G1初の外国人V ケニー・オメガが変える新日本マット
26年目の開催となった新日本プロレスリング恒例の真夏の祭典、シングルマッチリーグ戦「G1クライマックス」に、初めて外国人選手の優勝者が誕生しました。歴史を動かしたのは吸い込まれるような青い目をしたカナダ出身のプロレスラー、ケニー・オメガ選手です。年初の選手大量離脱で揺れた新日本プロレスでしたが、終わってみればその穴を全く感じさせない熱狂のG1でした。
オメガ選手が日本でのキャリアをスタートさせたのは独立系団体、DDTプロレスリングです。現在国内外のリングで注目を集める飯伏(いぶし)幸太選手とタッグチーム「ゴールデン☆ラヴァーズ」を結成、破天荒でパワフルなファイトスタイルと陽性なキャラクターがファンから愛されました。2014年に新日本プロレスに移籍してからは一転、クールな悪役レスラーに変貌し、現在はヒールユニット「バレットクラブ」のリーダーとして活躍中です。
オメガ選手の優勝は新日本プロレスのリングに決定的な変化をもたらしたように思います。それは「個」の時代から「チーム」の時代への移行です。
棚橋弘至、中邑真輔、オカダ・カズチカ、AJスタイルズのそろった昨年までの新日本プロレスは、今振り返るとごく限られたスターにのみ強くスポットライトが当たる「個人」の時代ではなかったでしょうか。この4選手ならばどの組み合わせでも品質保証済み、ひいきに関係なくすばらしい試合を見せてくれたことをファンは讃えました。ただ、どのユニットが抗争していたかの印象は薄くなりました。
昨年のG1でAB各ブロック公式戦のトリを務めたのはまさにその4選手でした。対して今年はというと、現行のユニット(ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン、バレットクラブ、CHAOS、本隊)のリーダー4人がその役割を担っています。ここ1年で一気にトップ戦線に食い込んだロス・インゴの中心人物、内藤哲也選手。それに続いてAJ選手からリーダーの座を引き継いだオメガ選手がついにG1で躍進しました。その結果、現時点で新日のリングは「ユニットのリーダー=4強」というわかりやすい体制になっています。
人気急上昇によりグッズの売り上げも好調のロス・インゴを苦々しく思っていたというケニー・オメガ選手ですが、リーダーがG1を制したことでバレットクラブもこれから盛り返していくでしょう。CHAOSでは今年のG1初出場でいちばん激変したと話題のYOSHI-HASHI選手に勢いがあります。惜しくも決勝でオメガ選手に敗れた後藤洋央紀選手もまだまだ大爆発しそうな予感を秘めています。そして結束力に難ありといわれがちの本隊ですが、ジュニアヘビー級を含め4つの王座を保持しています。
ひょっとしたら、これからの新日本プロレスはサッカーや野球のようにひいきのチームを「サポーター」的に応援する楽しさがもっと出てくるかもしれません。設立されて日が浅く位置づけがまだ定まっていないNEVER無差別級6人タッグのベルトが、ユニット抗争の象徴に育っていけばさらに盛り上がると思うのですが……。
新日本の「右肩上がり」を支えたのは前述の棚橋、中邑、オカダ、AJスタイルズ、そして飯伏のトップスター5名であることは間違いないでしょう。その分負担も大きかったと思います。マンネリと背中合わせの苦しさもあったはずです。
でも、状況は変わりました。「安定」の壁に阻まれて足踏みしていた選手たちが躍動し始めています。夏が終わったと同時にすぐさま視界に入ってくるのは来年のイッテンヨン(1月4日)東京ドーム大会。そこに向けての物語がこの秋に動き出そうとしています。
今回のイラストはケニー・オメガ選手の必殺技「片翼の天使」を描かせていただきました。相手を肩車した状態から一気に逆さに叩き落とす荒技です。決勝戦で後藤選手をマットに沈めたのもこの技でした。
(この連載は随時掲載します)
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