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他者を勇気づけられる人と、他者の勇気をくじく人

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日経DUAL

皆さん、こんにちは。子育て支援の代表取締役、熊野英一です。今回は他者を「勇気づける」ことの素晴らしさについて、私の著作『アドラー 子育て・親育てシリーズ 第1巻 育自の教科書 ~父母が学べば、子どもは伸びる~』(アルテ刊)で触れている内容を参考にしながら考察を進めていきます。

「ほめ」はヒトを依存的にさせ、「勇気づけ」はヒトを自立的にさせる

アドラー心理学ではほめるよりも勇気づけるコミュニケーションのほうが相手の自立を促すのに有効です。ここで、「ほめ」と「勇気づけ」を対比しておきましょう。

この表にあるように、「ほめ」は常に上から目線のタテの関係を前提に、評価的な態度で接するために相手を依存的にさせる作用があります。これに対して「勇気づけ」は、常にヨコの関係を前提に、共感的な態度で接することで相手が自立的になる効果をもたらすことが知られています。

この議論を進めるために、ここで「勇気づけ/勇気くじき」の定義を明示しておきましょう。

勇気づけ: 困難を克服する活力を与えること

勇気くじき: 困難を克服する活力を奪うこと

勇気づけの具体的なテクニックとしては、以下が挙げられます。

(1)感謝を表明すること

(2)ヨイ出しをすること

(3)共感ファーストで、聴き上手に徹すること

(4)相手の進捗、成長を認めること

(5)失敗を許容すること

ダメ出し名人の故・蜷川さんを慕う俳優が多いのはなぜか

2016年の5月12日に亡くなった、希代の名演出家、故・蜷川幸雄さん(享年80歳)の指導方法を例に、勇気づけと勇気くじきを考察してみます。ここからは、私のアドラー心理学の師匠であり、拙著『アドラー 子育て・親育てシリーズ第1巻 育自の教科書 ~父母が学べば、子どもは伸びる~』でも【推薦の辞】を寄稿してくださっている、ヒューマン・ギルド代表の岩井俊憲先生がブログ(アドラー心理学による勇気づけ一筋30年 「勇気の伝道師」ヒューマン・ギルド岩井俊憲の公式ブログ)で16回にわたり解説した内容を、先生の許可を得たうえで、若干の私見を加味しつつ、要約してご紹介したいと思います。

勇気づけのテクニックの一つに、「ヨイ出し」が挙げられます。

ヨイ出し: 長所・持ち味・強みに焦点を当てた対応をすること

ダメ出し: 短所・欠陥・弱みに焦点を当てた対応をすること

蜷川さんといえば、稽古中に灰皿を俳優に投げつける、というようなエピソードを思い出す方も多いでしょう。まな弟子の一人、女優・寺島しのぶさんの回想です。

 俳優を「バカ!」「マヌケ!」と激しく怒鳴りまくる、灰皿を投げつける――。稽古場での厳しい演出指導は有名で、19歳の時にその"洗礼"を浴びた寺島しのぶはかつて本紙のインタビューで「もうスリッパは飛んでくるわ、イスは飛んでくるわ、目の前で胃薬をボリボリ食べられ、"久しぶりだよ、女優の前でこんなに胃薬食うのは"とも言われました」「稽古中は"公開SM"のようでした」と語っていたこともあるほど。(2016年5月13日付 日刊ゲンダイ)

アドラー心理学が提唱している勇気づけのテクニックのひとつである「ヨイ出し」とは真逆の「ダメ出し」のオンパレード、ですね。素直に考えれば、まず間違いなく寺島さんの勇気はくじかれたことだろうと推察できます。ところが、寺島さんの回想はこのように続きます。

 しかし、その激しい演出の裏には舞台と役者に対する深い愛情があり、寺島が「感謝しかないです。思いっきり本音が言い合える人がまたいなくなってしまった。でも頂いた言葉は私の細胞に植え込んであります。書いている間も涙で字が見えません」と偲んでいるのが印象深い。(日刊 ゲンダイ2016年5月13日付日刊ゲンダイ)

どうやら、「ダメ出し」=必ず相手の「勇気をくじく」というわけでもなさそうですね。ということは、「ヨイ出し」=必ず相手を「勇気づける」ということでもないのでしょうか。

勇気づけのコミュニケーションが成立するには、どのような要件が必要なのでしょう。蜷川さんと、彼を慕って一流俳優に成長していった方々との関係性を参考にしながら考えてみましょう。

勇気づけコミュニケーションが成立する4つの要件

発信者から受信者へのコミュニケーションが「勇気づけ」となるか「勇気くじき」となるかは、

(1)発信者のヒトとしての「ありかた」

(2)受信者の心理的な発達レベル(自立度合い)

(3)発信者・受信者間の相互尊敬・相互信頼の関係性

(4)言語的・非言語的な記号(コミュニケーション)

という4つの要件によって大きく影響を受けます。これは、私自身もアドラー心理学を学び始めた初期に受講した岩井先生が講師を務める「アドラー心理学ベーシック・コース」で学んだものです。

(1)発信者のヒトとしての「ありかた」

蜷川さんが、演劇を愛し、才能あふれる人材を愛し、そうした人材を一流に育成することに並々ならぬ情熱を傾けたであろうことは想像に難くありません。発信者が「何を言うか」はもちろん大切なのですが、発信者が「誰なのか」がそもそも重要で、そのとき、発信者のヒトとしての「ありかた」が問われる、ということなのでしょう。

蜷川さんの取材記事などをたどっていくと、どうやら幼少期のころから自己破壊衝動、自己処罰に対する興奮、いわゆる自分に対する「マゾヒズム」を保持していたようです。そしてこの性向が他者に対する「サディズム」に転換した結果が、あのような指導法となったのです。さらに、名門開成高校から東京藝術大学を受験するも失敗、浪人せずに役者の道に入るものの役者としては成功しなかったという自身のキャリアに対+する劣等感が、氏の自分に対する「マゾヒズム」、他者に対する「サディズム」を強化したと捉えることができそうです。

このような蜷川さん本人のライフスタイル(思考のクセ・行動のパターン)をベースに、演劇や俳優育成に対する強烈な情熱が、氏の「ありかた」を揺るぎないものにしたのでしょう。

(2)受信者の心理的な発達レベル(自立度合い)

どんなに教科書通り勇気づけの「テクニック」を駆使したとしても、受信者がそれを皮肉に受け取ったり、プレッシャーに感じたりしたら、それは勇気づけにはなりません。ましてや、蜷川さんのように「ダメ出し」を使った、「変則的な勇気づけ(?)」の場合であれば、なおのこと受信者側の受け取る準備、すなわち、心理的な発達レベルが問われることになります。

つまり、蜷川さんの「ダメ出し」で勇気がくじかれることがなく、むしろ、それをバネに一流の役者に成長できた人達にとっては「あの、蜷川さんが自分のためにこんなに真剣に指導をしてくれているのか!」と、その「ダメ出し」を好意的に取ったと想像されます。逆に、蜷川さんの「ダメ出し」をそのままストレートに受け止め、パワハラまがいの人格否定と捉えて役者の道を断念した人も、恐らく多くいたのではないかと想像できます。

他者からの評価がどうであれ、成長する熱意にあふれ、強い自我を保持できているような心理状態にあれば、蜷川さんの「ダメ出し」にむしろ「勇気づけられ」て、厳しい役者の世界で成功をつかみ取るための「困難を克服する活力」を得ることができたのでしょう。

(3)発信者・受信者間の相互尊敬・相互信頼の関係性

発信者と受信者の間に「相互尊敬・相互信頼」の関係性が成立していれば、発信者から「ダメ出し」をされても、それをストレートに勇気くじきとは捉えずに、むしろ勇気づけと受け止めることができる場合がありえます。

蜷川さんのまな弟子として知られる、俳優の藤原竜也さんの弔辞を引用します。

 『俺のダメ出しで、おまえに伝えたいことは、ほぼ言った。今はすべて分かろうとしなくてもいい。いずれ理解できるときが来るから。そしたら、少しは楽になるから。アジアの、小さな、島国の、ちっちゃい俳優になるな。もっと苦しめ、泥水に顔を突っ込んで、もがいて、苦しんで、本当にどうしようもなくなったときに手を挙げろ。その手を必ず俺が引っ張ってやるから』と。

 蜷川さん、そう言っていましたよ。

蜷川さんは、演劇経験ゼロ、14歳の藤原少年を海外公演の主役に大抜てきしました。弔辞で藤原さんが紹介した上記のエピソードは、藤原さんが日本演劇史上最年少21歳でタイトル・ロールを演じた舞台『ハムレット』の稽古中の録音テープに残っていた言葉だそうです。

演劇界の重鎮が、年齢差や役割・立場の上下を超えて、俳優を目指す若手に対して「必ずやその困難を乗り越えて大成する可能性がある」と、根拠を求めずに無条件の信頼を示している、真剣勝負のやり取りが想像できます。なかなか一般化できるシチュエーションではないかもしれませんが、ここには相互尊敬・相互信頼の関係性が確実にあると言えるのではないでしょうか。

(4)言語的・非言語的な記号(コミュニケーション)

岩井俊憲先生は、蜷川さんの指導方法に関する、16回にわたるブログ連載の結論を、次のようにまとめていらっしゃいます。

発信者である蜷川幸雄がダメ出し、人格否定の言葉を使おうと、灰皿や椅子を投げることがあったとしても、プロ意識を強く持ち内発的動機づけ能力が強い受信者が、蜷川との間に相互尊敬・相互信頼の関係でつながっている限りは、長期的には「勇気づけ」と受け止め、その結果、素晴らしい舞台人を育て素晴らしい作品を世に送ることが出来ることがある。

ただし、があります。

だからと言って、誰かが蜷川のように振る舞ったり、ダメ出し、人格否定の言葉を使ったりする対応を、プロ意識もなく、内発的動機づけのモチベーションが低い人を対象に、操作的にかかわりを持つと、とんでもない勇気くじきとして作用することを心しておかなければなりません。

勇気づけには「技術/テクニック」の前に、求められる「態度」があります。

勇気づけに関して大切なことは、いきなり技術/テクニックを実践することではなく、まず態度を身に付けることです。技術偏重になると、相手を操作する感が出てむしろ相手の勇気をくじくことすらあるということです。

図表にある「勇気づけ」を下支えする前提としての態度のうち、相互尊敬と相互信頼についてはこれらを切り出して(3)で議論しました。こうした相互の関係を踏まえて、相手のありのままを認めようとする共感的な態度と、相手を上から目線ではなく対等な目線で援助しようとする協調精神を発揮することで、発信者の言語的・非言語的な記号(コミュニケーション)は、受信者を勇気づけるものになるのでしょう。

あなたは他者を「勇気づけ」できるか

あなたが他者を勇気づけられる人を目指すなら、まずもって、自分が勇気づけられた状態になっていることが必要です。そのためには、アドラー心理学の幸せの3条件「(1)自己受容(2)他者信頼(3)他者貢献」のサイクルをぐるぐると回せている状態を確保することが必要です。これは、言い換えるならば、精神的な自立を確保している状態ということです。

蜷川さんは、自身のある種特異なライフスタイルをよく認識し、とても変則的ではあったかもしれませんが、「蜷川さんらしい」言語的・非言語的なコミュニケーション・スタイルを確立しました。私達は、蜷川さんのスタイルをまねする必要はないと思いますが、自分のライフスタイルをよく知り、自分らしいコミュニケーション・スタイルの「型」をつくりあげる点については参考になるかもしれません。

他者と相互尊敬・相互信頼の関係性を築ける人になるためには、常に自分を見つめ直し、自分を整える不断の努力が必要なのではないかと感じます。そうした努力の過程が、家庭内では子どもやパートナーに、職場では上司・部下・同僚・お客様に、自然に伝わっていくときに、お互いを勇気づけし合うような共同体が広がっていくのではないかと考えています。

受信者の自立の度合い、精神的・心理的な発達レベルを見定めながら、自分のコミュニケーション・スタイルの「型」を一定の範囲内で柔軟に変えることができるようになれば、勇気づけコミュニケーションの上級者ですね。一足飛びにそのようなレベルに到達することは簡単ではないでしょうが、ご家庭でも職場でも、意識をし続けることで少しずつ改善していくと信じています。

<参考文献>

・アドラー 子育て・親育てシリーズ 第1巻 育自の教科書 ~父母が学べば、子どもは伸びる~(熊野英一/アルテ)

・アドラー心理学教科書 -現代アドラー心理学の理論と技法- (監修 野田俊作、編集 現代アドラー心理学研究会/ヒューマン・ギルド出版部)

・7日間で身につける!アドラー心理学ワークブック(岩井俊憲/宝島社)

・ELM 勇気づけ勉強会 リーダーズ・マニュアル(ヒューマン・ギルド)

・アドラー心理学による勇気づけ一筋30年 「勇気の伝道師」ヒューマン・ギルド岩井俊憲の公式ブログ 

熊野英一
 早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。メルセデス・ベンツ日本に勤務後、米Indiana University Kelley School of Businessに留学(MBA/経営学修士)。イーライ・リリー米本社及び日本法人を経て、保育サービスのコティに入社。約60の保育施設立ち上げ・運営、ベビーシッター事業に従事。2007年、子育て支援を創業。2012年、日本初の本格的ペアレンティング・サロン「bon voyage 有栖川」をオープンし、自らも講師として<ほめない・叱らない!アドラー式の勇気づけ子育て>を広めている。2016年4月に初の著書「アドラー 子育て・親育てシリーズ 第1巻 育自の教科書 ~父母が学べば、子どもは伸びる~(熊野英一/アルテ)」を発刊。日本アドラー心理学会正会員。

[日経DUAL 2016年8月19日付記事を再構成]

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