個性的なカラー、性能も必要十分 VAIO C15
戸田覚の買うか買わぬか思案中
バイオがソニーから独立して2年以上が経過した。これまでのバイオの製品ラインアップを見ると、モノトーンのモデルばかりが目に付く。同社のホームページを見るとわかるが、黒やシルバー、白のモデルばかりが並んでいるのだ。要するに、高性能で格好が良いモデルを求める、バイオユーザーの"ど真ん中"を狙ってきたわけだ。
どちらかというと、家庭向けというより、仕事で使う上級機を軸にした布陣といってもよいだろう。この戦略は功を奏し、企業としては黒字化を果たしている。
さて、そんな同社がいよいよ新しい一歩を踏み出そうとしている。家庭向けに新しいA4オールインワンノート「バイオC15」を発表したのだ。店頭モデルの実売価格は10万3000円前後。このジャンルには驚くほど安い価格のライバルもひしめいているが、果たして、買うに値するモデルに仕上がっているだろうか? 例によって辛口でレビューしていこう。
目指したのは安心して使えるパソコン
1997年に紫色のボディーで登場した「バイオノート505」以来、バイオはソニー時代からデザインにこだわってきた。仕事向けには機能美を追求する一方で、家庭向けには持ち歩き用のハンドルが付いていて、ゴム足が肉球のような形状の13.3型オールインワンノート「バイオQR」といった冒険的なデザインの製品もあった。
そんな旧製品と比べると、バイオC15の形状は普通すぎるほど普通だ。ただしそのカラーリングが、これまでのバイオでも見たことがないものとなっいるのが特徴だ。4つのカラーリングを用意しており、そのどれもがハッと目を引く。
「形状や使い勝手については、今、実際にA4オールインワンノートを利用しているお客様が、安心して使えるパソコンを目指しました。そのうえでカラーリングにこだわることで、もうひとつ足りなかったバイオらしい要素をプラスしています」(VAIO株式会社 ビジネスユニット1 ビジネスユニット長の林薫さん)
樹脂製のボディーとはいえ外装にはかなりこだわる
確かに使い勝手の良さは重要だし、そもそも斬新な形状のモデルはモバイルノートには向いたとしても、家庭で使うオールインワンにはそぐわない。この路線は間違っているとはまったく思わないが、バイオがデザインにこだわるなら、金属製ボディーを採用するなど、もっと高級な路線を期待する人も多いだろう。
「ボディーに金属を採用すれば、ライバル製品と大きな違いになるかと思います。しかし、それではさすがに価格が高くなってしまい、ホームユースというコンセプトから外れてしまいます。とはいえ今回のC15については、金属製ボディーほどではありませんが、従来の樹脂製ボディーに比べると、かなり外装へのコストは掛かっています」(林さん)。
その外装はIMRという技術が採用されている。IMRとは、図柄などが印刷されたフィルムと樹脂を同時に金型に入れて成型し、フィルム上の印刷図柄を樹脂に転写する技術のことだ。これにより通常の塗装では難しい大胆な色の切り替えを実現している。さらにフィルムには金属箔を蒸着させる層も設けており、メタリックな風合いも出すことができる。
「パソコン用のIMRでこれだけ大きな面積の金属箔を蒸着しているケースは、ほとんどないと思います。特にイエロー/ブラックのモデルの金属箔を蒸着させる工程は、かなり難しいものになりました」(林さん)
塗装のように剥がれたり、キズが付いたりしにくいのもIMRのメリットだ。バイオC15では、表面にUVハードコートを施すことで、さらに耐久性を向上させている。
ほんの少しだけ気になる点をいくつか挙げるとすれば、まず液晶のヒンジ部分だ。この部分は、通常の塗装となっており、IMR部分と色合いがやや違って見えてしまう。また、ボディー側面のIMR加工してあるパームレスト側と、加工していない底面側の合わせ目がやや粗いのも気になった。
もう一つ、金属色の部分に光が当たると、ちょうど水の上に油を流したときのような虹色の文様が見えるときがある。金属箔の上にUVコーティングのような透明な層を設けると、どうしても起こる現象だという。いずれにしても、大きく目立つポイントではなく、全体として見れば、ボディーは非常に美しい。価格を考慮すれば満足の仕上がりといえるだろう。
ファッションブランド「BEAMS」とコラボも
さて、本体のカラーリングは4つある。中には少々派手に感じるものもあるが、そのカラーリングはいずれもインテリアになじむように考えられているという。ファッションブランド「BEAMS」とコラボレーションし、カタログなどに掲載されている写真は、BEAMSのスタッフの自宅で撮影されたものだ。
数あるファッションブランドの中からBEAMSを選択したのは、ターゲットユーザーが決して高級ブランド志向ではないからだという。例えばショッピングモールなどで、自分のセンスを生かして、自分に合ったものを選ぶことができる人たちがターゲットとのことだ。そこがセレクトショップであるBEAMSとマッチしているということなのだろう。
バイオC15購入者にはオリジナルのマグカップをプレゼントするキャンペーンを実施するなど、いわゆる"パソコン好き"以外の層へのアピールも積極的だ(キャンペーンはマグカップがなくなり次第終了)。
ブルーレイドライブも選べるようにしてほしい
店頭モデルのスペックは、CPUがセレロンで、メモリーも4ギガと決して高くない。家庭内でインターネットやメール、たまに文書やはがきの作成をしたりする用途なら、ごく普通に使えるかもしれない。だが、それでも5年、6年と使い続けていると少々動作が苦しくなってくることも予想される。
さらに性能が高いモデルを選びたいなら、直販でスペックをカスタマイズして購入しよう。CPUはコアi3が選択可能で、メモリーも8ギガを選べる。店頭モデルのストレージは1テラのハードディスク(HDD)だが、直販ならハイブリッドHDDも選べる。
家庭用と考えると残念に思えるのが、光学ドライブがDVDスーパーマルチのみになっていることだ。価格重視の店頭モデルはDVDスーパーマルチでもよいと思うが、直販の選択肢としてはブルーレイドライブも用意してほしいところだ。せっかくスピーカーに力を入れ、サブウーファーまで搭載しているのだから、市販のブルーレイコンテンツを再生したいという人は少なくないはずだ。
直販で選べるフルHD液晶は光沢タイプとなる
店頭モデルの液晶は1366×768ドットで、今となってはやや解像度が低いと感じてしまう。直販なら1920×1080ドットのフルHDを選択できる。サイズが15.5型と大きいので、できることならフルHDを選びたいところだ。
ただし、とても残念なのがフルHDを選択すると光沢タイプの液晶になってしまうことだ。解像度の低い店頭モデルの液晶は映り込みを抑えた非光沢タイプを採用している。見やすさを重視するなら非光沢タイプが絶対にお薦めなので、ぜひフルHDモデルにも非光沢タイプを用意してほしかった。
クリックボタンが独立したタッチパッドは評価できる
キーボードは、大型のオールインワンらしく配列は上々で、ピッチも19ミリを確保している。また、テンキーも搭載する。写真で見ると、キーボードの途中で本体カラーが切り替わっているのが気になるが、タイピングしているときにはほとんど目に入らないので、問題はないだろう。もっとも、タッチタイピングに慣れていない場合は、色の分かれ目が少々うっとうしく感じることがあるかもしれない。
キーストロークは1.5ミリで、オールインワンノートとしては若干浅めだ。モバイルノートでも2ミリストロークのモデルがあることを考えると、もっと深くしてほしい。また、強くタイピングすると若干ながらたわむのも気になる。トータルで評価するなら、ギリギリ合格の70点といったところだろう。
逆に高く評価したいのがタッチパッドで、左右の独立したクリックボタンを採用していることは素晴らしい。独立したクリックボタンがないタッチパッドを搭載した製品が主流となっているが、最近はボタンを復活させる動きが見られる。実際に使ってみると、ボタンがあったほうが作業性は間違いなく優れている。デザインだけを重視するなら、恐らくボタンはないほうがすっきりするのだが、あえて搭載したのは素晴らしい判断だ。
外部映像出力は4Kに対応してほしい
拡張性はUSB端子を4つ搭載するので、まあ、普通に使うには問題ないだろう。アナログRGB出力端子は搭載しないが、家庭用だと割り切るなら問題ない。アナログRGB接続の古いプロジェクターを利用するのは、仕事で使う場合に限られるだろう。有線LAN端子も搭載されているが、個人的には、これも家庭内では使わないと思う。
気になるのが、HDMIでの外部映像出力が1920×1080ドットにとどまることだ。最近の大画面テレビはどんどん4K化している。フルHDしか出力できないのは、家庭用だからこそ物足りない。今はよいとしても、5~6年後には確実に不満を覚えるだろう。購入を考えている人は、この点をよく覚えておこう。
カラーリングが個性的なこともあり、一見、普通のパソコンではないように感じるかもしれないが、実はとても堅実的なモデルだ。スペックはA4オールインワンノートの入門機としては一般的なもの。価格も決して高くはないが、ライバル機種と比べると少々割高感がある。特に値下げ幅が大きい型落ちモデルと比較すると分が悪い。2万~3万円ほどある価格差を、カラーリング代として納得できるかどうかが選択の分かれ目となる。
例えば家具や洋服を選ぶとき、2~3割の価格差なら、高くても自分が好きなほうを選んでしまう。パソコンも同じような選び方をする人がターゲットであり、その人たちがそんな視点で選んでくれれば、成功するモデルとなるだろう。店頭にこうした個性的なモデルが並べば、売り場も楽しくなっていく。
著書が130冊を超えるビジネス書作家。年間300機種以上を評価する、パソコン批評の第一人者でもある。そのキャリアは20年近くに及び、ユーザーの視点で、パソコンの良し悪しをずばり斬る。
[日経PC21 2016年11月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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