TV『家、ついて行ってイイですか?』日常をのぞき見
市井の人生ドラマ、次代に
駅で終電を逃した人に番組スタッフが声をかけ、タクシー代を出す代わりに家までついて行ってもいいかを交渉するバラエティー「家、ついて行ってイイですか?」。承諾を得られれば、朝までの数時間、密着取材となる。深夜に突然訪れる部屋は、人が来ることを前提にしていない。ありのままの生活感にあふれていて、その人の日常をのぞき見るような緊張感がある。
一般の人を主役にするバラエティーを得意とするテレビ東京が制作している。2014年の1月に、深夜枠で1カ月放送して好評だったため、15年10月にレギュラー化。今年4月からはゴールデンタイムに昇格した。プロデューサーの高橋弘樹氏は、自身の経験がこの番組誕生のきっかけになったと話す。「友人の家に夜中に行ったら、すっぴんの奥さんが出てきたんです。その時にすごい衝撃を受けて。いきなり人の家を訪ねると、普段は隠れている素の部分が見られるんだなと」。この出来事をヒントに、ドッキリの要素を含み、ドキュメンタリーのようにも見せられるバラエティーが作れるのではと考えた。
企画が通り、実際に取材を始めて気付いたのは、想像以上に、人それぞれの人生が家に表れるということ。独身アラサー男性が住む家賃3万円のゴミ屋敷、妻が出て行ったばかりのもぬけの殻の家、就職活動で夢破れた女子大生の部屋など、毎回ドラマがある。「印象的なエピソードを持つ人も中にはいるだろうとは思ってましたが、それ以上でした。最初は、片付けていない乱雑な部屋が見られたら面白いだろう、ぐらいの軽いノリでしたが、部屋が汚い理由もそれなりにあるし、ご夫婦の家だったら、2人が育んできた軌跡がそこかしこにある。だから、部屋にある物からその人が歩んできた人生をひもとくような描き方をしようと、方向性が決まりました」
ディレクターには取材対象者の魅力を引き出すために、「まずはその人の味方になってください」と伝えている。離婚経験者だったら常識的に考えて「身勝手だな」と思えても、「思い切った決断と苦悩があったんだ」と寄り添う形でインタビューをしているという。
苦労しているのは、やはり取材させてくれる人を見つけること。40~50人のディレクターが動いており、1班につき1週間に1~2回稼働して、1カ月にのべ300班程度がロケに出ている。レギュラー放送から10カ月近くたち、番組の認知度も上がっているため、声をかけたときの反応は良いそうだが、「ついて行ける確率は変わらないです。"あの番組だ"と喜んでくれる割には、仲間同士で押し付け合ったりして(笑)、断られることがほとんどです」。
夜中の取材となるため、声をかけた人が酔っぱらっていることも多い。後日連絡した際に「やっぱり放送するのをやめてほしい」というケースがたびたびあるが、一般の人を相手にしている以上は仕方のないこと。また、本人は放送を希望していても、周囲への影響やその人に不利益が生じないかを熟考して、オンエアを見送る場合もあるそうだ。
MCはビビる大木とおぎやはぎの矢作兼。"予定不調和"な面白さを出すため、VTRを見てトークをするのも、声をかけて許可を得た一般の人の家だ。「収録中でも気にせず、"夕飯の準備しなきゃ"と料理に立ったり、自由すぎて新鮮です(笑)」
偉人ではなく、市井の人たちのリアルな人生観を次の時代に伝えるために、「平成の時代が続く限り、放送を続けたいです」。
(「日経エンタテインメント!」9月号の記事を再構成。敬称略、文・内藤悦子)
[日経MJ2016年9月16日付]
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