相続)、母(二次相続)、子供2人
財産   父1億円、母1億円

 ケース1では冒頭の事例と同じく母に遺産を100%集中させ、「年度を分散する」「人を分散する」という基本方針の逆を行ってしまっているのがわかります。一次相続での相続税はゼロですが、二次相続でまとめて1人1億円受け取る子供たちの税負担は大きくなり、全体での相続税額は3340万円にもなります。

 一方、ケース2は一次相続では母は遺産を受け取っていません。夫婦間という同一世代間移動をスキップしているという意味では分散型だといえます。子供たちは一次相続で5000万円、二次相続で5000万円ずつ受け取り、それぞれに相続税はかかりますが、まとめて1億円の時に比べれば累進課税の税率は低くなるので全体での相続税額は1400万円で済みます。少し財産の多い家の例ではありますが、税額は2倍以上違うわけです。

■「金額を置いてみなければわからない」のが税理士のホンネ

 ただし二次相続対策に関しては「基礎控除枠」「累進税率」「配偶者の税額軽減」「小規模宅地の評価減」をうまく組み合わせて判断しなければならないので、上記2ケースのように単純にはいきません。使えれば評価額が8割減になる特例もあり、影響が大きいので、実際には金額を当てはめてシミュレーションするしかないのです。

 また基礎控除は15年1月の相続税改正で大きく引き下げられましたが、これは相続財産が増えたのと同じことになります。さらに累進課税の仕組み上、相続財産が増えるということは税率を引き上げられたのと同じことになります。そのため、以前よりも増して「特定の親族への財産の集中」が高い税負担を呼び込むことになっているのです。

 最後にもう一つ。「今回はとりあえずお母さんの名義で」とやってしまうと、親がいる前で子供同士が相続について話し合える最後のチャンスを逃してしまうことにもなります。なので面倒でも一次相続の時に、現実に向き合うことが大切なのです。

内藤 克(ないとう・かつみ) 税理士法人アーク&パートナーズ 代表・税理士。1962年生まれ、新潟県長岡市出身。90年に税理士登録、95年に東京・虎ノ門で個人税理士事務所を開業。97年に銀座で税理士・司法書士・社会保険労務士による共同事務所を開業。2010年に税理士法人アーク&パートナーズを設立。弁護士ら専門家と同族会社の事業承継を中心にコンサルティングを行っている。事例中心のわかりやすい講演にも定評あり。「士業はサービス業である」ことを強く意識し、顧客満足度を追求。日本とハワイの税法に精通し、ハワイ税務のコンサルティングも行っている。趣味はロックギター演奏。

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