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ぼくらのリアル相続

アパートローンの相続はそう簡単にいかない 税理士 内藤 克

2016/9/9

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 数年前、母親と共同でアパート経営をしているお客様から連絡がありました。「母が亡くなり相続が発生したので銀行にアパートローンの名義変更をお願いしたのですが、このままでは引き継げないといわれました。アパートは私が相続することになっているのに、そんなことがあるのですか?」と言うのです。

 翌日、銀行へ同行して確認したら「他の相続人に連帯保証人になってもらわないと融資できないかもしれません」と担当者は冷たい返事。アパートの収益力と相談者の返済能力が問題になったようです。

■民法上、債務は法定相続分で引き継ぐことになっている

 遺産分割協議の際には財産だけでなく、アパートローンなどの債務も誰が引き継ぐかを決めます。しかしこの取り決めは相続人同士では有効ですが、債権者が承認しなければ意味のないものになってしまいます。債務については民法上、相続人が法定相続分で引き継ぐことになっています。そのため相続人のうちの特定の人が引き継いで返済するとなると、その人に新規の融資をするのと同様な審査を経て、新しい金銭消費貸借契約を締結することになります。

 債務が法定相続分で引き継がれることになっているのは債権者を保護するためです。例えば借金だらけの相続人に債務を押し付けてしまった場合、その相続人はただでさえ返済がきついため、すぐに弁済不能状態に陥ります。その状態で破産してしまえば、計画的に返済を免れることもできてしまうからです。

 通常、相続が発生すると銀行は亡くなった人の銀行口座を凍結しますので返済も滞ってしまいますが、預金残高がある場合は引き落としを続ける銀行もあります。

 あるメガバンクの支店長に「医師や弁護士などの個人事業主に相続が発生して預金が凍結されると、家賃や給与の支払いが滞ってマズイことになるのでは?」と尋ねてみました。答えは「その案件ごとの緊急性や重要性で支店長が判断することになっている」とのことでした。

 本来、ローンだけでなく銀行預金も「可分財産」といって、分割協議を経なくても相続人が法定相続分に応じて取得できるという扱いになっています。ところが相続人がそれぞれ銀行に押しかけて自分の相続分の預金を引き出したら、後に銀行が相続人同士のトラブルに巻き込まれる可能性があるため、銀行は分割協議書や銀行独自の申請書(相続人同士の同意書)を相続人から取り付けているのです。

■相続対策で借りたアパートローンには注意

 冒頭の相談者の例で銀行が厳しいことを言ってきたのは、相談者自身に問題があったわけではありませんでした。亡くなった母親は、収益力の高い物件や逆に入居率の悪い物件などを複数所有していました。そのうち相談者が母親の遺言により相続することになった物件は、家賃収入だけではローンの返済が困難な「自宅併用アパート」だったのです。

 建築当時はバブル真っ盛りだったため家賃収入で毎月のローン返済ができ、ローン残高以上の額でいつでも売却できる優良物件でしたが、相続開始時には入居者も減り、近くに新築マンションも建築されたことで空室が目立ち、担保割れの状態になっていました。そのためアパートローンの返済は実は、別の物件のキャッシュフローから流用して賄われていたのです。それが今回の相続で、収益力のある他の物件は他の相続人が取得することになったため、自宅併用アパートの問題が表面化したわけです。

 これらのことから、相続対策としてアパートローンを活用している場合は以下のようにローンの組み換えや繰り上げ返済などの対策を講じ、物件ごとに「収益力とローンの返済」「資産価値と借入残高」のバランスを整えておく必要があると言えます。

(改善前)
Aアパート:家賃収入100万円 返済60万円
Bアパート:家賃収入180万円 返済220万円
  ↓
(ローンの組み換え後)
Aアパート:家賃収入100万円 返済100万円
Bアパート:家賃収入180万円 返済180万円
内藤 克(ないとう・かつみ) 税理士法人アーク&パートナーズ 代表・税理士。1962年生まれ、新潟県長岡市出身。90年に税理士登録、95年に東京・虎ノ門で個人税理士事務所を開業。97年に銀座で税理士・司法書士・社会保険労務士による共同事務所を開業。2010年に税理士法人アーク&パートナーズを設立。弁護士ら専門家と同族会社の事業承継を中心にコンサルティングを行っている。事例中心のわかりやすい講演にも定評あり。「士業はサービス業である」ことを強く意識し、顧客満足度を追求。日本とハワイの税法に精通し、ハワイ税務のコンサルティングも行っている。趣味はロックギター演奏。

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