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職務経歴書や面接での自己アピールが「自己満足」に終わってしまっている方は少なくありません。自分では「優れた経歴や成果を存分に伝えられた」と思っていても、実は相手企業にまったく響いていないということが頻繁に起こっています。自己アピールをするにあたり、心得ておくべきポイントをお伝えします。

ダラダラ長いだけの職務経歴書では伝わらない

転職活動を始める際に必ず行うべき作業が「キャリアの棚卸し」。つまり、これまでの職務経験や担当プロジェクト、身に付けたスキルなどをすべて洗い出すということです。それをもとに「職務経歴書」を作成します。

しかし、この職務経歴書作成でつまずく方が大勢いらっしゃいます。ビジネス経験が豊富なエグゼクティブクラスのビジネスパーソンであっても、です。

むしろ、幅広い経験を積み、多くの実績を上げてきた方ほど、ご自身で作成した職務経歴書が「相手に伝わらない」という事態が起きています。「ダラダラと長いだけでポイントがつかめない」書類になってしまうからです。

経歴が豊富な方は、社会人1年目から職務経歴を並べていくと、5枚以上に及んでしまうこともあります。しかし、職務経歴書をちゃんと読んでもらえるのは、せいぜい2枚まで。自分の強みを、2枚以内にぎゅっと凝縮することが大切です。それほど重要でないキャリアは省略し、重要なキャリアはしっかり伝えるなど、メリハリをつけることを心がけてください。

相手企業に応じ、「しっかり伝える」ポイントを変える

では省略すべき「重要でないキャリア」と、厚めに伝えるべき「重要なキャリア」をどのように選別するか。そのポイントは、応募先の企業によって変わってきます。しっかり伝えるべきは、「自分が自信を持っていること」ではなく、「相手が求めていること」です。

例えば、IT(情報技術)業界で次のような経歴を持つAさんという人物がいたと仮定します。

*入社1~3年目 法人向け営業として流通業界を担当
*入社4~7年目 法人向け営業として医療業界を担当、グループリーダーも務める
*入社8~11年目  事業企画部門に異動、新サービスを立ち上げる
*入社12~13年目 経営企画部門に異動、海外企業のM&A(合併・買収)プロジェクトにも携わる
*入社14年目~現在 海外現地法人に駐在し、マネジメントを行う

Aさんが自信を持っているのは、「営業時代、流通企業大手から大型受注を獲得し、全社トップの売り上げを上げた」「自ら企画した新サービスで売り上げ3割増加」「海外現地法人のマネジメント経験」だとして、それらの経験や実績数字などをびっしり経歴書に盛り込んだとしましょう。

しかし、それらが非常に優れた成果やノウハウであるのが事実だとしても、相手企業がそれを重視していなければ、「すごいですね」と評価はしてもらえても採用には至りません。

そこで、まずは相手企業のニーズや今後のビジョンを把握した上で、それにマッチしている部分を強調することが大切です。例えば、相手企業がこれから医療業界のマーケットを開拓していこうと考えているとしたら、「流通大手から大型受注」の実績をアピールするよりも、医療業界の営業担当時代にどのような戦略や工夫で顧客との関係を築いたかを詳細に伝えるほうが、興味を持ってもらいやすいでしょう。

一方、海外M&Aプロジェクトに携わった経験については「短期間だし、サポートくらいしかしていないから……」と、1行の記載で終わらせたり、あるいは記載せずにおいたりしたとします。しかし、相手企業によっては「少しでもかじった」経験を高く評価するかもしれません。それが推測できるなら、営業経験や企画経験のアピールはそこそこに、短期間であってもM&Aプロジェクトにおいてどんな役割を担い、どんなノウハウを身に付けたかを厚めに伝えるべきでしょう。

あるいは、海外で流通事業を手がけようとする企業が相手であれば、営業時代に得た「流通の仕組みに関する知見」と「海外拠点のマネジメント経験」の部分を重点的にアピールするのが得策ということになります。

以上、シンプルでわかりやすい例を挙げてみましたが、つまりは「すばらしい実績」よりも「相手が求めている経験・スキル」に焦点を当ててアピールすることが重要、というわけです。職務経歴書の作成はもちろん、面接の準備においても、ぜひそれを心に留めておいてください。

さまざまな角度から企業研究を行い、接点を探る

これまでお話ししたように、自己アピールは「相手が求めていること」に沿うことが大切。その「相手が求めていること」をつかむには、企業研究が欠かせません。企業サイトに記されている事業内容、求人票に記されている募集要項に目を通すだけでなく、あらゆる角度から情報収集をしてみてください。

メディアに掲載されたインタビュー記事、社長のブログやFacebookなどにも、「その企業が求めているもの」のヒントが詰まっています。それと自身の経験の接点を探ってみてください。例えば、次のようにです。

「『女性活躍推進』『育児と仕事の両立支援』に力を入れているのか。自分は女性が多い部署のマネジャーとして、子どもを持つ女性メンバーのマネジメントも行ってきた。その経験が生かせそうだ」

「売り切りではなく、長期のアフターフォローに力を入れていこうとしているのか。自分は10~20年お付き合いを続けている顧客が多い。長期的に信頼関係を築くノウハウが役立てられる」

「社長は○○の経営理論を信奉しているようだ。自分も○○理論のセミナーに参加したことがあり、職場で実践していた」

ちなみに、ある方は志望企業の社長面接の前に、その社長のインタビュー記事を読み、「失敗や挫折の経験こそが重要」という考えを持っていることを知りました。そこで、面接当日には、成功体験だけでなく、自らの失敗体験と、失敗からどう立ち直ったかのエピソードを語ったのです。その方と社長は意気投合し、採用に至りました。

ぜひ、皆さんも「立派な職務経歴書ができた」だけで満足して終わらせず、志望企業に合わせた「カスタマイズ」を心がけてみてください。

 「次世代リーダーの転職学」は金曜更新です。次回は10月14日の予定です。
 連載は3人が交代で担当します。
 *黒田真行 ミドル世代専門転職コンサルタント
 *森本千賀子 エグゼクティブ専門の転職エージェント
 *波戸内啓介 リクルートエグゼクティブエージェント社長
森本千賀子(もりもと・ちかこ)
リクルートエグゼクティブエージェント エグゼクティブコンサルタント
1970年生まれ。独協大学外国語学部英語学科卒業後、93年にリクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。大手からベンチャーまで幅広い企業に対する人材戦略コンサルティング、採用支援、転職支援を手がける。入社1年目にして営業成績1位、全社MVPを受賞以来、つねに高い業績を上げ続けるスーパー営業ウーマン。現在は、主に経営幹部、管理職を対象とした採用支援、転職支援に取り組む。
 2012年、NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。『リクルートエージェントNo.1営業ウーマンが教える 社長が欲しい「人財」!』(大和書房)、『1000人の経営者に信頼される人の仕事の習慣(日本実業出版社)』、『後悔しない社会人1年目の働き方』(西東社)など著書多数。

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