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基幹社員なら転居転勤は当たり前?

日経BPヒット総研所長 麓幸子

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NIKKEI STYLE

エンターテインメント、トレンド、健康・美容、消費、女性と働き方をテーマに、ヒット案内人が世相を斬るコラム「ヒットのひみつ」。今回のテーマは、女性社員の転居転勤問題。これまで総合職は転居転勤ありが前提という会社が多かったが、その前提は変わりつつある。一方で、女性社員でも転勤をきっかけに伸びるケースがある。

「ウチは辞令があればどこにでも異動するという総合職一本。女性活躍を進めたいが、転居を伴う転勤をどうすればいいか悩む」とは多くの人事担当者や女性活躍推進担当者から聞く言葉だ。民間企業でも官公庁でもそれは変わらない。かたや女性たちからも、「独身のときはどこにでも異動できたとしても結婚して子どもを持ったら難しい。いずれ転勤になるかもと思うと不安だ」との声を聞く。今回は、女性活躍推進においてネックになると思われる「転居転勤」について考えてみたい。

基幹社員は、時間や場所の制約なくいつでもどこでも働ける。または働くことが当然である。この前提をもとに日本の企業は従業員を配置してきた。しかし、それは、自宅に家事・育児・介護を引き受けてくれる専業主婦という存在がいたからできた働き方だ。女性が活躍するためには、その前提を修正しなければいけないだろう。

転居政策の現状と課題を研究する法政大学教授の武石恵美子氏は、「多様性(ダイバーシティー)推進において転勤政策のあり方が阻害要因のひとつとなると考えられるが、これまで転勤に関する実態が十分に把握されていなかった」との研究の背景を語る。働く女性や共働きカップル、または家族の介護を抱える従業員が増えれば従来の延長で転勤政策を実施することが難しくなる。その一方で転居を必要とする人事異動があるとする企業割合は増加傾向にある。企業のヒアリング調査、企業と個人を対象としたアンケート調査を実施。その研究結果によると、定期異動など異動を実施する企業は95.6%で、転勤可能性のある区分で採用されている大卒社員のうち、これまで転勤を含む異動経験がある従業員は74.4%。転勤回数は2.1回。一方、転勤経験がない従業員は全体の35.5%になっており、転勤対象の従業員でも転勤しない割合は比較的高いといえる。

「人材育成や経営上の理由から転勤は生じるが、従業員自身は転勤により能力開発が行われたという実感は少なく、満足している状況にない。転勤が異動経験よりも効果があると言えない結果となった。ここが一番問題だろう。内示から転勤までの期間が短かったり、赴任したらいつまで続くか分からなかったり、赴任期間や本拠地(メーンの勤務地)が不明確だったりすると、従業員の負担が大きくなる。転勤にあたってプライベートな生活での支障を6割が経験している。逆に、自分の希望を優先してくれたという従業員側の認識は転勤効果の実感を高める。今後は、転勤対象者の範囲や自身の転勤を透明化や可視化できる運用のあり方、本人の希望や事情との調整という面で検討を行うことが必要だろう」(武石教授)

総合職なら転居転勤は当たり前だという価値観、転勤をその会社への忠誠心と見なし"踏み絵"と見るような考え方、転勤したら次はどこに行くかもわからない"根無し草"の状態、そしていつ戻れるか分からないという不透明な運用は、女性を含む多様な人材の活躍が求められる時代においてはプラスにならない。それどころか従業員が退職や転職を考えるきっかけにもなりかねず、リテンションマネジメントの観点でも問題だ。よりきめ細やかな対応が必要であり、さらには転居転勤のあり方、必要性を問い直す時期にきているようだ。

地域型でも一定のエリア内での転勤を選べるオプションを

さて、企業はどのような転勤策を取っているのだろうか。

東京海上日動火災保険は、2016年4月に12年ぶりに人事制度を改定した。「04年に役割等級制度に基づいた人事制度がスタートしたが、10年が経過して社内外の環境が大きく変化してきたことに伴い、役割と等級がリンクしなくなってきたため、約1年半をかけて労使で協議を重ね、これまで以上に人材育成を後押しすべく、評価軸から役割(職務)を外し、コンピテンシーをベースにした制度に改定した」(人事企画部企画組織グループ課長・高木晶光氏)

同社はこれまでは、国の内外を問わず転勤のある「全国型」と、本人の同意なしには転居転勤のない「地域型」に分かれていたが、新制度では、国内外を問わない勤務地域とする「グローバルコース」と、一定の勤務地域において経験を重ねる「エリアコース」とし、さらには、エリアコースに一定のエリア内で転居転勤がある「ワイド型」というオプションを設けた。

転居を伴わないいわゆる「エリア総合職」の設計は転勤政策の1つの解決策ではあるが、同社はそこにワイド型を設けたのである。それはなぜか?

「全国型と地域型で、社員の経験・成長のスピードに差が生じがちな面もあった。エリアコースに一定のエリア内で転居転勤できるワイド型を設けることで成長の絶好の機会となる人事異動を従来よりも積極的に行っていく」(高木氏)

この4月の発令で想定以上の多くの女性がワイド型を選択したという。これには次の理由が考えられる。同社は赴任期間は限定されているが、地域型社員でも自ら手を挙げて新たな職務などにチャレンジできる制度があり、すでに一定数の女性が転居転勤を経験、中には海外転勤の事例もあった。そしてその女性たちが転勤で経験したことをイントラネット等で発信している。そのため転勤に対する理解が得られやすいということ、またワイド型には本拠地が設けられており、その一定エリアでの異動であるということも奏効しているだろう。

一方、地域型社員を幹部社員に登用する施策を取る企業も出てきた。イオンリテール(千葉市)では、17年春に人事制度を改めて、転勤のない「地域社員」が店長や部長など幹部クラスに昇進できる制度を導入する。同社は個人の経験や能力をもとに報酬を決める「職能資格制度」を採用しているが、中堅社員対象に新たに役職や職務の内容をもとに報酬を決める「役割等級制度」を導入。過去に転勤したかどうか等の経験ではなく役割に対する成果を評価の対象とすることで地域社員と全国社員の昇進の差を解消する。これにより多様な働き方を選択でき、育児や介護に携わる社員はもとより、多様な人材が活躍するとみている。また、地域に精通した人材や専門性を極める人材の育成にもつなげる。

北陸銀行(富山市)では、15年10月に12年ぶりに人事制度を改定し、転居転勤のない営業職を「エリア職」に名称変更し、上限職位を支店長補佐から支店長に引き上げた。「かつて銀行業務は融資が中心であったが、近年は金融商品販売も拡大し女性の活躍のフィールドが広がってきた。転居転勤を経験しない人材でも店舗機能によって運営は十分務まるとみている」(経営管理部人事企画グループ長・曽良亮太氏)

子連れで仙台に転勤、そこで得た一皮むける経験

最後に転居転勤を経験した女性を紹介しよう。キリンビールマーケティング東北統括本部の森美江氏だ。1989年に総合職として入社した森氏は、最初の2年は営業職として大阪に赴任、以後はずっと勤務地は東京だったが、14年4月に仙台市に転勤の辞令が出た。「総合職だから転勤は当たり前で、これまでたまたまなかっただけでその覚悟はあった」と森氏。当初は夫を東京に残し、小6(当時)の長男を連れて赴任した。長男はその後中学入学を機に東京に戻り、森氏は現在、単身で仙台に暮らす。

キリンには「10年3場所」という言葉がある。「入社8年、30歳くらいまでに複数の、10年で3つの職場・職務を経験すること」を奨励されている。全国型と地域限定型の総合職があり、全国型は女性も男性と同じように転勤をするが、これまで子どものいる総合職女性が少なかったこともあり、森氏は子連れ転勤の先駆けとなった。

「転勤で得たものは大きい」と森氏。「一番大きいものは時間ができたこと。平日は全部自分に使うことができ、仕事をやりきることができた。通勤時間が大幅に短縮され、2年半で6つの資格にチャレンジ、ビジネススクール2講座を受け、自己啓発も十分にできた。また今の職場は東京に比べ規模が小さいため組織全体が見渡せる。自分の裁量に任される仕事も増え、自然と自分の視座も高まったと感じる。キャリア形成に重要な"一皮むける体験"が高い成功率でできるのが転勤ではないかと思う」

森氏が転勤に対して満足度が高いのは、かねてから希望していた人事の仕事ができているということも大きいだろう。「40歳研修を受けたとき、自分の専門性を持ちたいと思い、それから人事系の仕事を希望していた」。現在総務部に属し、採用や研修にも携わる。また今の職場にはかつて仕事で一緒になった上司がいた。「初めての職場でも知っている人がいたので心強かった」。自分が働きやすいように多方面から配慮してくれたすえの配置転換だと感じている。「私の場合子どもの年齢が大きかったというのもよかったと思う。転勤に対する心理的ハードルは低くなった」と森氏は言う。

「当社には本人の職務の希望などを書くキャリア開発システムという仕組みがある。その希望と一人ひとりの適性を把握した上で、人事全体の配置を見て決めている。また、子育て期は転勤が負担になるのでできれば回避したいという声を受けて、13年から転勤回避措置制度を設けた」と同社多様性推進室室長の尾白克子氏。これは総合職が一定期間(最大5年間)転勤を回避できるという制度で、事由は育児や介護などのライフイベントに限定されている。介護事由でこの制度を申請した男性従業員のケースも出ている。

「当社は07年から女性活躍推進を進め、最近では入社10年目くらいの、31、32歳までの女性が層として定着してきた。その束になっている層が結婚や出産などのライフイベントに続々突入している。全国に事業所がある当社では、転勤はある程度避けられないが、女性たちが会社の制度を上手に利用しつつ、辞めずに順調にキャリアを積んでほしい」と語る。

前述の武石教授の研究結果では、キリンのように本人の申し出により転勤を回避できる制度がある企業は41.6%しかなく、従業員の希望を転勤に反映させる制度等の導入は少ないのが現状だという。転勤するのが難しい従業員が今後増えることが予想される。企業がやれること、やるべきことはまだまだあるのではないか。

麓幸子(ふもと・さちこ)
日経BP社執行役員。筑波大学卒業後、1984年日経BP社入社。2006年日経ウーマン編集長、2012年同発行人。2016年より現職。2014年、法政大学大学院経営学研究科修士課程修了。筑波大学非常勤講師。内閣府調査研究企画委員、林野庁有識者委員、経団連21世紀政策研究所研究委員などを歴任。2児の母。編著書に『女性活躍の教科書』『なぜ、あの会社は女性管理職が順調に増えているのか』(いずれも日経BP社)、『企業力を高める―女性の活躍推進と働き方改革』(共著、経団連出版)、『就活生の親が今、知っておくべきこと』(日本経済新聞出版社)などがある。
日経BPヒット総合研究所

日経BPヒット総合研究所(http://hitsouken.nikkeibp.co.jp)では、雑誌『日経トレンディ』『日経ウーマン』『日経ヘルス』、オンラインメディア『日経トレンディネット』『日経ウーマンオンライン』を持つ日経BP社が、生活情報関連分野の取材執筆活動から得た知見を基に、企業や自治体の事業活動をサポート。コンサルティングや受託調査、セミナーの開催、ウェブや紙媒体の発行などを手掛けている。

女性活躍の教科書

著者 : 麓幸子、日経BPヒット総合研究所
出版 : 日経BP社
価格 : 1,728円 (税込み)

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