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激変するファッションショー NYコレクション報告 宮田理江のファッションラボ

2016/10/21

THOM BROWNE. NEW YORK 2017年春夏NYコレクション Photo Credit: Dan and Corina Lecca

 長年続いてきた「ファッションショー」という発表手法が揺らぎ始めています。これまでは半年ほど先に向けて提案してきたわけですが、近ごろはショーの終了直後から売り出す「see now buy now(シー・ナウ・バイ・ナウ、=見てすぐ買う)」形式が出現。9月に開催された2017年春夏・ニューヨークコレクションでもこの傾向が加速しました。ほかにも、消費者にもっと近づこうと試みる意識が今回のNYではあちこちに見られ、モードと着る側の関係が変化する兆しがうかがえました。

■THOM BROWNE. NEW YORK(トム ブラウン ニューヨーク)

THOM BROWNE. NEW YORK 2017年春夏NYコレクション Photo Credit: Dan and Corina Lecca

 モデルがランウエーを足早にウオーキングするという伝統的な舞台設定にも見直しが加えられました。「THOM BROWNE. NEW YORK(トム ブラウン ニューヨーク)」のショーでは水を抜いたプール風の会場が用意され、モデルが一斉に登場。カラフルな花柄に彩られた、ふわふわしたボリュームのはおり物をまとって勢ぞろいしました。1人ずつ小出しに送り出す段取りも打ち破られています。その後、モデルがアウターを脱ぐと、全く別のムードを帯びたスーツやワンピースが出現。最後には水着まで披露され、1度のショーで3種類のウエアを発表して見せました。デザインの面でも、ワンピースがスーツに見えるようないたずらっぽい「だまし絵」の手法が盛り込まれています。パステルトーンのやさしい色合いが工夫たっぷりの演出とマッチしていました。

■3.1 Phillip Lim(3.1 フィリップ リム)

3.1 Phillip Lim 2017年春夏NYコレクション

 ちょうど15年前の9月にNYは大規模テロに襲われ、NYコレクションも中止となりました。世界でテロが続く中、節目を迎えた今回のNYでは、平和のシンボルとされる花柄がモチーフの主役となりました。「3.1 Phillip Lim(3.1 フィリップ リム)」のショーではあらかじめ床に花をまいてある会場で、フラワーモチーフの装いが相次いで披露されました。ありがちな甘い花柄ではなく、トーンを落としたミステリアスな花柄は、手放しのハッピーではない時代の気分を映しているかのよう。ファスナーをあちこちに走らせて、服のフォルムを自在に変形させられるつくりも目新しさを演出。ランジェリーの風味も持ち込んでほのかに色気を薫らせています。

■MICHAEL KORS COLLECTION(マイケル・コース コレクション)

MICHAEL KORS COLLECTION 2017年春NYコレクション

 テロを乗り越える人間愛を呼び覚ますかのような「LOVE」の1語を、身頃からあふれるほどのサイズでプリントした「MICHAEL KORS COLLECTION(マイケル・コース コレクション)」。強いメッセージを短い言葉で打ち出す「ステートメント」の手法と、白抜きの花柄を組み合わせ、服に願いを託しました。指先を覆ってまだ余るスーパーロング袖に朗らかなムードが宿ります。シャツ襟も大ぶりで、ボリュームの「過剰」とたわむれるようなウィットを感じさせます。この「LOVE」ニットを含め、13型を「see now buy now」方式でショーの終了直後から発売。NYを代表するビッグブランドの取り組みはこの流れを勢いづかせました。

■COACH(コーチ) 1941

COACH 1941 2017年春夏NYコレクション

 建国から240年というタイミングにあたっていたこともあってか、「アメリカ」の歴史や文化を掘り下げるアプローチが目立ちました。「COACH(コーチ) 1941」はロックンロール音楽の源流とされるロカビリーに目を向け、エルビス・プレスリーへのオマージュを捧げました。彼のステージ衣装でおなじみの長いフリンジをあちこちにあしらい、ウエスタンへのノスタルジーも漂わせています。たくさん打ち付けたスタッズ(金属びょう)にもロックスピリットが宿ります。ブランドの原点であるレザーと、透ける薄手生地を組み合わせ、装いに濃淡を強調。アメリカンヒストリーへのまなざしを通して全体で母国愛をうたうよう。こちらも数型限定で「see now buy now」が取り入れられていました。

■ALEXANDER WANG(アレキサンダー ワン)

ALEXANDER WANG 2017年春夏NYコレクション
ALEXANDER WANG 2017年春夏NYコレクション 「adidas Originals by Alexander Wang」

 東海岸の代名詞的なNYに、カリフォルニアのカルチャーを呼び込む「東西ミックス」の提案が相次ぎました。まるでアメリカの一体感を示すかのように、「ALEXANDER WANG(アレキサンダー ワン)」はサーフィンやビーチの装いを投入。ブラトップやサーフパンツにはおり物を重ねて、海辺の気取らないライフタイルを印象づけています。アメリカらしい暮らしぶりや、伝統的な気風を重んじる意識は多くのブランドで共有されていました。オリジナルコレクションの新作発表に加えて、スポーツブランド「adidas(アディダス)」とのコラボレーションを企画。同じランウエーで続けて発表し、すぐさま売り出したのも、これまでのショーの常識を踏み越える構成でした。

 最もビジネス感度が高いといわれてきたNYコレクションは「see now buy now」の発火点となり、ファッションショー見直しの動きでも先陣を切る格好となっています。巨額の費用がかかる割には消費に直結しにくい、旧来のショー構成にはかねてから疑問が呈されてきました。自分たちが発表した直後から、似たようなデザインがよそのアパレル企業から低価格で発売されて、需要を「先食い」されてしまうという不満もブランド側には根強くあり、この動きはさらに広がりを見せそうな気配。同時に、ショー会場へ一般消費者を招いたり、SNS発信を促したりするような試みも盛り上がっていて、NYのクリエイターたちは消費者との向き合い方を大胆に様変わりさせようとし始めたようです。

[画像協力]
3.1 Phillip Lim
http://31philliplim.jp/

ALEXANDER WANG
http://www.alexanderwang.com/jp

COACH 1941
http://japan.coach.com/

MICHAEL KORS COLLECTION
http://www.michaelkors.jp/

THOM BROWNE. NEW YORK
https://www.thombrowne.com/
宮田理江(みやた・りえ)
 ファッションジャーナリスト、ファッションディレクター。多彩なメディアでランウェイリポートやトレンド情報、リアルトレンドを落とし込んだ着こなし解説などを発信。バイヤー、プレスなど業界での豊富な経験を生かした、「買う側・着る側の気持ち」に目配りした消費者目線での解説が好評。自らのTV通版ブランドもプロデュース。セミナーやイベント出演も多い。著書に『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(学研パブリッシング)がある。
公式サイト:http://riemiyata.com/

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