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「半年で2度の流産」マタハラ職場はここまでひどい

日経DUAL

2016/9/15

日経DUAL

 2016年1月に『マタハラ問題』(ちくま新書)を出版した、マタハラNet代表・小酒部さやかさん。自身が体験したマタハラについて詳しく語ります。2回に分けてお送りします。

■妊娠を理由にした解雇や退職強要は違法

―― 書籍を拝読し、大変ショックを受けました。小酒部さんがマタハラを受けたことは知っていましたが、本に書かれていたような詳細までは知りませんでした。一般的にも「マタハラという言葉は知っている。でも、実際はその深刻さを知らない」という方は多いと思います。おつらいと思いますが、改めてご体験をお話しいただきたいと思います。

小酒部さやかさん(写真:村上岳)

 今だから平静を取り戻していますが、今回の書籍の原稿を書く作業はすごく苦しかったです。原稿はマタハラNetのブログにアップしたものを基にしたのですが、ブログ用に初めて文字に起こしたときも苦しかった。私が行った裁判は労働審判で、証拠として録音を書き起こすのですが、それも同様につらかった。私と同じように「体験を語ること、思い出すこと」さえつらいという人はたくさんいると思います。

 男女雇用機会均等法で、妊娠を理由にした解雇や退職強要は違法であり、それを犯すマタハラは不法行為になります。流産や早産に発展する危険性もあります。深刻なハラスメントにもかかわらず、「マタハラ」という言葉が問題をチープな印象にしてしまい、損になるのではないか、ということをよく人に言われます。

 それは分かっていましたが、私は言葉の浸透速度を取りたかった。とにかく、一刻も早く、マタハラに対する問題意識を社会に浸透させなくてはいけないと思った。それぐらい、怒りが込み上げていたし、同じように苦しんでいる人がいると思うと、居ても立ってもいられなかったんです。

■「妊娠したら無事に出産できるものだ」と思い込んでいた

―― では、そのマタハラ体験をお聞かせください。何があったのでしょう。

 私は2回の流産を経験しています。2回の流産手術の負担で、あれから3~4年近く経った今も妊娠できず、不妊治療を続けています。

 当時担当していたのは、顧客向けの季刊誌のディレクションの仕事でした。記事内容や紙面をリニューアルするタイミングで、最初の妊娠が分かりました。納期を外したら雑誌は発行できず、それは絶対に許されないことです。私だけが仕事内容を把握していた状態だったので、誰を頼ることもできませんでした。

 私がバカだったのは「妊娠したら無事に出産できるものだ」と思い込んでいたことです。自分が流産するなんて思ってもみず、毎日、深夜残業をしているうちに、おなかはどんどん張っていく。医師から「妊娠初期は子宮が大きくなるから下腹部が張るもの」と言われていたので、こうやって痛くなるのが普通だと思っていました。それどころじゃない。「仕事の納期をきちんと守らなきゃ」と意識がそこにばかり向いていました。本当にバカだったんです。

 「妊娠はまだ隠しておかなきゃ。安定期になったら言おう」……。勝手にそう思っていたんです。周りに迷惑は掛けられないと思い込んで自分で自分にマタハラをしていた。そして、あるとき、おなかに激痛が走り、流産したわけです。おなかが張っていたのは、異常サインだった。それに気づくことができなかった。

■「あと2~3年は妊娠なんて考えなくてもいいんじゃないの?」

―― おなかに激痛が走ったのは妊娠何カ月目くらいのときだったのでしょうか。

(写真:村上岳)

 1回目の妊娠では8週のときでした。初回の検査では心拍が見えていました。小さな命が一所懸命息づいているのが分かって、うれしかった。でも、激痛が走ってからは、もう心拍は見えなくなっていました。2回の流産とも「稽留流産」という胎児が子宮の中にとどまってしまう流産で、手術が必要で入院したんです。

 一度目の流産の後、「こういうことはもう二度と嫌だ」と思って、業務改善をお願いするために、意を決して上司と話しました。妊娠の報告もしていないうちに流産の報告を会社にしなくてはならないのは、とてもつらかった。それでも会社の業務に穴を開けないためだと思って相談したんです。

 「実は妊娠していたのですが流産しました」「私一人しかこの業務を把握しておらず、今後も万が一のとき、業務に差し障りがあるので他のスタッフと情報を共有させていただけませんか。あとは、私と一緒にフルで、行動を共にできるアシスタントをつけてください」。こう相談しました。

 それを受けた上司の最初の一言が、「あと2~3年は妊娠なんて考えなくてもいいんじゃないの?」というものだったんです。私が35歳のときの話です。

―― 会社のマネジメントの話や仕事の進め方の話をしていたのに、個々人の話に転嫁してしまう上司だったのですね。経営体制の弱さが浮き彫りになっているのに、対処しようとしなかった……。

 振り返ってみれば“能力のない上司”だったという一言に尽きるんです。私は何回も自分からコミュニケーションを取り、何度もベストな解決法を導き出そうとチャレンジしていたわけです。人事部ともそうやって何度も話し合いをしたのに、一度も理解を示してもらえなくて、それが一番つらかった。

―― なぜそういうことになってしまうのでしょう。信じられません。

 「マタハラ」の「マ」の字も知られていないときでしたから、会社にも上司にも「これが重大な問題である」という認識が全くなかったんです。それよりもむしろ「自分たちは良いことをしている」と思っていましたから。

―― 良いこと、を?

 「妊娠したなら辞めろ」と言うことが、良いことだと思っているんです。最初の流産から半年経ったころに2回目の妊娠をしたのですが、その間も全く業務改善はされずに、私だけに仕事を押し付けられている状態でした。本には書かなかったのですが、本当にその直属の上司はダメな上司で、雑誌の制作会社とも喧嘩をしてしまって、制作会社のほうから「仕事を降りたい」と言われてしまうような人だったんです。

 2回目の妊娠のときは最初から切迫流産の状態でした。胸もおなかも張っておかしい。それですぐに妊娠に気づいたんですね。もう悲惨な思いは嫌だと、急いで病院に行き、医師の切迫流産という診断書のもとに1週間休むと、自宅にその上司がやってきた。そこから4時間に及ぶ退職強要が始まったんです。

 あの日は上司から突然電話が来て「私の自宅の最寄り駅まで来る」と言われました。ちょうど真冬の時期で、切迫流産の状態で外出はしたくなかった。仕方なく夫に立ち会ってもらい、家に来てもらうことにしたのですが、家に上がり込まれて揚げ句の果てには「酒はないのか」と要求され、上司は飲んで帰っていきました。「休みの日におまえのことを思って自宅にまで来てくれる、こんないい上司がどこにいる?」と言って、本人はほろ酔い加減で悦に入っていました。上司はそれで「自分はいいことをした」と思っているわけです。

―― 「仕事のことより、子どものことを考えて仕事を辞めろ」と言われたわけですね。

 はい。でも、その上司一人に限りません。会社に行けば、その上の上司からも「説教だ!」と言われる始末です。切迫流産で弱っている女性に対して使う言葉とは思えないくらい、暴力的な発言ばかりぶつけられました。

―― どういう言葉だったのでしょうか。

 職場でいきなり「説教だ!」と言われ、「君は命の重みが分かってない」「自分と奥さんも不妊治療をしていたけれども、奥さんの妊娠が分かったらすぐに仕事を辞めさせた。君のご主人はおかしいんじゃないのか?」というような内容でした。

 向こうにとってみれば、私がクレイジーなんです。「何で流産をして、また会社に来るの」「何で切迫流産なのに、まだ仕事続けようとするの」と。4人の上司全員がそうでした。結局、人事部からもマタハラを受けることになったわけです。

■「おかしいのは自分かもしれない」と思うようになって……

―― 希望の「き」の字もない。本当は「それでも働きたいと言ってくれる人」にどうやって働いてもらうか考えるべきところですよね。

 でもそこまで言われると段々と「おかしいのは自分のほうかもしれない」と思い始めるんです。私は自分を責めるようになりました。自分が間違っているのではないか、と。自分に自信が持てなくなってしまった。だから、毎日泣いていました。流産だけでも苦しいのに、それに関して赤の他人から説教されるわけです。

 一番傷ついたのが「お前が流産するから悪いんだろ」と言われたことです。本当にショックで息が止まるかと思いました。親でさえ、主人でさえ、そんなこと言わないのに、何で全く関係のない他人にそんなこと言われないといけないのか、と。そんなこと言われなくたって、十分自分のことは責めているわけですよ。

―― それで、会社との関係はどのようになっていきましたか。

 2回目の流産から1年近く勤めました。2回目の流産から半年後くらいに卵巣機能不全になってしまったんです。半年の間に2回流産して手術をしたので、子宮が疲弊して排卵がうまくいかなくなり、さらにはホルモンのバランスも崩れてしまったのです。

 めまいや頭痛、下腹部痛がひどくて、それを産婦人科の先生に相談したら、「下腹部痛は卵巣機能不全のせいだが、それ以外のめまいや頭痛は何かストレスが原因なのではないか」と言われました。ストレスの原因は上司たちしか考えられませんから、人事に行って相談したんです。しかし、本来であれば相談窓口であるはずの担当人事が、問題のもみ消しに走って、人事部長までもが「仕事と妊娠を取るのは欲張りだ。仕事をしたいのなら妊娠は諦めろ」とまた説教を繰り返しました。この会社のマタハラの根源は、この人事部長なのだと知りました。(以下、後編に続く)

(ライター 水野宏信)

[日経DUAL 2016年7月27日付記事を再構成]

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