第64期将棋王座戦五番勝負 6日開幕
■羽生善治王座―「第一人者」最多24期へ 若手の棋風 吸収する
糸谷さんの棋風は力強く、思い切りがいい。2年前の竜王戦挑戦者決定三番勝負で対局したが、攻めより受けで独特の感覚があるという印象を持った。自分の玉をよく動かし、危険をいとわない将棋を指す。今回の佐藤天彦名人との挑戦者決定戦でも、糸谷さんの特色がよく現れていた。
時間の使い方にも特徴があり早見え早指し。早く指されるのは止められない。私も同じように早く指すわけではないが、見切りの良さは必要になるだろう。
今年度は(奪取された)名人戦、(フルセットで防衛した)棋聖戦、王位戦と、大変なシリーズが続いている。自己最長の6連敗も記録した。将棋の内容が悪く、深刻に受け止めている。これが不調であれば時間が解決するが、実力であれば解決しない。その見極めはしないといけない。
このところ実力ある若手との対戦が続く。自分が現代風の将棋に対応するには、若手との実戦のなかで勉強し、吸収することが大切だと思っている。また、古い将棋を再び持ち出すわけではないが、最新型だけでなく、長い経験をいかす方法もありうる。
五番勝負では、独特の将棋を指す糸谷さんが相手なので、自分なりに考えをまとめて臨みたい。楽しみでもあり、ちょっと大変でもある。おそらく乱戦やねじり合いの将棋が多くなるだろう。
■糸谷哲郎八段―挑む早指しの「怪物」 自分の力を試したい
トーナメントでは対局相手が厳しかったが、幸いにも勝ち抜くことができた。初戦、2戦目は得意な形になり、そのまま押し切れた。準決勝の稲葉陽八段と決勝の佐藤天彦名人は、子供の頃からよく知っている間柄だ。名人位を獲得したばかりで飛ぶ鳥を落とす勢いの佐藤さんに、挑戦者決定戦で勝てたのはうれしい。
一緒に研さんを積んできた20代の若手棋士が、次々とタイトル戦の舞台に上がっている。それは刺激になっていて、私も第一線から振り落とされないように、頑張らなければいけない。
私の調子はというと、竜王位を奪われた昨年よりは良くなっているはずだ。早指しで時間を余らせて勝つこともある。研究範囲内であれば、すぐに指すからで、研究を信じられないと元も子もない。ただ、五番勝負でそんな早指しができるとは考えにくい。
後手番で試してみたい戦型はある。横歩取りと一手損角換わりだけではないところを見せたい。同じことばかりしていると相手に狙い撃ちされるだけでなく、自分でも飽きる。途中からは力戦型になりやすいが、諦めずに粘っていきたい。
羽生先生は、私が子供の時からずっと王座。そういう強い方との対局で自分を試すことができるのは楽しみだ。羽生先生の調子がどうであろうと、五番勝負では、自分の体調をしっかり整えて挑みたい。
◇展望を聞く
五番勝負の展望を、ともに王座挑戦の経験がある久保利明九段(41)と中村太地六段(28)の2人に聞いた。=文中敬称略
――糸谷に勢いがある。
久保 中終盤のねじり合いの強さには定評があり、本戦でも、トップ棋士を相手に腕力の強さをいかんなく発揮した。難しい局面でも時間を使わずに正しい手をパッと指せるのがすごい。早見えという点では、歴代棋士の中でも三本の指に入るのではないか。
中村 少し苦しくなってから局面を複雑化させて粘る術にたけていて、挑戦者決定戦では、終盤、めったに間違えることのない佐藤(天彦名人)が間違えてしまったほど。以前は好不調の波が激しい感じもあったが、最近は見落としが減って、充実した成績につながっているのではないか。
――羽生の調子は。
久保 羽生が挑戦した王将戦で3月に立会人をし、不調な感じを受けた。案の定、その後、名人をあっさり奪われた。常に7割勝つ人が、名人戦第2局からの4連敗を含む6連敗を喫したのも驚きだった。詰みを逃すなど内容も良くなかった。ただ、その後は以前の状態に戻りつつある。
中村 一時は将棋界の外の人が「羽生はどうしたんだ」と話題にしたほど。内容も羽生らしくなかった。ただ、8月初めの棋聖戦五番勝負の最終局に勝ち防衛したのは大きい。挑戦者の永瀬(拓矢六段)をまったく寄せ付けない内容で、秋の王座戦に向けて調子を上げていく、いつものパターンになるのではないか。
――過去の2人の戦績は羽生の6勝5敗。
久保 印象に残るのが2年前の竜王戦挑戦者決定三番勝負。持ち時間が長く、タイトル戦に準ずる"本気の勝負"は初めてだったが、糸谷が2勝1敗で勝って竜王獲得につなげた。特に第3局はいい将棋をそのまま勝ちきり、糸谷が力をつけていることを示した。
――戦型予想は。
中村 糸谷先手だと角換わりの将棋になりそうだ。エースの戦法で、羽生も避けず、ガチンコの真っ向勝負だ。難しいのは糸谷後手の時。一手損角換わりが主力だが、これまでは羽生がうまく対応していて、今回は横歩取りを採用するのではないか。事前の研究をもとに横歩取りでリードを奪い逃げ切るのが、若手が羽生に勝つ数少ないパターンで名人の佐藤や糸谷も成功している。終盤型に見えて、序中盤も研究熱心な節があり、横歩取りで研究成果をぶつける可能性は大きい。
――糸谷が対局中に離席する光景をよくみかける。
久保 正座が苦手なのかも。後輩たちに見習ってほしい行為ではないが、とりあえず今回はやりたいようにやって、盤上で力を存分に発揮してほしい。
中村 羽生がどう感じるかだが、糸谷の将棋普及に対する姿勢は高く評価しているのではないか。それより早指しの糸谷が"時間責め"に出るか注目だ。
――勝敗予想は。
久保 糸谷が本戦の勢いを持ち込んで3-1で奪取と予想する。初戦に勝ち、最終局にもつれ込まないことが条件。王座戦は毎年、名局賞の候補になる面白い将棋が生まれる。今年も中終盤が強い棋士同士なので期待できそうだ。
中村 王座戦にめっぽう強い羽生の牙城を崩すのは容易でない。最終第5局では挑戦者の対局心理まで見透かしたように圧倒的な強みを発揮する。スコアも内容も拮抗しながら、最後は3-2で羽生勝ちとみる。
◇本戦トーナメント回顧 関西の俊英 熱戦
名人戦で羽生王座を下し初のタイトルを獲得した佐藤名人が前期に続き挑戦者になるか注目された。初のベスト4入りを決めた松尾八段との準決勝は持将棋模様の熱戦を制し、決勝に勝ち進んだ。
もう一方の山は前竜王の糸谷八段、A級入りした稲葉八段、前々期挑戦者の豊島七段という関西の俊英が激烈なつぶし合いを演じた。まず稲葉八段が豊島七段を撃破。タイトル初挑戦を目指したが、渡辺竜王を短手数で下した糸谷八段の前に屈した。決勝でも王座初挑戦を狙う糸谷八段の勢いが勝り、佐藤名人の連続挑戦を阻んだ。
対局日・対局場 | 立会人・新聞解説 | |
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第1局 | 9月6日(火) | 立会・森下卓九段 |
横浜ロイヤルパークホテル(横浜市) | 新聞解説・中村太地六段 | |
第2局 | 9月20日(火) | 立会・桐山清澄九段 |
ウェスティン都ホテル京都(京都市) | 新聞解説・稲葉陽八段 | |
第3局 | 10月4日(火) | 立会・大内延介九段 |
葉山館(山形県上山市) | 新聞解説・飯塚祐紀七段 | |
第4局 | 10月12日(水) | 立会・石田和雄九段 |
龍言(新潟県南魚沼市) | 新聞解説・松尾歩八段 | |
第5局 | 10月19日(水) | 立会・塚田泰明九段 |
常磐ホテル(甲府市) | 新聞解説・阿久津主税八段 |
第1局 |
東京・大手町、日経本社2階「SPACE NIO」(03・6256・7682) |
映画「聖の青春」公開記念、森義隆監督と先崎学九段のトークイベント、午後5時半開始 |
解説会は先崎九段、加藤桃子女流王座・女王、午後6時、いずれも無料 |
第2局 |
ウェスティン都ホテル京都(075・771・7111) |
斎藤慎太郎六段、船江恒平五段、都成竜馬四段、北村桂香女流初段、和田あき女流初段、ゲスト=稲葉陽八段、午後1時、1000円(別料金で指導対局あり、問い合わせは日本将棋連盟関西本部=06・6451・7272) |
第3局 |
葉山館(023・672・0885) |
鈴木大介八段、香川愛生女流三段、午後2時、2000円 |
第4局 |
龍言(025・772・3470) |
藤井猛九段、鈴木環那女流二段、午後2時、2000円 |
第5局 |
常磐ホテル(055・254・3111) |
木村一基八段、安食総子女流初段、午後3時、1000円 |
東京・大手町、日経本社2階「SPACE NIO」 |
映画「聖の青春」原作者の大崎善生氏と佐藤康光九段のトークイベント、午後5時半 |
解説会は佐藤九段、室谷由紀女流二段、午後6時、いずれも無料 |
〇全局、「ニコニコ生放送」(http://live.nicovideo.jp/)において、プロ棋士の解説つき生中継があります(現地・日経本社の解説とは別のものです)
〇第1局の現地大盤解説会はありません
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