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ビジネス街の書店をめぐりながらその時々のその街の売れ筋本をウオッチしていくシリーズ。今回は定点観測している八重洲ブックセンター本店を訪れた。前回の訪問はお盆過ぎの頃。力強い新刊が乏しく、何とかロングセラーの販売でしのいでいた。今回はうって変わって新刊が次々とベストセラー上位に顔を出す展開になっているという。中でも米国の心理学者が書いた『やり抜く力』という本がロケットスタートといえるほどの初速で、ビジネス書売り場全体に活気が広がっている。

人生の成功を決める「究極の能力」とは

アンジェラ・ダックワース『やり抜く力』(神崎朗子訳、ダイヤモンド社)は、米陸軍士官学校(ウエストポイント)に入学を許されたエリート中のエリートに関する印象的なエピソードから始まる。彼ら士官候補生の5人に1人は卒業を待たずに中退してしまう。それも中退者の大半は、入学直後に行われる7週間の厳しい基礎訓練に耐え切れずに辞めてしまうというのだ。

何が中退者と耐え抜く人をわけるのか。その研究に心理学者が動員されるが、長らくその理由を確実に突き止めたものはいなかった。試験や高校での成績、リーダーとしての資質などを加味した総合評価スコアとは関連性が見いだせなかったのだ。著者はその研究を進めるうち、それが「やり抜く力」だと気づく。さらにこれを測る測定テストをつくり上げ、ウエストポイントで実施、そこに関連性があることを証明した。

この「やり抜く力」のことを英語では「grit(グリット)」という。成功へのカギを握るのは「才能」よりもこの「グリット」だということを、ダックワース教授は長年の研究から明らかにした。近年米国で大きく注目されているこの概念に「やり抜く力」という力強い訳語を与え、これをずばりタイトルにしたことで本書は一気にトップスピードでベストセラー街道を走り始めた。

原書刊行4カ月で翻訳出版

ダックワース教授が長年の研究成果を本書にまとめて米国で刊行したのが5月。わずか4カ月後という素早いタイミングでの翻訳刊行、370ページの本格的な研究書なのに軽装で手に取りやすい判型で出したことも功を奏した。もちろん中身の充実ぶりが売れる一番の理由には違いない。なにしろ10個の質問に答えて「やり抜く力」を測定するグリット・スケールも掲載され、「やり抜く力」を自ら伸ばす方法、さらに外側から伸ばす方法まで、たっぷりと書かれている。成長志向のビジネスパーソンならどうしても読みたくなるところだ。「息の長いベストセラーになりそうな予感がある」と、ビジネス書売り場を束ねる同店2階フロア長の木内恒人さんは言い切る。

若手のビジネスパーソン向きの本が上位に

先週のベスト5は下表の通りだ。

(1)デジタルトランスフォーメーションベイカレント・コンサルティング著(日経BP社)
(2)21世紀を豊かにするための資本主義学石毛宏著(きんざい)
(3)やり抜く力アンジェラ・ダックワース著(ダイヤモンド社)
(4)キリンビール高知支店の奇跡田村潤著(講談社)
(5)「言葉にできる」は武器になる。梅田悟司著(日本経済新聞出版社)

(八重洲ブックセンター本店、2016年9月11日~9月17日)

『やり抜く力』は3位だが、1、2位ともに著者や版元関係のまとめ買いによるランクイン。事実上トップの売れ行きだ。しかも8月のベストセラーとは一段違う販売数なのだという。4位にはロングセラーになっている営業のV字回復物語が先月に引き続いて入った。5位は前回のリブロ汐留店で紹介した1冊。コピーライターによる思考の深め方を書いた本で、汐留らしいベストセラーと評したが、「予想外に初速がよかったので、追加注文して1階にも並べたところさらに伸びている」(木内さん)と、企画系の仕事に携わる人以外にも広がりを見せている様子だ。

ベスト5には入っていないが、7位に堀江貴文『ウシジマくんvs.ホリエモン 人生はカネじゃない!』(小学館)が顔を出す。「うちの店にしては若い客層向きの本が売れている。『やり抜く力』の波及効果かもしれない」と木内さんは秋のビジネス書商戦に手応えを感じている。

(水柿武志)

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