仕事ができる人の「先読み力」はカフェで身につく!
なぜ、言葉ひとつで売り上げが変わるのか?
以前はカフェなどの待ち時間に仕事を進めるとき、携帯音楽プレーヤーで耳をふさいで集中力を維持するようにしていました。でも最近は、耳をふさがず、周囲の会話や店員さんの言動に耳を傾けることも増えてきました。その理由は、周囲の会話は「伝え方」を学ぶ格好の場だからです。
先日も、とあるカフェで本を読んでいたときに面白い気付きがありました。レジの近くの席にいたのですが、店長のお客様への声かけと、アルバイトさんの声かけが明らかに違っていました。
店長の声かけは、「売れる」声かけ、アルバイトさんの声かけは、普通の声かけだったのです。
アルバイトさん 「水出しのものと××アイスコーヒーのどちらになさいますか」
店長の声かけでは、ほぼ100%のお客様が期間限定コーヒー(通常よりも高い)を頼みます。それはもう、面白いくらいに。
しかし、アルバイトさんの声かけでは、違いもよくわからないし、「通常の水出し」のほうが安いし、水出しというだけでも特別感があるので「通常の水出し」を頼む率が高かったのです。余計なお世話ですが、店長のトークをアルバイトさんにも徹底させたら、もっと売り上げがあがるのに! と残念に思いました。
このように、言葉のちょっとした違いが結果に表れることを考えると、改めて、伝えるって難しいし面白いな、と感じました。
発する言葉でどこを見ているのかが分かってしまう
言葉の違いは、目線の違いでもあります。先ほどの例でいうと、店長の目線は、売り上げを上げることです。一方、アルバイトさんの目線は、仕事を滞りなく終わらせることです。つまり、ゴールをどこに設定するかで、言葉も変わるし、意識も変わってしまうのです。
他のカフェでは、このような出来事もありました。ホットコーヒーを注文したところ、私の目当ての種類が切れていたようで、店員さんが
「10分ほどお待ちいただければ、いれたてのものをご用意できますが、いかがでしょうか」
と聞いてくれました。普段このようなパターンだと、「申し訳ございません。ただいま切らしています。他のコーヒーでしたらすぐお出しできるのですが」と言われることが多かったので、新鮮でした。しかも「いれたて」を私のために用意してくれる、という特別感が味わえて、朝からなんだかうれしくなりました。
とはいえ、急いでいる人が多いカフェだとしたら、後者の「すぐ出せる」がお客様にとっての価値かもしれません。お店のコンセプトや店の状況によって価値は変化します。このカフェは店内を「第三の場」としてゆっくり過ごしてもらうのがコンセプトです。ですから、店員さんの「10分待って、いれたてを楽しんでもらいたい」という言葉が、心に響くのです。
彼女はお店のコンセプトをしっかり自分のものにして、お客様のこともきちんと見ているんだな、と感じ、ますますそのカフェが好きになりました。
見えやすいゴールのさらに先を見ているか?
私は講師として人前に立つことも多いのですが、講師の仕事も一緒だと考えています。私の話を聞いて、参加の皆さんに満足していただくことは、第一のゴールですが、さらに先を見ないといけません。
さらに先とは、私を呼んでくださった主催者の方が、どのような結果を意図して私を呼んだかを考え、私を呼んだことでその結果を達成できるように意識することです。
このように考えるに至ったきっかけは、講師として活躍する大先輩に教わった「QCは次工程」という言葉でした。
QCとは、1990年代メーカーで大流行だった品質管理活動のことです。
講師の立場でQCを置き換えると、
・自らの話で参加者が満足する
そこまでは仕事として当然のこととして全うし、その先まで見るということです。「その先」は例えば次のようになります。
・行動に数値目標を掲げ
・(可能なら)依頼元の社員の皆さんと一緒にフィードバックミーティングを行い、改善を続ける
先輩を見習い、上記を意識するようになってからというもの、発する言葉も変わった気がします。まだまだ精進中ではありますが、講演を聴いてくれた方の満足度が上がったのと同時に、リピートの講演依頼、取材依頼が格段に増えました。
目線が変わると、質問も変わる
講演の仕事をしていない人でも、何か依頼をされたときは、その依頼によって相手はどういう未来を期待しているかを立ち止まって考えてから仕事をすると、一歩先、二歩先を見た提案や質問ができるようになります。
例えば、あなたが企業の広報担当で、当面の仕事は来年の新卒採用のための会社案内パンフレットを作ることだとしましょう。ある日の朝、上司から突然「今日○時から開催の新卒採用セミナーにあなたも出て、セミナーの写真を撮っておいて」と言われたとき、「はいわかりました」と答えて自分なりの工夫で写真を撮る前に、「その写真は何に使うものですか?」と質問ができるか、できないかは、先を見ているか見ていないかの分かれ道です。
なぜなら、上司の最初の依頼だけでは、上司が期待する写真がどんなものなのかが分からないからです。
・セミナー自体に人がたくさん入っていて、盛況である様子が欲しいのか
・はたまた、単なる社内の議事録として開催したことが分かるもので良いのか
など、「写真を撮っておいて」だけでは、後工程で何をするかの細かい状況が分からないので、指示をもらった時点で確認する必要があるのです。
また、パンフレットに使う写真とホームページに載せる写真では、求められる解像度も違ってきます。こうした細かい状況を確認せずにあなたの思い込みで指示を受けてしまうと、何か間違えたときにリカバーするために余計な時間がかかるし、上司の意図からずれた仕事をした、ということであなたの評価も下がってしまいます。ちょっとしたコミュニケーションの行き違いで評価が下がってしまうのはもったいないことですよね。
カフェを使ってみることからはじめよう
このように、表面的な言葉だけを受け取って思い込みで仕事をするのではなく、依頼されたことの意図を確認し、分からない場合は質問してすりあわせるトレーニングを続けていくと、日々発する言葉も変わってきます。
毎日仕事でこれを意識しようと思うと、最初は肩に力が入りすぎて疲れてしまうかもしれません。でも、例えば冒頭で私が述べたように、人間観察の場としてカフェを使ってみることなら、今日からでも始められます。カフェで周囲の会話に耳をそばだて、それぞれの会話の意図を想像してみましょう。きっと新たな発見がありますよ。
株式会社 朝6時 代表取締役。慶應義塾大学総合政策学部卒業。外食企業、外資系戦略コンサルティング会社を経て現職。企業や官公庁、個人に向け、図を活用したプレゼンテーション資料作成術、企画書作成術や会議進行術など、「伝わる」コミュニケーション全般について指南。女性のキャリア形成、ダイバーシティーなどをテーマに講演、著述活動も行う。『絶対! 伝わる図解』(朝日新聞出版)、『描いて共有! チーム・プレゼン会議術』(日経BP社)などプレゼン・図解に関する著書多数。
[nikkei WOMAN Online 2016年9月2日付記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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