「プ女子」で話題の新日本だけじゃない 全日本も熱い
つい先日、テレビ番組でプロレスが取り上げられたのをご覧になったでしょうか。新日本プロレスリングのオカダ・カズチカ選手をはじめ現役レスラーが登場し、スタジオ内でエキシビジョンマッチを行いました。ふつうに生活していたらプロレスに触れる機会のない時代に安くないであろう経費をかけて特設リングを組み、お客さんを入れて試合を流すというのは大英断だったと思います。
その一方で、ファン同士のSNS上ではプロレスの魅力をプレゼンする出演者について、「イケメンレスラーに萌える女性ファン」を強調した点が賛否両論となりました。いわゆる「プ女子」のメディアでの取りあげられ方は何度も熱心なファンの心を波立たせています。
あくまでも私の想像です。たとえば、熱意のあるプロレスファンのスタッフが「プロレスに波が来ている! 今こそ特集したい!」との思いを抱いたとします。そんなときにプロレスにあまり関心のない周囲への説得材料として「プ女子」の話題性が有用だったというのもありうる話ではないでしょうか。
それはまさにこのコラムについても当てはまることでもあるのです。「○○女子」と括られる女性ファンのモヤッとする気持ちについては議論の余地がありますが、ともかくテレビの番組をきっかけに「プロレスの存在に気がついた」人が一人でも多くいることを願います。
新日本プロレスからはじまったプロレス再興のムードは、じわりと他の団体にも広がりつつあります。特にこの9月は全日本プロレスリングの「王道トーナメント」、プロレスリングZERO1の「天下一ジュニアトーナメント」、プロレスリングNOAHのGHC王座戦など書ききれないほど注目される大会が開かれました。
そんななかで9月4日、品川プリンスホテルステラボールで開催された「全日本プロレス王道トーナメント」第1回戦を観戦しました。この日のお目当てはメーンの諏訪魔(すわま)選手対宮原健斗(みやはら・けんと)選手です。前三冠王者・諏訪魔選手と、諏訪魔選手が欠場中に三冠に輝き、めきめきと勢いを増している27歳の宮原選手。「暴走」とも形容されるダイナミックなファイトスタイルの諏訪魔選手相手に一歩も引かず、負けん気の強さ全開で向かっていきます。最後は闘病中の盟友ジョー・ドーリング選手の技レボリューションボムで諏訪魔選手が若き王者を下しました。
諏訪魔選手はその勢いのままトーナメントを勝ち上がり、後楽園ホール大会(9月19日)の決勝でゼウス選手を破って優勝を果たしました。
今の全日本プロレスの試合はとてもバランスがよく、観戦して「気持ちいい」と感じます。身長180cmオーバーの体格に恵まれた若手選手の頑張る姿。コミカルな覆面レスラーが子どもを楽しませる風景。確かな技術を持ったベテラン選手が相手をマットに投げつける「ボディースラム」一つで会場を沸かせる温かさ。見るからに非日常なバキバキの肉体を誇る選手、勢いに乗る若きチャンピオン、ひとクセもふたクセもあるジュニアヘビー級の選手。社長としても若手の壁としても存在感を放ち続ける秋山準選手。体格的にもこれぞプロレスラーという諏訪魔選手……。
どこかノスタルジックな雰囲気と現在進行形の熱気がいいバランスでブレンドされて、「娯楽」として心地いいのです。大型のプロレスラーが活躍している点でも、ジャンボ鶴田選手(故人)や天龍源一郎選手(引退)に熱狂したお父さん世代が久しぶりに家族を連れて観戦するのに最適かもしれません。
全日本プロレスは2000年代初めに新日本プロレスから移籍した武藤敬司選手が社長に就任。その後2013年に武藤選手が立ち上げたWRESTLE-1と2派に分裂し、ここ数年は観客動員も苦戦が続いていたようですが、若手選手も育ち徐々に熱気を取り戻しつつあります。上昇していく途上の新日本プロレスに感じたような「熱風」を、今体感できる団体の一つが全日本プロレスなのです。
今回のイラストは決勝戦で決めた諏訪魔選手の必殺技「ラストライド」です。相手のコスチュームをつかんで高々と持ち上げる豪快なパワーボムです。まわりに散らばる花は「ランタナ」。カラフルで繁殖力旺盛な明るく・楽しく・たくましい植物です。花言葉は「合意・協力・確かな計画」。
(この連載は随時掲載します)
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