ホントに売れる? 30万円の「超高級ウォークマン」
ソニーは2016年9月8日、きょう体に金メッキ加工を施した「黄金のウォークマン」ことNW-WM1Zを日本で発表した。発売日は10月29日で、予想実売価格は約30万円だ。
同時に発表された、NW-WM1Zの下位モデルであるNW-WM1Aは12万円前後。こちらも携帯音楽プレーヤーとしてハイエンドだが、WM1Zは20万円台を飛び越え、30万円という価格帯に入った。「高すぎる」と感じるユーザーもいるだろうが、実はそうではない。
高級市場が拡大中
ソニーによると、実売価格5万円以上の携帯音楽プレーヤー市場は前年比120%で拡大中。既存のウォークマンでは約12万円のNW-ZX2、約8万円のNW-ZX100の2モデルが該当する。
携帯音楽プレーヤーの市場では、さらに高価なモデルも人気を博している。例えばオーディオマニアの間で評価の高い韓国iRiverが展開するAstell&Kernブランドでは、2016年2月に登場したAK-380-256GB-CP(CPはカッパー、銅素材の意味)が直販価格で54万9980円と、なんと50万円オーバーだ。
AK-380-256GB-CPのベースモデルであるAK380も、2015年7月の日本発売開始時点で約35万円と、既に30万円を超えていた。ちなみに、Astell&Kernが比較的コストパフォーマンスの高い機種として2016年6月にエントリーモデルとして投入した機種でも、直販価格で12万9980円となっている。
高級携帯音楽プレーヤー市場において、海外メーカー製は10万円台前半がエントリーモデルであり、20万円台でミドルレンジとなる。この分野のトップブランドであるソニー・ウォークマンが30万円のNW-WM1Zの発売に至ったのは必然だったと言える。
「銅」と「金メッキ」で価格が跳ね上がる
「黄金のウォークマン」ことNW-WM1Zの30万円という価格は、どこから来ているのだろうか。
まず、ウォークマンのNW-WM1Z、NW-WM1Aで搭載するアンプは、ソニーが自社開発するフルデジタルアンプの最新世代「S-Master HX」。DSDフォーマットの音源のネイティブ再生、バランス出力対応といったオーディオファンに人気の新機能を搭載している。
一方、今回のNW-WM1Zの高価格の原因となっているのが「無酸素銅金メッキシャーシ」だ。
銅はノイズを防ぐ効果の高い素材といわれており、抵抗値を下げることで音質を高める目的で高級オーディオ製品の一部で使われている(一部でしか使われないのは、銅という素材そのものが鉄などと比べて高価なため)。
その銅のなかでも切削困難な無酸素銅(純度99.96%以上)を、約1.8kgのブロックから削りだし、基盤や液晶などの回路を加えて作られたのが、455gのNW-WM1Zだ。
しかもNW-WM1Zの銅の表面処理は、貴金属である金メッキだ。
銅素材は酸化しやすいためメッキ処理を施すのが一般的だが、きょう体内部はグラウンド(接地)としても用いられるため、電気の接触抵抗を下げると高音質化につながる。
2015年発売のNW-ZX2でもきょう体の一部に金メッキした銅プレートを使っていたが、NW-WM1Zではきょう体全体が銅ということもあり、コストを惜しまず最も接触抵抗の低い金メッキが全体に採用されたというわけだ。
あくまで金メッキは音質向上のために施されているが、NW-WM1Zは先述の通り外装にも金メッキが用いられたために「黄金のウォークマン」となった。ゴールドというカラーは金以外で出すのは難しいこともあり、ウォークマンを手がけるデザイナーとしても念願の素材だったという。
新しいヘッドホン端子も備える
NW-WM1Zで採用された音質優先の設計は、パーツにも及んでいる。
まず、ハイエンドヘッドホンにみられる高インピーダンス(交流抵抗、一般的にこれが高いと音が小さくなる)の、いわゆる「鳴らしにくい」ヘッドホン対策が施されている。駆動力アップのため、バッテリーから電源を供給する大元の部分に大容量の電気二重層キャパシタ(コンデンサーの別名、電気を電子のまま蓄える蓄電システム)を採用。瞬間的な大電力の供給と、正確な信号出力を実現した。
また、バッテリーは既存モデル比で1.4倍の容量に。専用電池パックも新規に採用し、アンプ部分の電源系統も強化している。
オーディオの信号回路には、大型音質抵抗をはじめとした高音質パーツを採用。アンプからヘッドホンジャックの内部の線材にKIMBER KABLE社のケーブルを採用するなど、随所に最上級のパーツを使用している。
デジタル・オーディオの高音質設計で有効なマスタークロックも、100MHz対応の低位相ノイズ水晶発信器を44.1kHzと48kHzの2個搭載する。
ヘッドホンの出力端子は近年のトレンドを反映し、通常の3.5ミリのイヤホンジャックの他に、左右の音を完全に分離して伝える高音質なバランス出力にも対応。JEITA(電子情報技術産業協会)により策定された新方式である4.4ミリタイプの端子を採用したため、業界内のさまざまなバランス端子にも変換して接続が可能だ。
このように、NW-WM1Zの30万円という価格は、使用している素材やパーツにコストが惜しみなくかけているのが主な理由だ。
30万円超の超ハイエンドプレーヤーにも需要があることは、先行した海外メーカーにより既に実証済み。NW-WM1Zは、高音質を求めるユーザーにヒットすることが期待できそうだ。
(ライター 折原一也)
[日経トレンディネット 2016年9月30日付の記事を再構成]
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