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囲碁・将棋

井山vs.余 第64期囲碁王座戦五番勝負が17日開幕

2016/10/15 日本経済新聞 朝刊

 七冠を独占する井山裕太王座(27)に余正麒七段(21)が挑戦する第64期囲碁王座戦五番勝負(日本経済新聞社主催)が17日開幕する。井山王座は前期、「戦いの碁」を制して王座のタイトルを奪還すると、勢いに乗って史上初の七冠に輝いた。余七段は世界を視野に入れる研究熱心な若手の成長株として知られ、王座と同じく戦い好き。これまでの対戦成績は井山王座の3勝0敗。王者と期待の新鋭による初の番勝負は、真っ向からの力比べとなりそうだ。

■七冠を独占、井山裕太王座 年下の挑戦は特に意識せず

いやま・ゆうた 1989年5月大阪府東大阪市生まれ。石井邦夫九段門下。2002年入段。05年早碁オープン戦で史上最年少優勝。16年4月に十段を獲得し、王座、棋聖、名人、本因坊、天元、碁聖と合わせて囲碁界初の七冠。第60、61、63期王座。タイトル獲得数は38。

 今年4月に七冠になりましたが、自分では特別な変化は感じません。直後は取材が多く、一般の方々に囲碁を知ってもらう機会になりましたが、今は落ち着きました。

 本因坊、碁聖とすんなり防衛し、8月は対局がほぼなかったので、もう少し打ちたかったですね。イベントで相応に忙しかったですが、実戦不足は否めない。

 今は安定感に欠け、納得いく碁が打てていません。(8月末開幕の)名人戦は大事なところでミスが続きました。ただ過去にも調子を崩したことはあり、なんとか立て直します。

 余正麒さんは10年ほど前、私が出場した国際戦に台湾代表で出ていて知りました。日本に来て着実に強くなり、数年前からはいつタイトルに挑戦してもおかしくない棋士でした。力強く積極的な棋風で、読みもしっかりしています。今年の十段戦の挑戦者決定戦で戦いましたが、途中はっきり負けの碁でした。余さんのミスがなければ私の七冠はありませんでした。

 研究熱心で最近の形にも精通しています。私よりだいぶ若いけれど、(天元戦の挑戦者で19歳の)一力遼七段を含め、年下の挑戦を受けるのは当たり前。特に意識することはありません。

 対局が増える時期ですが、ここ数年経験しているので、うまく乗り切れるでしょう。秋の深まりとともにエンジンをかけていきます。

 

■期待の新鋭、余正麒七段 自分との闘いで最善手追求

よ・せいき 1995年6月台湾・台北市生まれ。張呂祥六段門下。10歳で台湾棋院のプロ棋士に。来日して2009年入段。13年、18歳2カ月で本因坊リーグに入り三段から七段に昇段。14年竜星戦準優勝。15年47勝16敗で最多勝、韓国LG杯ベスト8。関西棋院所属。

 王座戦は昨年、挑戦者決定戦で井山さんに敗れ、初のタイトル戦出場の目前で悔しい思いをしました。今期のトーナメントも苦しい碁が多かった。2回戦の志田七段や準決勝の山下九段には負けてもおかしくない碁でしたが、なんとか逆転できました。

 私の棋風は、戦いの碁が好きです。子供の頃から韓国の李世●(上に石、下に乙)九段や中国の古力九段に憧れ、棋譜を並べていたからでしょうか。今でもネットで中韓の棋士と、持ち時間1手あたり15~20秒の早碁をよく打ち、たいてい激しい戦いになります。

 (昨年新人王の)許家元四段や(天元戦に挑戦する)一力遼七段らは年齢が近いので仲が良く、世界最先端の布石の研究などを重ねています。

 あまり終盤のヨセ勝負まではもつれ込みませんね。だから以前はヨセでうっかりミスが多く逆転を許していましたが、今は集中力が途切れないようになってきました。

 昨年、国際戦のLG杯でベスト8入りし、自信もつきました。13歳で日本に来て、言葉や習慣など苦労もしましたが、今回タイトル戦の舞台に上がることになり、感慨深いですね。

 井山さんは読みも深いし、凡人では打てない手を打ちます。しかし碁は自分自身との戦いと思っています。いかにミスせず、最善手を追求していけるか。井山さんは強いですが、思い切ってぶつかっていきたいですね。

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■張栩九段、結城聡九段に展望を聞く

 五番勝負の展望を、王座7期の実績がある張栩九段(36)と、挑戦者と同じ関西棋院の結城聡九段(44)に聞いた。=文中敬称略

 ――余がタイトル初挑戦を決めた。

 結城 挑戦者決定戦進出は昨年の王座戦、今年の十段戦に続いて3度目で、十分な実力をつけて、のし上がってきた。トーナメントでは、準決勝で苦手の山下(九段)に勝ったのが大きく、決勝の高尾(九段)戦は内容的にもいい勝ち方だった。

 張 余は台湾時代にお世話になった先生が一緒で子供の頃から注目株だった。日本に来て着実に実績を積み上げてきた印象だ。対高尾戦は決勝戦を含めて7連勝となったが、それだけでもすごい棋士だとわかる。

 ――どんな碁か。

「余は乱戦の中で力を発揮する」とみる結城聡九段

 結城 じっくりした碁も打てるが、基本的には戦いが好き。自分から仕掛けるタイプで、コウ争いも大好きだ。乱戦の中で力を発揮する。ただ、トップ棋士と打つと、終盤のヨセで逆転を食らうこともある。

 張 自分なりの戦いのセンスを持っている。積極的でありきたりの手は打たず読みもしっかりしている。

 ――戦い好きの点では井山も引けを取らない。

 結城 目いっぱい打って乱戦に持ち込み、読みの力でねじ伏せる。必敗の形勢になってからがすごく、ほかの棋士が気付かないような手を繰り出してくる。

 張 タイトル戦18連勝といった記録は実力だけではできない。勢いがあったと思うが、それにしても逆転力のすごさには舌を巻く。

 ――七冠獲得の後、本因坊、碁聖は防衛したものの、名人戦七番勝負ではいきなり3連敗した。

 張 名人戦は井山らしからぬミスが目立つ。勝負事でミスはつきものだが、今までが強すぎただけに驚きだ。天元戦挑戦者になった一力遼(七段)が19歳。王座戦、天元戦と立て続けに少し年の離れた後輩が挑戦者に決まった。「対局日程が厳しくなる前に名人戦は決着をつけよう」という意識がマイナスに作用している可能性はある。

 結城 夏場以降、少し調子を落としているようだ。碁聖戦が3連勝で終わり、8月中、1カ月近く、対局がつかなかった。調整が難しかったのかもしれない。

 ――余が、その辺りをどう突くか。

「井山は技術で一日の長がある」とみる張栩九段

 張 台湾の先輩棋士として少し偉そうなことを言わせてもらえれば、初めての番勝負というのは、実力以上に力を出せるか、逆に萎縮してしまうかのどちらかだ。井山は余にとっても、すごく大きな存在なので、思い切りぶつかって存分に力を発揮してほしい。

 結城 腕力に定評のある2人だから乱戦は必至。見ていて面白い碁になることは請け合いだ。

 ――勝敗予想は?

 結城 余は、まだ井山に勝ったことがないが、十段戦の挑戦者決定戦など、内容的にはいい勝負をしていて、手応えを感じていると思う。2局目までに1つ勝てば、流れがだいぶ変わるのではないか。3勝2敗で余の奪取とみている。

 張 井山の調子が思わしくなく、予想が難しくはなったが、秒読みになってからの正確さなど、技術面で井山に一日の長があり、タイトル防衛とみるのが妥当だろう。ただ、スコアがどうなるかはわからない。井山の3連勝で終わる可能性もあれば、最終局までもつれることもあり得る。

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■村川、雪辱ならず

 最も注目された74歳の石井。史上初となるタイトル戦での師弟対決が期待されたが、1回戦で柳九段に敗れてしまった。

 昨年、王座を失い雪辱を期す村川は2回戦で羽根に敗北。ベスト4は、山下、高尾、羽根という平成四天王のうちの3人と、村川、尹、余、湯川、瀬戸と5人を送り込んだ関西棋院勢でただ一人勝ち残った余という顔ぶれとなった。

 準決勝で余が、過去1勝4敗と相性の悪い山下に勝ち、羽根を下した高尾との決勝に。王座初挑戦、名人戦との連続挑戦を目指す高尾だったが、かなわなかった。

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大盤解説会情報
<第1局>ウェスティンホテル大阪(電06・6440・1111)
解説:坂井秀至八段、聞き手:佃亜紀子五段
<第2局>東京・大手町、日経本社2階「SPACE NIO」(電03・6256・7682)
解説:石田芳夫二十四世本因坊、聞き手:下坂美織二段
<第3局>茶寮宗園(電022・398・2311)
解説:一力遼七段、聞き手:星合志保初段
<第5局>常磐ホテル(電055・254・3111)
解説:内田修平七段、聞き手:青葉かおり五段
※いずれも午後3時から、入場無料、事前申し込み不要。第2・4局の現地説明会はありません。

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