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家を買う前に ローン返済、手取り2~3割が目安

2016/9/4

 筧ゼミでは今週から「家を買う」をテーマに議論します。住宅ローンの金利が歴史的な低水準にあるなか、住宅を買うときどんな点に注意すべきでしょうか。初回の発表者は岡根知恵さん。いつにも増して真剣な表情です。

筧花子(かけい・はなこ、50=上)経済大学院教授。家計の経済行動や資産形成、金融リテラシーが専門。 宗羽士郎(そうば・しろう、23=中)大学院1年生。中堅証券「宗羽証券」創業家の一人息子。IT好き。 岡根知恵(おかね・ちえ、38)パート主婦。将来の家計に不安を覚え、金融知識を身に付けようと大学院に。

  まずはテーマを選んだ理由を教えてください。

 岡根 はい。我が家は賃貸アパート住まいなのですが、そろそろマイホームを考えようかと夫が言い出したのです。勤務先の銀行で住宅ローンの扱いが増えていて、いまは買い時かも知れないというのです。

 宗羽 確かに住宅ローンの金利は下がっています。

 岡根 住宅ローンのタイプは大きく分けて、長期金利に基本的に連動する固定型と短期金利に連動する変動型があります。特に低下が目立つのは固定型ですね。例えば10年固定型は、みずほ銀行の8月適用金利で年0.650%と過去最低となりました。日銀がマイナス金利政策の導入を発表する前の昨年12月は1.2%でしたから、ほぼ半分の水準です。

  私が愛する夫とマンションを買った10年前は3%台だったから、ちょっとショックです。

 岡根 固定型の金利は変動型より高いのが一般的でしたが、最近は銀行によって変動型を下回る例もあります。住宅ローンコンサルティング会社のMFS(東京・千代田)の代表取締役、中山田明さんは「マイナス金利の導入に加えて、金融機関の顧客獲得競争が激しくなっていることが背景です」と説明しています。

  住宅購入では税制面の優遇も見逃せませんね。調べていますか。

 岡根 例えば住宅ローン減税があります。住宅の新築やリフォームのためローンを組んだ人は10年間、毎年末のローン残高の1%が所得税などから控除される制度です。本来は2019年6月末で終了する予定でしたが、消費税率の引き上げを再延期するのにあわせて、2年半延長することが閣議決定されました。しかも現在なら、金利が1%を下回る住宅ローンを借りてローン減税の対象になれば、支払い利息より控除額の方が多くなる計算です。

 宗羽 なるほど。住宅を買いたい人にとっては追い風が吹いていますね。迷うことはないのでは?

 岡根 ところが肝心の住宅価格が全般に上昇傾向にあるのです。不動産経済研究所(東京・新宿)の調査では、首都圏の新築マンションは5000万円台後半で高止まりしています。日銀の積極的な金融緩和による資金流入のほか、東京五輪・パラリンピックを控えて建設需要が高まり、資材価格や建設作業員の人件費が高騰していることなどが背景にあります。

 宗羽 新築マンション以外はどうですか。

 岡根 価格が比較的安く、物件数も多い中古マンションにも新築の値上がりが波及しています。東京カンテイ(東京・品川)の調査では、7月の首都圏の価格は70平方メートル換算で3494万円と前年同月に比べ14%上昇しました。マンションと比べて郊外にあることの多い一戸建て住宅をみても、新築・中古ともじりじりと値上がりしています。住宅ローン金利が低いからといって高額の物件に飛びつくと、返済の負担に悩むことになりかねません。

  やはり資金計画が大切ですね。家を買うとき、予算は何を目安に決めればいいのですか。

 岡根 大切なのは身の丈に合ったローンを組むことです。毎月の返済に追われて貯蓄ができなければ、例えば子どもの教育費や自分たちの老後資金に差し支える可能性があるからです。予算は収入や家族の年齢、ライフプランなどで様々ですが、ファイナンシャルプランナー(FP)の竹下さくらさんは「住居費は手取りの約2~3割が一般的な目安」と話しています。例えば毎月の手取りが40万円なら12万円が住居費の上限で、残りの28万円は生活費や貯蓄などに回します。

 宗羽 つまり毎月12万円返済の住宅ローンを組むということですね。

 岡根 必ずしもそうではありません。住宅を買うと固定資産税などを払わなければなりません。火災・地震保険料や、マンションであれば管理費、修繕積立金も必要でしょう。こうした維持費がいくらかかるかは千差万別ですが、ひとまず月2万円と想定するとローン返済に充てられるのは月10万円です。期間35年・固定金利1.5%の条件でローンを組むと、借入額の目安は約3270万円という計算になります。

 宗羽 住宅を買うときは頭金が大切と聞いたことがあります。購入価格の2割が目安の一つだとか。

 岡根 原則としてはそうです。全額を住宅ローンで賄うよりも借入額が減る分、返済負担も少なくなります。例えば先ほどのローンと同額の物件を買うとき頭金が2割の654万円あれば、借りるのは2616万円に減ります。利息を含めた総返済額は3364万円で、月当たりの返済は8万円になります。

  ただし最近は2割の頭金にこだわる必要性は薄れたという見方もでています。住宅ローン金利は現在のような低水準がずっと続くとは限りません。頭金をためている間に金利が上昇するくらいなら、早めに契約した方が結果として返済負担が減る可能性があります。この場合も、しっかりした資金計画が必要なことは同じですね。

■早めの返済計画が肝心
 ファイナンシャルプランナーの竹下さくらさん
 家を購入する予定のある人は、早くから準備することをお勧めします。持ち家があれば退職後に支払う住居費を抑制でき、老後資金にも余裕がでやすくなりますが、退職までに住宅ローンを完済するのが大前提だからです。無理なく返済するには早めの計画が肝心です。また住居費には住宅ローンの返済だけでなく、修繕にかかる費用が必要なことも認識して準備しておきましょう。
 退職後も賃貸に住むことを考える人がいますが、現役世代と同じ条件で借りられるとは限りません。単身者の間では老後の住まいに保証人不要の都市再生機構(UR)の賃貸を想定する人がいるとの話をよく聞きますが、入居するには収入や預貯金に条件があります。人口減少で空き家が増えたとしても、必ずしも快適に住める物件ばかりではないことにも注意が必要です。(聞き手は藤井良憲)

[日本経済新聞朝刊2016年8月27日付]

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