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家を買う前に 住宅ローン、固定型の魅力増す

2016/9/11

 筧ゼミでは「家を買う」をテーマに議論が続き、今回は住宅ローンを取り上げます。住宅ローンといっても、いくつか種類があるようですが、どんな点に注目して選べばいいのでしょうか。前回に続いて岡根知恵さんが発表します。

筧花子(かけい・はなこ、50=上)経済大学院教授。家計の経済行動や資産形成、金融リテラシーが専門。 宗羽士郎(そうば・しろう、23=中)大学院1年生。中堅証券「宗羽証券」創業家の一人息子。IT好き。 岡根知恵(おかね・ちえ、38)パート主婦。将来の家計に不安を覚え、金融知識を身に付けようと大学院に。

 岡根 まず知っておきたいのは、住宅ローンの金利は大きく分けて3タイプあることです。借りている間はずっと金利が変わらない全期間固定型、2~10年など借り入れ当初の期間だけ金利が変わらない一部期間固定型、通常は半年ごとに金利を見直す変動型です。

  住宅ローンは大きな変化が起きていますね。

 岡根 日本銀行が2月にマイナス金利政策を導入してから、銀行の住宅ローン金利の多くが過去最低水準まで下がりました。例えば当初10年固定型は8月時点で、三井住友信託銀行が年0.35%、三菱東京UFJ銀行が年0.5%でした。9月はそれぞれ0.10%上がりましたが、マイナス金利導入前に比べるとまだ大幅に低い水準です。

 宗羽 僕も新聞で読みました。でも銀行のホームページではもっと高い金利が表示されていますが?

 岡根 住宅ローンの金利は店頭で表示する基準金利と、実際に貸すときに相手の返済能力などに応じて割り引く適用金利があるのが一般的です。宗羽君がみたのは基準金利ですね。引き下げ幅が最も大きいのを最優遇金利といって、先ほどの10年固定型も最優遇金利の場合です。

  もう一つ、見逃せない変化がありますね。

 岡根 金利の逆転現象が起きています。3つのタイプの金利を比べると通常は変動型が最も低く、その次が一部期間固定型、そして全期間固定という順です。貸し出す期間が長いほど将来の景気や金融政策、借り手の信用力などがどうなるか見通しにくくなるので、適用金利が上乗せされるというわけです。

 宗羽 なるほど。

 岡根 ところが現在は変動型よりも固定型の金利が低い銀行が出ています。先ほど挙げた三井住友信託銀や三菱UFJ銀の9月の10年固定型は、変動型を0.025~0.15%下回っています。

  なぜ逆転したのでしょうか。

 岡根 固定型と変動型の基準金利を決めるときの指標が違うことが影響しています。固定型は新発10年物国債の利回りを、変動型は短期プライムレート(短プラ)という銀行が独自に決める金利を参考にします。マイナス金利導入後に10年債利回りは下がりました。短プラも従来は日銀の政策金利にあわせて変更してきましたが、今回は据え置かれています。理由はちょっと複雑で……。

  少し手助けしましょうか。短プラは住宅ローンだけでなく、中小企業に融資するときの目安にもなっています。短プラを引き下げると銀行は収益が悪化しかねないので、そう簡単に下げられないとの見方が多いですね。

 宗羽 結局どのタイプがいいのでしょうか。

 岡根 まず変動型は金利面での魅力が従来に比べて薄れたと言えます。多くの銀行で変動型よりも固定型を選ぶ人が増えているといいます。

 宗羽 固定型でも、やはり最低水準の当初10年固定型が有利ですか。

 岡根 そこは少し注意が必要です。今回調べたところでは当初固定型は当初の金利優遇幅が年2%超などと大きく、固定期間が終わった後は同1%台半ば程度に縮小する例が多いのです。固定期間が終わる時の市場金利が上昇していれば、優遇幅の縮小とあわせて適用金利がかなり上がる可能性もあります。

  将来の金利上昇に備えるのは重要ですね。

 岡根 はい。住宅金融支援機構の全期間固定型ローンである「フラット35」は主力の借入期間21~35年(融資率9割以下)の最低金利が9月時点で年1.02%です。一般的な変動型との金利差は約0.4%、変動型より低い水準の当初10年固定型とは0.42~0.57%の差です。わずかな金利を負担するだけで、金利上昇リスクを避けることができます。

  一段の金利低下などを見込み、変動型や一部固定型を使って短期にローン完済を目指す選択肢もありますが、一般的な世帯はまず全期間固定型に注目するのが無難でしょう。

 宗羽 金利以外でも競争があるようですね。

 岡根 最近は住宅ローンに付帯できる保険が注目されています。一般に住宅ローンを借りる人は団体信用生命保険(団信)に加入し、返済中に亡くなれば保険金でローンは完済されます。現在増えているのは、一命をとりとめたけど重病で働けない場合もローン返済をカバーする保険です。

 宗羽 どんな病気を保障するのですか。

 岡根 商品によって様々です。がんに絞る商品もあれば、脳卒中と急性心筋梗塞を加えた「3大疾病」を保障するもの、糖尿病なども加えた「7~8大疾病」保障もあります。注意したいのは保障を受ける条件です。診断が確定するだけでローンが全額返済になる例は多くなく、病気が原因で働けない状態が数十日から1年程度続くことを条件とする商品もあります。

  条件を満たすのは意外に難しいという指摘がありますね。収入やローンの借入額、保険料などよく比べることが大切です。

■付帯保険は必要性検討を
 ファイナンシャルプランナー 高田晶子さん
 マイナス金利政策の導入後も住宅ローンを検討する時の基本に大きな変化はありません。借入額と借入期間によって、自分に適した金利タイプを選ぶことが大切です。ただ全期間固定と変動の金利差が現在ほど縮小するのは異例です。マイナス金利政策はずっと続くわけではなく、金利差が再び広がる可能性も考えておきましょう。
 足元では金利が低下したので、ローン付帯保険に加入しやすくなったと考える人が少なくありません。しかし重病の際は家を手放してもいいと考えるなら、保険の必要性は薄くなります。付帯保険はローン返済中は中途解約できない商品もあるため、加入前に保障内容と保険料を慎重に検討する必要があります。最近は長期間働けなくなった場合に一定額を給付する就業不能保険が増えています。ローン付帯保険だけが選択肢とは限りません。(聞き手は堀大介)

[日本経済新聞朝刊2016年9月3日付]

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