経済学で検証 愛を長続きさせるのは不安定な関係
多くの女性リーダーと交流していると、仕事だけでなくプライベートでも前衛的だなと感じることがあります。そのうちの一つが、事実婚の増加です。事実婚の解釈は多岐にわたりますが、ここでは身内や周辺には夫婦になったことを周知させるものの、あえて籍を入れない形式のことを指します。
増える事実婚 不安定な関係がもたらすもの
彼女たちが事実婚を選択した理由も千差万別。「籍を入れて名前が変わることを避けたい」「縛り付けられるような感じが嫌で……」など、さまざまです。結婚という制度が形骸化してきています。個人的には、もっと議論されてもおかしくないのになぁと感じています。
日本での事実婚は「子どもができた場合の法整備などについては欧米に比べると改善すべき点もあるのでは」という指摘もありますが、二人の生活を続けることで内縁の妻として認められ、法律面ではかなりの部分で籍を入れた夫婦と同等の扱いを受けられるようです。
ただ、やはり籍を入れていないのは一般的にはまだ、不安定な関係に見えるかもしれません。でも、そんな関係だからこそ、逆に夫婦愛が育まれやすいのかな、とも感じます。
実は、それを確信させてくれるような経済学の研究論文に注目が集まっているのです。
経済学の視点からアメリカの「法制度と離婚率の関係」を検証
アメリカでは、結婚・離婚に関する法制度が各州によって異なります。1970年代以降、夫婦どちらか一方の請求によって離婚を成立させることができるという法制度を採用する州が急増しました。これをきっかけに、離婚率はどう変化するかについて、経済学の視点から多くの研究が行われました。
経済学では、世の中が合理的であれば法制度の変化は離婚率に影響しないという考えが前提になっています。つまり、法制度に関係なく、離婚したい夫婦は何がなんでも離婚するし、したくない夫婦はしないだろうということです。これをアカデミックな用語では「コースの定理」といいます。
しかし、実社会のなかで、この「コースの定理」という考え方は本当に当てはまるのでしょうか。普通に考えると、「夫婦合意でなくても離婚できる」のではあれば、離婚率が急増しそうに思いますが……。
"離婚しやすく"なって、離婚率はどう変化した?
離婚制度の変化については、長期間のデータをとらないと正確な変化がつかめません。以下の論文では、法制度が変化してから10 年以上のデータを用いて実証分析を行っています。
"Did Unilateral Divorce Laws Raise Divorce Rates? A Reconciliation and New Results" JUSTIN WOLFERS(2006)
Wolfers博士の検証の結果、法制度が変化してから、離婚率は低下していました。博士は制度が変更されたことで、一時的に離婚率は上昇することを示していますが、その後、離婚率は緩やかな低下を示しました。
そしてさらに驚くことに、法制度から15 年ほど経過すると、Wolfers博士が実証した当時の離婚率の水準よりもさらなる低下を見せていたのです。
つまり、変更によって"離婚しやすくなった"法制度が、長期で見ると離婚率を低下させた可能性があるということです。
"離婚しやすく"なったら、離婚しなくなる?
なんだか不思議ですよね……。この理由について、以下の研究論文では、このように解釈しています。
"Why Divorce Laws Matter: Incentives for Noncontractible Marital Investments under Unilateral and Consent Divorce" Wickelgren, Abrahm L(2007)
「離婚しやすくなったことで、お互いのパートナーは、いざというときを意識して、離婚する際の分配を少しでも多くしたいと考える。そして、パートナー同士、婚姻関係で自分の貢献を高めるように工夫する。その結果、婚姻関係の継続につながっていくのではないか」と……。
つまり、「不安定な関係だからこそ、いざというときに備えて、いい婚姻関係に貢献しなくては!」と思っているうちに、それがかえってパートナー同士の努力につながって離婚するカップルが少なくなったということなんですね。
先を見越して(もしもの離婚で不利にならないために)お互いに努力し合うことを「本当に好き」といえるかどうかわかりませんが(笑)、愛を継続するためには、あえて不安定な関係を意識することも、効果的なのかもしれませんね。
マクロエコノミスト。Good News and Companies代表。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。化粧品会社エイボン・プロダクツ社外取締役。1983年生まれ。神戸大学経済学部、一橋大学大学院(ICS)卒業。大和証券SMBC金融証券研究所(現:大和証券)では株式アナリストとして活動し、最年少女性アナリストとして株式解説者に抜てきされる。2012年に独立。経済学を軸にニュース・資本市場解説をメディアや大学等で行う。若年層の経済・金融リテラシー向上をミッションに掲げる。
[nikkei WOMAN Online 2016年9月14日付記事を再構成]
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