ボルボV40 マイナーチェンジで70万円値上げの真相
ボルボ・カー・ジャパンがマイナーチェンジして投入したコンパクトクラスの「V40シリーズ」は、2013年時点では税込み269万円だったエントリーモデルが、現在は税込み339万円と70万円もアップしている。デビュー時が戦略的価格だったとはいえ、ちょっとした高級車になってしまった印象だが、その理由は何だろうか。また、今後の売れ行きに影響はあるのだろうか。
マイナーチェンジ後の価格は「V40」が税込み339万~455万円。クロスオーバーモデルの「V40 クロスカントリー」が税込み354万~459万円になった。2013年に日本で発売された現行型V40シリーズは、クリーンディーゼルの導入などこれまでにも何度か改良されているが、マイナーチェンジをうたうのは今回が初めてのことだ。
デザインは現行維持、性能をアップ
V40シリーズは現行のエクステリアデザインの評判が良いため、今回のマイナーチェンジでは新型「XC90」で採用したT字モチーフを取り入れたLEDヘッドライトと、新デザインのアルミホイール、グレード別の新フロントグリルなど、変更は一部にとどまっている。インテリアも同様で、シートに新デザインのクロスとレザーを取り入れた程度。
安全面では「歩行者エアバッグ」を全車に標準化したことが大きい。2014年には歩行者やサイクリストまで検知可能な自動ブレーキを含む10の先進安全機能を全車に標準装備しており、今回の改良でさらに安全性を高めた形だ。
パワートレインは、ボルボの最新ユニットであるDrive-Eを搭載。ガソリン車は152ps/250Nmを発揮する1.5L直列4気筒ターボ「T3」、245ps/350Nmを発揮する2.0L直列4気筒ターボ「T5」、そしてクリーンディーゼル車は190ps/400Nmを発揮する2.0L直列4気筒ターボ「D4」を搭載する。トランスミッションはT3は6速AT、D4とT5は8速ATを組み合わせる。
グレード構成は改められ、V40が7グレード、V40クロスカントリーが6グレードまで拡大した。
女性受けするやわらかさと温かみ
今回、ガソリンモデルの中間グレード、T3 モメンタムに試乗した。
T3は、昨年夏より導入が開始されたばかりの新エントリークラス向けの新エンジンを搭載しているモデルだ。エンジンスペックはさほど高くないが、軽やかなエンジンフィールを持つ。性能は十分で、カーブの多い道でもスポーティーな走りが楽しめる。また初期型と比べ足回りがソフトになったこともあり、快適性が向上、乗り心地が良くなった。
新たに採用された新デザインのテキスタイルシートは、シンプルでスタイリッシュなスカンジナビアンデザインが好印象。直線的でスポーティーなエクステリアと機能性重視のスッキリしたインテリアを持つドイツ車に比べると、やわらかさと温かみがあり女性受けも良さそうだ。
70万円アップがどう評価されるか?
ボルボはV40を"ショートワゴン"と呼ぶ。その呼び名のように、長すぎないサイズ感の5ドアハッチバックは、日本の都市部での使い勝手が良い。また11種類の先進安全装備やLEDヘッドライトは全車に標準装備しており、モメンタム以上のグレードならHDDナビゲーションシステムも付く。
ただこうした装備を充実させた結果、価格は大幅に上がってしまった。同クラスのフォルクスワーゲン「ゴルフ」は249万9000円から、メルセデス・ベンツ「Aクラス」だと329万円からと考えると、339万円スタートのV40は"ちょっと良いコンパクト"を狙った価格設定なのかもしれない。
V40シリーズはファッションモデルのアン・ミカがプロデュースする「アン・ミカ セレクション」や、ファッションモデル五明祐子プロデュースの「ゴミョウユウコ セレクション」など、女性向けの日本専用限定車も投入するという独自戦略も立てている。つまりボルボ最大のセールスポイントといえる安全性だけでなく、北欧スタイルのデザインをうまくアピールできている点が功を奏し、デビューから2016年6月末までに2万6794台を販売。日本におけるボルボの最量販車種となり、ブランドを支えている存在だ。その数は、優に全体の50%を超えている。
だからこそ、安全装備のさらなる充実とデザインを付加価値として提示することで、価格を上げても好調を維持できるという自信があるのではないか。またクリーンディーゼル車人気という後押しもある。一時期よりは落ち着いてきた感はあるものの、それでも販売数の約半分はクリーンディーゼルだ。
安全性、新世代ダウンサイズユニットなどの新技術の積極的投入に加え、日本でも人気の北欧スタイルを備えたボルボ。大きすぎないサイズのボディーに北欧デザインをまとった"ちょっと良いコンパクト"がこのまま好調を続けられるのか。今後、新世代デザインの最上級セダン「S90」などの投入も控えており、プレミアムブランドとして、日本市場でさらなる躍進を遂げるか気になるところだ。
(文・写真 大音安弘)
[日経トレンディネット 2016年9月12日付の記事を再構成]
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