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「今の仕事はマンネリ化している」「今の会社では新しいチャレンジができない」……そんな現状に物足りなさを感じ、「新規事業の立ち上げ」に携われるポジションへの転職を希望する方もいらっしゃいます。しかし、そのワクワク感や期待が裏切られ、思わぬ苦労を強いられるケースも。今回は「新規事業への転職」で後悔しないようにするためのポイントをお伝えします。

「自由にやってくれ」の裏側には思いがけぬ困難が…

「新規事業を立ち上げる。そのプロジェクトリーダーをお任せしたい」。そんなふうに入社を請われたとしたら、転職へのモチベーションがぐっと高まるという方も多いのではないでしょうか。

それがベンチャー企業のオーナー経営者からのオファーで、「すべての権限を委譲するから、好きなようにやってくれ」と言われたとしたら……。これまで構想やアイデアを持っていたけれど、大手の組織のしがらみの中で発揮できずにいた方にとっては、非常に魅力的に感じることでしょう。

ところが、「新規事業」への夢と希望を抱いて転職したものの、「こんなはずじゃなかった」と苦悩するケースもあります。それらは、安易にオファーを承諾するのではなく、事前に確認や検討をすることで回避することができるもの。次のようなポイントに注意してください。

●アイデアを実行するための予算がない

ベンチャー企業には、組織のしがらみにとらわれず、自由に、柔軟に動けるというメリットがあります。しかし、アイデアやプランを実行に移すための資源(ヒト・モノ・カネ)がそろっていない可能性も大いにあります。その点を事前にしっかり確認したほうがいいでしょう。

例えば、大手企業でIT(情報技術)エンジニアとしてキャリアを積んできたKさんは、今の組織では新たなチャレンジができないことに不満を抱き、ネットベンチャーに転職しました。

ポジションは「CTO(最高技術責任者)」。高い報酬と自由な裁量権を約束され、入社を決めたKさんでしたが、ほどなくして再度転職活動をするはめになったのです。

社長の口ぶりから勢いのある会社だと感じたKさんでしたが、実のところ財務内容が厳しく、開発予算を十分に確保できなかったのだとか。つまり「アイデアはあるのに実行できない」という状況に陥ったのでした。

経営者側は、最低限の予算で最大限の効果を期待するもの。ご自身が転職先で実現したいプランがあるとしたら、どの程度のコストと人員を必要とするのか、そして、転職先候補企業ではそのリソースを用意できるのか、あらかじめ相談・確認しておくことをお勧めします。

●「ルール作り」に時間をとられる

大手企業にいると「ルールに縛られている息苦しさ」を感じる人も多いと思います。新しいことを始めようとしたとき、ささいなことでも稟議(りんぎ)にかけ、何重もの決裁を待たなければなりません。そうしたプロセスにもどかしさを感じ、「スピード感」を求めてベンチャー企業に移る方もいらっしゃいます。

ところが、いざ「ルールがない会社」に入ってみると、「それはそれで面倒」という声が聞こえてきます。ベンチャー企業は確かに「柔軟性」があります。しかし、価値基準や判断基準が明確ではない状態で新しいことに取り組もうとすると、「なぜそれが必要なのか」「どんな効果を得られるのか」など、一からロジックを組み立てなければなりません。社長の納得を得て予算を確保するためには、膨大な資料を用意したりロジカルに説得したりと、大変な労力を要するというわけです。

もちろん、「そういうプロセスが楽しい」という人にはやりがいある環境なのですが、大手企業などで「既存のルール」にもとづいて動くことに慣れている人の場合、ストレスを感じてしまうようです。

新規事業の「位置付け」「メンバー」の見極めも大切

転職先で新規事業に携わろうとするなら、その会社の全体像における新規事業の位置付けにも注目してみてください。新規事業に意欲を燃やして入社したTさんの「こんなはずじゃなかった」のケースをご紹介しましょう。

TさんはEC(電子商取引)分野で経験を積んだ方で、ある小売店チェーンに転職しました。その商品カテゴリーの小売店としてはブランド力を持ち、知名度が高い企業でした。Tさんは新規事業として、ネット通販の立ち上げを任されたのです。

ところが、Tさんが自信を持って企画・提案したネット展開の施策に対し、リアル店舗の店長たちやFC(フランチャイズチェーン)店のオーナーたちが猛反発。Tさんはリアル店舗側と堂々巡りの折衝を続ける日々を過ごすことに。マーケットは確実にあり、成長のポテンシャルを秘めているにもかかわらず、プロジェクトは足踏み状態となり、Tさんは疲弊してしまったのでした。

一口に「新規事業」といっても、企業がそれにかける熱量には差があります。メーン事業と同等か、いずれメーン事業に取って代わる収益柱として期待されているもの、メーン事業を補ったり付加価値をつけるサブ的なもの。あるいは、経営陣の思いつきでスタートしたものの、ちょっとうまくいかなくなるとすぐに撤退……ということもあり得ます。長期的視点で、経営陣が新規事業をどう捉えているかを確認しておきたいところです。

また、新規事業部門のメンバー構成も要チェックです。ほぼ既存社員で構成されるのか、異業界から採用されたメンバーが中心となるのか。もしかすると、買収先や提携先など外部社員とチームを組むケースも考えられます。

こうしたチーム編成によっても、メンバーとのコミュニケーションの取り方が変わってきます。プロジェクトに着手する前に、価値観やビジョンを共有し、同じ方向へ視線を合わせる努力が必要となることもあるでしょう。それを得意とする人には苦にならなくても、人によってはつらく感じることもあります。

「新規事業」というポジティブなイメージだけにとらわれて転職を決意する前に、起こり得る事態を想像し、できる限り情報収集しておいてください。

 「次世代リーダーの転職学」は金曜更新です。次回は11月4日の予定です。
 連載は3人が交代で担当します。
 *黒田真行 ミドル世代専門転職コンサルタント
 *森本千賀子 エグゼクティブ専門の転職エージェント
 *波戸内啓介 リクルートエグゼクティブエージェント社長
森本千賀子(もりもと・ちかこ)
リクルートエグゼクティブエージェント エグゼクティブコンサルタント
1970年生まれ。独協大学外国語学部英語学科卒業後、93年にリクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。大手からベンチャーまで幅広い企業に対する人材戦略コンサルティング、採用支援、転職支援を手がける。入社1年目にして営業成績1位、全社MVPを受賞以来、つねに高い業績を上げ続けるスーパー営業ウーマン。現在は、主に経営幹部、管理職を対象とした採用支援、転職支援に取り組む。
 2012年、NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。『リクルートエージェントNo.1営業ウーマンが教える 社長が欲しい「人財」!』(大和書房)、『1000人の経営者に信頼される人の仕事の習慣』(日本実業出版社)、『後悔しない社会人1年目の働き方』(西東社)など著書多数。

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