昼食に健康弁当のすすめ 1食500kcalの満足感
健康弁当が注目されている。ビジネスパーソンがカロリーや塩分など、食事をコントロールしようとした場合、朝と夜は家庭で調整ができても昼食は外食に頼るケースがほとんどだ。特に外食のランチは、麺や丼など炭水化物がメーンのメニューが多い。
炭水化物や塩分、脂肪過多の昼食の帳尻を朝食や夕食で合わせようとすると、低カロリーであっさりとしたメニューにかたよってしまう。しかし、そうなると空腹感や物足りなさから食事コントロールに挫折してしまうことも少なくない。
となると、昼食を制する者が健康管理を制すのではないだろうか。東京ミッドタウンメディカルセンター 特別診察室長の渡邉美和子医師は「体にとって食事の力は非常に大きい。食習慣を改善することで多くの病気の予防や治療経過の改善に影響を与える」と考え、昼食に適した弁当のメニュー開発を監修。乳癌学会や内分泌学会、日本抗加齢医学会総会等で「健康弁当」を紹介した。コンビニや宅配の弁当も含めて探ってみたら、健康志向が加速していることが分かった。
乳癌学会で発表された"健康的でおいしい、プラスαのある弁当"
2016年6月に開催された第24回日本乳癌学会学術総会では、「心を癒やす見た目と五感を刺激する美味しさ」、「免疫力強化の腸内環境改善食材」、「生き生き美しく過ごすための抗酸化力重視」をテーマにメニューが開発された。もちろん、健康にいいだけではなく、食べておいしいことが大前提。そこにさらにプラスαの付加価値を盛り込んだ内容だ。
例えば、「バルサミコの3種手毬寿司」は一見マグロのような赤い寿司だが、赤い食品は、抗酸化成分のリコピンだけでなくさまざまな栄養成分が凝縮されたドライトマトを使っている。大根は、最強の抗酸化力を誇るワサビを出汁で戻したサフランに溶いてある。白米は用いず、もち麦と雑穀に、抗酸化力が高く深い味わいのバルサミコを煮詰めて酢飯にしてある。体感的には白米の3倍ほどの時間をかけて咀しゃくしたが、白米だけの場合に比べて歯ごたえや味わいに変化があるので飽きず、噛むほどに甘みがでてきてうまい。糖質はただ量を減らすだけでなく、ミネラルや食物繊維の多い雑穀を加える「バランスカーボ」にすることでおいしさが広がる好例だ。
好評だったのが「あかもくとわさび、あさりの寒天ゼリー寄せ」。あかもくはヤマイモやモロヘイヤのような粘りがあり、噛むとシャキシャキとした歯ごたえがある海藻。あかもくのフコキサンチンには、北海道大学の宮下和夫教授らの研究によってメタボリック症候群を改善する抗肥満作用が認められている。ねばねばとシャキシャキが同居した歯ごたえも楽しい。これだけ充実した内容で482kcal。食べごたえもあり充足感を得られた。
化学薬品や保存料なし、弁当で健康を手に入れる
メニュー開発にあたって渡邊医師がこだわった食品や栄養素は、緑黄色野菜、オメガ3脂肪酸、食物繊維、発酵食品、抗酸化食品の5つである。ショウガやワサビ、レモンやガラムマサラ、青ジソなどを効果的に用いて塩分や糖分が少なくても味わいに変化をもたせているのが特徴だ。
「市販のお弁当は大量生産が原則。調理法にも限りがあるので、野菜のゆで方一つでもしゃきっとした歯ごたえや色を保持するために試行錯誤で繰り返した」と健康弁当開発の苦労を語る渡邉医師。
調理後、時間を経て食べる弁当にはさまざまな課題がある。まず冷えてもおいしく食べられること。水分の多い食材は使いにくい。なかでも怖いのが食中毒。市販の弁当には衛生面の基準をクリアするための添加物等を使う傾向がある。
「そもそも健康弁当は、学会で"ガマンを強いることのない、おいしさを楽しめる食指導の知恵"を医師に対して啓発する目的で作られたのがきっかけ。外来での食事に関する健康指導は○○を食べてはだめ、食べ過ぎてはだめ、など禁止を強いる抽象的な表現が中心。反面、医師自身が多忙ということもあって自らの食習慣には無頓着な場合が多い。そこで生まれたのが健康弁当。化学薬品や保存料を使わずにお弁当を完成させるのは苦労が多いが、おいしさを楽しめる健康弁当の意義は大きい」(渡邉医師)
管理栄養士監修のコンビニ弁当
健康弁当はコンビニや宅配、外食業界でも注目されている。ファミリーマートでは管理栄養士の監修で塩分や栄養バランスに配慮したヘルシー志向の弁当を2015年から販売。これまで黒米入り麦ごはんを使用した「若鶏の甘酢あんかけ弁当」や「焼鮭とゴーヤチャンプルー弁当」などを発売している。いずれもカロリーは500kcal前後。
2016年3月には食の専門誌「dancyu(ダンチュウ)」編集部監修の下、糖質を抑えた「鶏の柚子こしょう焼き弁当(雑穀入りごはん)」(540円)と「野沢菜チーズおむすび」を発売し、現在第2弾の「ひじきごはんと鶏の一味焼き弁当」(430円)を販売。最新のメニューは、神戸市立医療センター中央市民病院の管理栄養士監修で開発した弁当第7弾「焼鮭とゴーヤチャンプルー弁当」。関西地方の約2100店舗で発売している。
ファミリーマートの広報担当者は、「健康的で、バランスを訴求した商品のリピート率が高い。健康志向の弁当は新たに50~60代及び女性層の獲得につながっている。認知度を上げ、通常のお弁当とは違った客層を取り込むことを目的に進めている」と語る。同社では、今後も健康弁当の開発に力を入れていくという。
ランチ時に夜食用を購入する人増加中。「タニタ食堂」の弁当
一方、宅配食サービスでも、健康志向が止まらない。「タニタ食堂」を展開するタニタが監修した「からだ倶楽部」の弁当は、タニタ食堂のレシピコンセプトに基づき、1食あたり500kcal前後、塩分3g以下とし、夕朝食のセットで厚生労働省が定める成人1日の野菜摂取目標である350gが摂取できる。全国に26カ所あるタニタ食堂では、弁当のテイクアウトが可能で、ランチを食べに来た客が夜食用に購入するケースも少なくない。
「1定食に付き約200g前後の野菜を使用し、大きめにカット。火を通しすぎない調理をすることで、噛みごたえのある硬さにするなど、弊社のレシピ本に準じた内容。毎日の昼食から健康的な食事の習慣を身につけてもらうのが目的」(タニタ広報部)。
健康管理に欠かせない昼食。自分でヘルシーな弁当を作るのが理想だが、忙しいときには健康弁当を活用して健康管理に役立てたい。
(文/永浜敬子)
[日経トレンディネット 2016年8月31日付の記事を再構成]
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