平均以下はそんなに嫌? 嫉妬に翻弄されず幸せになる
嫉妬――この感情は非常に厄介です。ビジネスの現場で、この感情が足を引っ張って判断を狂わせることもあります。広辞林で「嫉妬」の意味を見てみると、「他人が自分よりすぐれている状態をうらやましく思って憎むこと」と出てきました。他人を妬む暇があるなら自己研さんに集中したいところですが、なかなか振りきれないのが現実。今回は、人はどんなときに妬むという感情を持つのか、また、この感情をどう対処するのがいいのかをデータから読み解きます。
なぜ、経営者たちは嫉妬をマネジメントしたいのか
最近、ある本が目につきました。山内昌之氏が書いた『嫉妬の世界史』(新潮新書)です。スターリン、毛沢東、徳川慶喜など……歴史上の人物が、生前、嫉妬されたことによってその人生にどう影響が出たのか、平易な言葉で記されています。権力闘争の中で、彼らが巧みに嫉妬マネジメントを行ってきたのも伺えます。
この嫉妬をマネジメントする能力は、今の社会でも重要なようです。私は、仕事でよく大手企業の経営者と話す機会がありますが、部下や社員の嫉妬という感情をどうコントロールするかを課題にしている経営者が少なくないのに驚かされます。
人はどんなときに嫉妬という感情が生まれやすくなるのでしょうか? これについては、経済学の世界でも数多くの研究論文が出されています。
他者と比べ始めると満足度は下がり、その結果……
嫉妬という感情は、他者という存在があり、そして比較することで生まれます。つまり、この世に自分1人しか存在しなければ、抱かない感情なのです。これに着目した研究論文があります。
David Card, Alexandre Mas, Enrico Moretti, and Emmanuel Saez
NBER Working Paper No. 16396 September 2010, Revised April 2011 JEL No. J0
研究では、米国カリフォルニア大学でランダムに選ばれた職員に、職員の給与リストが公開されている特定のサイトについて知らせました。同僚の給与も確認できるそのサイトを見た職員にその後様々な質問を行い、満足度がどのように変化したかを分析、どんな行動をとったかについても追跡しています。
その結果、平均給与水準を知った職員は、そうでない職員に比べて満足度が低下したことが報告されています。さらに、サイトで自分の賃金が平均給与水準を下回っていることを知った職員は、そうでない職員と比較して、40%(!)も高い割合で転職していたのです。
ここから示唆されるのは、自分が平均以上かどうかということに感情が左右される可能性があることです。
「平均以下」になるのは嫌?
他者と比較することで、妬みや複雑な感情を抱くのはもちろんですが、この「平均以下か、平均以上か」という目安も、嫉妬という感情を作るきっかけになっているようなのです。
例えば…
(1)平均年収2000万円の人の中で、自分の年収が1000万円の場合
(2)平均年収600万円の人の中で、自分の年収が800万円の場合
どちらが複雑な感情を抱きやすいでしょうか?
(1)と答える人は少なくないでしょう。嫉妬は他人との関係だけでなく、どういった環境に置かれているかによって影響を受けるのです。
嫉妬に翻弄されずに生きていくためには?
「嫉妬なんて、感じることなく生きたい!」――そう思う読者のほうがきっと多いでしょう。そこで、私は嫉妬心に翻弄されない方法を考えました。
嫉妬という感情によるマイナスの影響を受けないようにするには、他者と比較しようがない人になるのが一番です。
例えば、私の場合、エコノミストとして広く経済を分析している人はたくさんいますし、同じようなことをやっているとすぐに比較され、優劣をつけられてしまうこともあります。すると、自分のモチベーションが下がってしまうのです。そこで私は、自分にしかできないエッセンスを加えることを意識し、いかに他者の比較対象にならないかを念頭に置くようにしています。他者からも「比較しようがない」と思われれば、優劣をつけられることもありません。感情が下手に動かされることもなく、私の心は平和でいられます(笑)。この3月まで大学院に行き、専門性を高めるために修業に出ていたのも、そのためなのです。
とはいえ、私はまだまだ成長中の身ですが……他者の比較対象にされない、自分にしかできない仕事とは何かを、読者のみなさんと一緒に考えていきたいと思っています。
マクロエコノミスト。Good News and Companies代表。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。化粧品会社エイボン・プロダクツ社外取締役。1983年生まれ。神戸大学経済学部、一橋大学大学院(ICS)卒業。大和証券SMBC金融証券研究所(現:大和証券)では株式アナリストとして活動し、最年少女性アナリストとして株式解説者に抜擢される。2012年に独立。経済学を軸にニュース・資本市場解説をメディアや大学等で行う。若年層の経済・金融リテラシー向上をミッションに掲げる。
[nikkei WOMAN Online 2016年8月10日付記事を再構成]
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