過食が止められない… 早期受診が改善のカギ
食べているときに「おいしい」と思えず、食べ過ぎが止められなくなってきた、そう感じたら早めに専門家に相談したい。「誰もがときには食べ過ぎることがある。食べてしまった、と一時的には後悔しても、楽しく食べられてよかった、と肯定的にとらえられれば大丈夫。ただ、食欲の制御が難しくなり、吐く目的で家にあるものを手当たり次第に食べるような行為が習慣化すると、摂食障害の可能性が高い」と、牧野クリニック診療部長の牧野真理子医師は話す。
摂食障害とは、食行動に異常が起きる心の病気で、極端に食事を減らす"拒食タイプ"と、大量に過食して吐いたり下剤を使って出す"過食タイプ"がある。長期間続くと、自責感からうつ病になったり、衰弱して突然死することもあるという。「治療は数年単位でかかることが多いが、早期に受診すれば1年ほどで治るケースもある」(牧野医師)
過食タイプの場合、吐くことによって飢餓感がさらに強くなるので「吐かない」ことをまずは目標にする。ストレス源の出来事や吐いた時間などの行動記録をつけてもらい、過食するタイミングを明らかにする。
「例えば会社から帰る前にコンビニに寄ってたくさん食べ物を買う人は、会社を出る前に抗うつ薬をのむことによって、過食の衝動を和らげることができる」(牧野医師)。こんな自分はダメ、という自己肯定感の低さが患者さんの共通点だそうだ。「カウンセリングで自らのいいところを見つけ、近い将来の目標について考えるなどして、自己肯定感を高めていくことによって、少しずつ改善していく」(牧野医師)
摂食障害のサポート協会が発足
全国の摂食障害の家族会や自助グループと連携し、医学的知識の正しい理解の普及を図るため、2016年3月に「一般社団法人日本摂食障害協会」が発足した。理事を務める内科医で、政策研究大学院大学保健管理センターの鈴木眞理教授は、「厚生労働省の患者調査(2013年)によると、医療機関で摂食障害と診断された人は約2万3000人。ただ、病気という認識がない人、隠したがる人が多いのもこの病気の特徴で、体重が正常範囲内であれば本人の申告なしでは発見が困難。国内患者はさらに多く20万人いてもおかしくないと考えている」という。
女性だけの病気と思われがちだが、実は働き盛りの男性の摂食障害も増えているようだ。多様なストレスが引き金になるケースが多いことがわかる。
摂食障害は、海外でも治療が難しい病気であることは変わらないが、「例えばイギリスでは外来での治療が充実しており、かかりつけ医から地域のメンタルヘルスチームとの連携が行われ、当事者や家族向けの相談やサポート体制も充実している」と鈴木教授。
日本摂食障害協会では、今後、患者と接する機会の多い管理栄養士やスポーツトレーナーなどに向けて勉強会を開催するほか、摂食障害の当事者や家族への相談業務も予定しているという(詳しい情報はhttp://www.jafed.jp/を参照)。
この人たちに聞きました
牧野クリニック(東京都・中野区)診療部長。北里大学医学部卒業。オーストラリア・メルボルン大学医学部大学院修了。医学博士。心身医療内科専門医、日本心療内科学会登録医、優秀専門臨床医。摂食障害の治療にも積極的に取り組む
メンタルレスキュー シニアインストラクター。1982年、防衛大学校を卒業後、陸上自衛隊入隊。心理幹部として多くの隊員のカウンセリングを手がけ、2015年に退官。現在、講演や研修会、カウンセリングやコーチングなどを手掛ける
(ライター 柳本操、構成:日経ヘルス 太田留奈)
[日経ヘルス2016年10月号の記事を再構成]
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。