マネー研究所

税務署は見ている

税務調査に入られにくい経営者とは

2016/10/4

 各地域には「法人会」という経営者団体があります。定期的に例会を開催し、様々な分野の講師を招いて勉強をしておられるようです。私もこのコラムを書かせていただくようになってから、色々な地域の「法人会」で、お話しさせていただくようになりました。

 今回はとある地方の「法人会」で税務調査についてお話しした後の懇親会で、30代の若手経営者Aさんと行ったやりとりを再現してみましょう。

A:きょうは元国税調査官の方がお話しされるということだったんで、正直、もっと退屈な話なのかなと思ってました。
飯田:そうでしたか。実際、聞いてみて、どうですぅ?
A:いやぁ~、漫才みたいでした。
飯田:えっ。私ひとりでしゃべってただけやし、漫才とは言わへんと思いますけど……。
A:そしたら、漫談ですかね。
飯田:あははっ、そうですね。
A:でも、今回は、飯田先生が大阪から来てくださるということで、いつもはあまり例会に参加されない方も参加してくださったんですよ。
飯田:それはよかったです。私も、みなさん熱心にメモをとってくださっているのが前から見えて、つい熱が入ってしまいました。
A:テンポがいいというか、聞きやすかったですよ。
飯田:そう言ってもらえると、本当にうれしいです。でも、Aさん。お役目とはいえ、お父様くらいの年齢の方に交じって準備とか、大変だったんじゃないですか。
A:いえいえ。皆さんには父の代から何かとお世話になっているんです。私にできることがあれば、なんでもさせていただければって思ってるんです。
飯田:なるほど~。
A:そうそう、ずっと国税の人に聞きたいと思っていたことがあるんですけど、ちょっと質問してもいいですか?
飯田:はい、どうぞ。
A:「法人会」に入ってたら、税務調査に入られないって、本当なんでしょうか?
飯田:う~ん。「法人会」に入ってるから、税務調査に入られないってことはないですよ。
A:やっぱり、そうですよね。私の友人はこの地域ではないんですけど、「法人会」に入ってるんです。で、その友人は、「法人会」に入ってても税務調査に来られたって言ってたんです。
飯田:ふむふむ。
A:でも、ここの「法人会」の会員の方は、ほとんど税務調査に入られたことがないって言われてるんです。
飯田:自分の会社のことだけじゃなくって、利他の心で地域のために貢献している経営者は、自分の会社でも不正が発覚しない社風ができあがってるってことなんじゃないですか。
A:なるほど、そういうことなんですね。よくわかりました。あっ、もうこんな時間。
飯田:どうしたんですか?
A:きょう掛け持ちなんです。この後、商工会議所の集まりに参加しないといけないんで、お先に失礼します。

 国税庁のwebサイトを見ると、「適正な申告・納税のための納税者サービスの充実」というページには以下のようにあります。

 国税庁は税に関する情報を直接納税者に提供するだけでなく、青色申告会や法人会などの関係民間団体の協力によって、税に関する情報が納税者に伝わるようにしています。これらの関係民間団体は、適正な申告納税制度の実現や税知識の普及などに大きな役割を果たしています。
 また、関係民間団体においてはe―Taxの普及活動や「税を考える週間」における各種行事の共同開催を推進していくことなどにより、各団体間の連携・協調の強化を図っています。

として、青色申告会、法人会、間税会、納税貯蓄組合、納税協会が紹介されています。

■青色申告会は青色申告制度の普及と誠実な記帳による適正な申告の推進を目的として、個人事業者の青色申告者を中心に結成された団体です。
■法人会は、税知識の普及や、適正な申告納税制度の確立を図ることを目的として結成された団体です。
■間税会は、間接税についての知識を習得し、申告納税制度における公平な税制の実現と適正な税務執行に寄与することを目的として結成された団体です。
■納税貯蓄組合は、納税のための貯蓄を通じて期限内完納の継続を目指す人々が集まって組織された団体です。
■納税協会は、税知識の普及や、適正な申告納税の推進と納税道義の高揚を図ることを目的として、大阪国税局の各税務署管内に設立された団体です。

 私が在職していた頃は、毎年11月の税を知る週間に、税務署とこれらの団体が一緒になって行事を進めたこともありました。優良法人や納税表彰など、税務行政に貢献した企業を表敬するイベントがあり、表彰をされる方にお渡しする賞状が入ったお盆を署長のところまで運ぶお役目をさせていただいたこともありました。

 けれども、昨今、国家公務員の不正行為を未然に防ぐ意図もあるのか、役員の方々と税務署で勤務する職員が交流する場が少なくなってきたように思います。

 例に挙げたような民間団体は適正公平な課税の実現のために存在しています。けれども、その団体に加入していれば、税務調査を免れるというものではないのです。もしかすると割合的には、団体に所属していない経営者のほうが税務調査に入られる可能性が高いといえるのかもしれませんが……。

 どんな団体に入っていても、その経営者の考え方次第で経営の方向は決まってくると思います。経営者は常に自分で最後の決断をしないといけないので孤独です。国税庁がサイトに列挙している団体は申告納税制度の実現と、孤独な経営者の心のよりどころになっているのだろうなと思います。

飯田真弓(いいだ・まゆみ) 税理士。産業カウンセラー。日本芸術療法学会正会員。初級国家公務員(税務職)女子1期生。26年間国税調査官として7カ所の税務署でのべ700件に及ぶ税務調査に従事。在職中に心理学を学び認定心理士の資格を取得。2008年に退職し12年(社)日本マインドヘルス協会(http://jamha.org/)を設立し代表理事に。税務調査とメンタルヘルス研修という切り口で、企業が活性化する研修を全国で開催し好評を得ている。著書に『税務署は見ている。』『B勘あり!』(ともに日本経済新聞出版社)。
 「税務署は見ている」は今回で連載を終了します。ご愛読ありがとうございました。

税務署は3年泳がせる。 (日経プレミアシリーズ)

著者 : 飯田 真弓
出版 : 日本経済新聞出版社
価格 : 918円 (税込み)


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